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7:ローデリックサウス学園

 学園内の空気はいつも以上にピリピリしていた。

 それもそうだろう。

 理事長の機嫌がすこぶる悪いのだ。

 警視総監をタコ殴りにしても罪に問われない人物。

 無敵の人。

 上級国民。

 有罪でも無罪になる治外法権人物。

 それらを具現化したのがコイケという男であった。


 政党だけでなく、各大臣クラスの人間とのコネクションを持ち、莫大な資金源による支援の見返りに身の安全や気に入らない相手を陥れるように指示を出せる。

 総理大臣よりも偉い人物なのだ。

 実際に、コイケのやり方に反発していた前総理は暴漢に襲われて殺害された。

 この国の影の支配者といっても過言ではない。

 そんなコイケは学園内にいるかもしれないアカミネに同情的な人物の排除を行う事を決めた。


 警視総監、魔法省長官、カワリ医院長が学園を出てから3時間後に学園で在校している生徒にむけて理事長自らスピーチを行う。

 全学園生徒4000人。

 教員・臨時職員は200人。

 首都圏でも最も大規模な学校であると同時に、ここに集まっているのはただの学生ではない。

 全国から集まった秀才やスポーツ選手、貴族などがローデリックサウス学園に入学しており、事実上この学園はこの国で一番の成績を誇る優秀校でもある。

 一般人は入学はおろか、学園に足を踏み入れることすら許されていない。

 まさに選ばれた人間のみ通うことを許されている。

 そうした学生たちが大広場に集められる。

 広場で集音魔法を唱えてコイケは生徒に説明をした。


「学園理事長のコイケです…皆さんもご存知かと思いますが、我が学園の生徒が許し難い暴力行為を行い、現在学園から逃亡しております!その生徒をもし学園内や街で見つけたら速やかに教職員に伝えるように!その生徒は普通科3年6組のアカミネ・ジローです!後でホームルームにて彼の顔写真を配ります!」


 集まった在校生たちも理事長が行う話を予め予想していた。

 しかし、説明には多くの矛盾が含まれている。

 それは理事長の孫であるコイケ・レンジが暴力行為を行った事。

 同級生であるアカミネ・ジローが犯人扱いされている点だ。

 レンジがアカミネを意識不明の重体に追い込んだのだ。

 少しだけ、物語の時系列を遡るとしよう。


 ……◇……


 事件の発端はレンジの()()()()であった。

 お昼休み…。

 広場から200メートル離れた売店の近くで、レンジは自分好みの亜人エルフ種の女子生徒を見つけて声を掛けた事から始まった。


「おやおや、君…こんな所で何をしているんだい?ずっと一人で立っているみたいだけど…どうしたのかな?」


「…いえ、友達を待っているんです」


「友達かぁ…君みたいな女の子と友達になれたらどんなにいい事か…良かったら俺を友達になってくれないか?いや、今この時点で俺と君は友達になったんだ!ああ、友達は多くいたほうがいい、そうだろう?そうだよな?」


「えっ…?えっ…?」


 唐突に女子生徒はレンジの友達になってしまう。

 これに女子生徒は困惑してしまう。

 誰だってそうなる。

 むしろ恐怖すら感じてくるだろう。

 女子生徒の背筋は急速に冷えていく。

 周りにいた生徒たちはレンジに絡まれた女子生徒に憐れみの視線を送っている。

 女子生徒はすでに涙目になっていた。

 逃げようにも、周囲にはレンジの取り巻き…もといボディーガード役の生徒がいるのだ。

 下手をすれば彼らに捕らわれてしまう。

 そう判断した女子生徒は何とかしてこの場を抜け出そうとする。


「…そ、そうですね…では用事を思い出しましたのでまた後で…」


 女子生徒がこう言ってきたら99%の男子はこれで引き下がるだろう。

 そう99%は…。

 残りの1%はそれでもしつこく食い下がる。

 レンジはそうした1%に該当するタチの悪い人間だ。

 当たり障りのない回答をしたつもりだった。

 しかし、この回答はレンジからしてみると親切心をバカにした発言に捉えたようだ。


 -ガシッ


 女子生徒の右腕を掴む。

 突然右腕を掴まれた女子生徒は悲鳴をあげる。


「いやぁ!!!な、なにをするんですか!」


「だってさっき友達を待っているって言っていたじゃん。俺は既に()()()()なのに何故逃げようとしているんだい?それはおかしいよね?」


「な、何をしているんですか!手を放してください!」


「いやぁ~別にいいじゃないか。こんなに良い身体をしているのに…俺が()()()()()君の寂しさを紛らわせてやろうか?」


「…!嫌!ですから、本当にやめてください!!!」


「…人が親切にやっているのに!!!クソがっ!!!!」


 -バチン!!!

