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第一章 迫り来るもの



 ただ貴方を待っています



 いつまでも晴れない靄と



 本当の気持ちを捜しながら



 それでも貴方だけを想う……



 貴方だけを……





 …………



 いつまで待てばいいですか?



 もう待てないかもしれませんね



 抑え込んでいたものが



 際限なく膨れ上がっていきます



 …………





 ああ、これは私のせい……



 貴方と再会するなんて思いもしなかった



 あの頃の私のせい……



 ごめんなさい……私は……







   ――魔道砲と砂塵の訣別――



    第一章 迫り来るもの







「あっ、あれは何でしょう?来る時は一人で急いでいたもので、見るものが新鮮で困りますね。」


 ちょろちょろと動き回るアルトラを見守りながら洞窟をゆっくりと歩いて行く。彼女が先行する分には全く問題がない。何故なら洞窟に入って早々ロックヘッドに襲われたが、たった一撃で壁まで吹っ飛ばして退却させて以降遠くから視線を感じるだけで何者も近付いて来ようとはしないからだ。守護龍の娘……見た目に騙されてはいけないな。そもそも一人でロワールまで来てたわけだし……


 そういえば、ロワールではカスタードに抱えられて調査していたが、出発する時からはミューと手を繋いで引っ張って回っている。二人で話す機会でもあって仲良くなったんだろう。ついでに言えばカスタードの豊かな部分に背中を圧されてちょっと苦しかったとは聞いた。


 ふと、リリィクの方を見る。目が合って微笑んでくれたが、まだ父さんから聞いたこととか話せてないからかちょっと後ろめたい。急にラトラ行きが決まったということもあるが、夜に時間を作ってでも話しておくべきだったか。


「勇人、どうかしましたか?」


「ああ、そういえば父さんから聞いたこと話せてなかったなって思ってな。」


「……そうですね。ですが、歩きながら話すようなことではないのでしょう?」


「そうだな。俺自身まだ納得しきれてない部分もあるし、出来れば腰を据えてゆっくり話したい。」


「考える時間が必要なんですね?そういうことでしたら、ラトラに付いて一段落してから聞かせてください。私、待てますから……」


「ああ、助かる。」


 さあ、遅れています。行きましょう、と言って手を引くリリィクに連れられて歩く。前を歩いていたカスタードがそれを見付けてゼオに何かをせがむも流れる様に断られてむくれている。

まったく、仲がいいのか悪いのか……いや、間違いなく仲はいいんだよな。


 歩きながら考える、龍弥の事を。父さんと話したからだろうか、妙にあいつの事を懐かしく感じてしまう。あの時言っていた言葉を信じるなら七美もここに居るということになるが、一体何処に居るんだろう?向こうの状況が分からない以上何ともできないのがもどかしい。出来ることなら二人からも話を聞いておきたい。俺達の過去に何があったのかを。


「わぁ、綺麗……」


 気付けば地底湖までたどり着いていた。


「ねえユウト、ちょっと気になること聞いてもいいかな?」


「なんだ?」


 ゼオが俺に話し掛けながら周囲を見渡す。


「何だか周りが綺麗すぎないかい?この辺りは君の魔道砲の影響がないとおかしいはずなんだけど……」


 言われてみればそうだ。アルトラがロワールに来た事から落石なんかは除去できていたんだろうと考えていたけど、あのとき放った魔道砲は間違いなくこの辺りを焼き焦がしていた。それが……


「ピカピカだな……まるでサービスで磨いておきましたとでも言わんばかりの……」


 壁に触れてみる。……ツルツルだ。岩でも磨き込めばこんな風になるんだな……


「ふん、そういうことが出来るのには心当たりしかないがな。」


 ミューが呆れたように言い放って近くの岩に腰を下ろす。アルトラは地底湖をじっと眺めている。ついでに休憩しようということだろう。


「エーテル共も呆れてる。どうせリクシーケルンとやらの仕業だろう。」


 彼女なりに後始末でもしていったつもりなんだろうか?ちょっとやり過ぎな気もするが……


「アルトラちゃん、あんまり前に乗り出して落ちないようにね!」


「あ、大丈夫です。落ちてもすぐに戻ってこれますので。」


「んぅ?そ、そうなんだ……」


 何かさらっととんでもない会話が聞こえた気がするが気にしないようにしよう。俺達もそれぞれ思い思いに休憩に入る。


「そういえばキリくん、私の考えた特訓メニューってまだやってたりする?」


「まだもなにも、結局一回もやってないぞあれは。」


「いやぁ、やってたら面白いなぁと思うわけじゃん?」


 やったら死ぬとか言ってなったか?


「冗談はさておき、これから先、鍛錬とかどうする?今すぐにとかは言わないけどキリくんが続けたいならいつでも手伝ってあげられるよ、アタシ。」


「そうだな、時間がある時に頼むよ。」


 彼女と手合わせしている時間は中々新鮮だった。こちらの動きに合わせて即座に臨機応変に対応してくれるのはとてもいい経験になる。何よりも命懸けでないのがすごくいい……


「ふむ、ならば私ともエーテルの使い方の鍛錬でもしてみるか?時間がなくても夢の中で出来るぞ?」


 ミューによる鍛錬といえば、あの時のあれか……。役に立ったことは確かなんだが、教わるという点では不安しかない。


「……それはやるなって言っても勝手にやるつもりだろう?」


「そうだな。」


 ニヤリと笑って答える。これから俺の安眠はなくなってしまうんじゃないだろうか……


「勇人、無理だけはしないでくださいね。私は何もできそうにないので……」


「あ、ああ……」


 少し胸が苦しくなる。思えばバーゼッタに居た時はそういったことは全部リリィクと一緒にやっていた。ここにきてより適した人材がそろってしまえばそちらに頼るのは当然だ、彼女もそれを理解しているんだろう。だからこそ歯痒い思いをさせてしまっているんだろうな……。そしてそんな彼女に気の利いた一言も掛けてあげられない自分が腹立たしい。


 そっと手を握ればいつもより強く握り返してくる。痛いぐらいだ……


「お待たせしました。地底湖、まだまだ観察しがいがありそうですが、あまりゆっくりしていてもいけないでしょうから。」


「もういいのか?私は別に構わないが。」


「うんうん、急かすつもりなんてないからさ、アタシ達の事は気にしなくていいよ。」


 アルトラは一瞬考えたが、やはり出発しましょうと言ってミューの手を引いて行った。休憩は終わりだ。俺達も彼女に続く。


 リリィクの手は俺の手を強く握りしめて離さない。思えば歩きながらでも話せばよかったんだ。考えたい、時間が欲しいなんて都合のいい言い訳をして、俺はここにおいてもとんでもない事態の引き金を引こうとしていることに気付けていなかった。その積み重ねが彼女を完全に……


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