 レンジは女子生徒の頬を叩く。

 これは下級生の女子生徒への()()の一環でやっているのだ。

 暴力を振るいたくて振るっているわけではない。

 そう自分に正当化して女子生徒を売店の裏側に引きずり出して、取り巻きの生徒に見張りをするように指示をだす。


「おい、今から俺はこの生徒に対して()()を行うから見張っていろよ」


「はっ!」


「…さてさて、生意気な下級生には指導をしてやらないとね。身体でわからせてあげるよ」


「いやああああ!!!やめて!!!!やめてぇぇぇぇ!!!!」



 レンジを咎める人間はいない。

 例えそれが犯罪行為を行っていたとしてもだ。

 レンジは下級生の女子生徒に対して暴行を働こうとしたのだ。

 本来であれば暴行事件として警察に突き出される案件だ。

 しかし、レンジにとってはこれは()()()()の延長線上の行為であり、乱暴ではないという認識。

 おまけに相手の女子生徒は純人間種ではない亜人エルフ種であるから自分自身の行為が正当化されるものだと信じていたのだ。


「おい、今レンジ様が指導をしている所だ!ここに入るのは…ぐぇっ!」


「なにしやがる!貴様!…うばぁっ!」


「レンジ!自分が何をやっているのか分かっているのか!」


 アカミネが騒ぎを聞きつけてレンジを引き離すまでは。

 取り巻きが塞いでいた場所をアカミネが割って入ると、その場所でレンジが女子生徒の服を強引に脱がそうとしていた。

 明らかに暴行を働かそうとしていたのは誰の目からみても明白な事実である。

 これまでにも同じクラスメイトとしてレンジの行動をやんわりと咎めていたアカミネだが、今回ばかりは流石に堪忍袋の緒が切れてしまっている。


 それもその筈。

 手を出していた下級生はアカミネが所属している部活動の後輩だったからだ。

 決して恋人というわけではない。

 しかし、生真面目で部活動に熱心に取り組んでいる思い入れのある後輩。

 その後輩が狼藉者によって一生モノのトラウマを植え付けられている光景を見て、黙っていられる程スルースキルは身に着けていない。

 相手が誰なのか十分に知っている上でキレているのだ。

 学園理事長コイケの孫であり、最高権力者を盾にして傍若無人な振る舞いを繰り返している人物。

 退学覚悟でアカミネはレンジにこれ以上女子生徒に対して手を出すのを止めるように警告する。


「レンジ…その子から離れろ…今すぐにだ!」


「ははっ、面白い事を言うものだね…アカミネ、俺は指導しているだけだぜ?」


「どこが指導をしているんだ?どう見たって下級生を襲っているようにしか見えないぞ。その子は僕の部活動の後輩だ…今すぐ汚い手を離せ」


「ほぅ…誰に向かって喋っているのか理解しているのか?」


「理解しているから言っているんだよ馬鹿野郎が…!鉄の拳(アイアン・フィスト)!」


 -ベギィ!


「うごぁっ!」


 アカミネはレンジに飛びかかった。

 アカミネの右手には自身の力を引き出す強化魔法が掛けられている。

 鉄の拳は文字通り身体の一部を鉄のように硬くする魔法だ。

 レンジに対して渾身の一撃を与えるべくレンジの頬を思いっきり殴った。

 鉄のように一時的に硬くなった拳で殴られた衝撃はすさまじい。

 殴られた衝撃で突き飛ばされるレンジ。

 その間にアカミネは後輩に直ぐにこの場から立ち去るように指示をだした。


「早く逃げろ!僕の事は気にするな!早く!」


「アカミネ先輩…!先輩はどうするんですか?!」


「…どうするって…まぁ、こいつを殴ったんだ。それなりに僕は代償を負うことになるかもしれない。その代償を君に背負わせたくない。早く行くんだ!!!」


「先輩!!!ありがとう…ございます…!」


 後輩はアカミネに涙目でお礼を言ってその場を立ち去る。

 渾身の一撃を食らったレンジの頬は赤く膨れ上がっている。

 レンジは胸に手を当てながら叫んだ。


「…レンジの名で命ずる!レンジの名で命ずる!不届き者がここにいる!すぐに対処せよ!!!!」


 レンジの叫び声に反応して学園全体に警報音が鳴り響く。

 叫び声に駆けつけたスポーツ系の部活動の生徒があれよあれよという間にアカミネを取り囲む。

 どれもレンジの息のかかった者たちだ。

 彼が大声で叫んだ際に、すぐに知らせる警告魔法だ。

 セキュリティー権限を与えられた者が叫べが一瞬で保護対象者の場所を示してくれる。

 取り囲まれたアカミネはレンジの一言で()()を負った。


「こいつを…こいつを…善良な生徒に傷をつけたこのアカミネを今すぐに虫の息にしろ!」


 レンジが下した命令は暴力であった。

 居合わせた生徒たちはその命令に戸惑いつつも、生徒たちが寄ってたかってアカミネを殴り、蹴り飛ばす。

 身体の自由を奪われたアカミネはサンドバッグ状態である。

 暴力を振るわれて、次第に全身に強烈な痛みが襲ってくる。


(けど、後輩を守ることができたんだ…こいつに汚されずに済んだ…)


 アカミネは後輩を守った。

 殴られて、蹴られて、次第に身体の感覚が薄れていく。

 そしてこの暴力の(シメ)はレンジが行うことになる。

 満身創痍のアカミネに留めの一撃をお見舞いしようと、ゴルフ部の部室に置かれていたクラブを持ち出して来た。

 満面の笑みでクラブを握り、周りにいる生徒にゆっくりと話す。


「んふぅ~!さっきまでの威勢はどこにいったのかなぁ~?アカミネ君よぉ~散々悪口を言ったうえに俺の素晴らしい顔を殴りつけるだなんて…いい度胸だねぇ…みんなもそう思うよね?」


「ええ、はい…そう思いますレンジさん!」


「そうですよ!レンジさんの顔を殴るだなんて…本当に許せないっす!」


「だよねぇ?だよねぇ?だよねぇぇぇっ!!!!うんうんうんうん!!!!そうだよね!みんな分かってくれてうれしいよ!それじゃあ、今からアカミネの頭がどれだけ耐えきれるか実験してみよう!でりゃぁっ!!!」


 振り下ろされたクラブがアカミネの頭に叩きつけられる。

 そこでアカミネは完全に意識を無くしてしまう。

 これがアカミネが病院に搬送される40分前の出来事であった。

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