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4:シオン

 赤い服を被った男たちがぞろぞろと取り囲む。

 その数は20人。

 どうやら買い物をしていたアカミネに金が入っていると嗅ぎつけてやってきたようだ。


「ほぉ~ん、ネギ背負ったかもがやってきたぜぇ~!」


「やはりこいつは金持ちみたいですぜ兄貴!」


「ブルジョワジーみたいだな…有り金全部出しな」


 男たちの身なりは赤色の服で統一されており、この辺りスタンド・リバー区一帯を支配している武装ギャングだ。

 ギャングはナイフや鉄パイプを持っており、金を持っているアカミネに狙いを付けていたようだ。

 通行料がてら新参者やよそ者から金銭を巻き上げているゴロツキ集団。

 顔や腕に刺青や痛々しい傷があり、見た目もかなり厳つくてやばそうな連中である。

 その中でも金色のチェーンを巻いている男が兄貴と呼ばれているので、ここにいる中では一番上の人間のようだ。

 周囲の人間も厄介事に首を突っ込みたくないようで、人々が距離を置いている。

 アカミネと女、そしてギャングの周囲には人だかりができるが、その様子を見守っている。


「おぅおぅおぅ!女もいますぜぇ兄貴!おっぱいのデカい女だぁ!!!」


「ちょいとばかし身長は高いが…いい体しているじゃねーか!風俗に売り飛ばせば金になるぜ!」


「どうします兄貴?この女から奪いますか?」


「おうよ、金持っていなけりゃこの女を奪っていくぜぇ!」


「…それは止めてもらえませんかね?」


 アカミネはリーダー格の男を制止しようとする。

 いや、女の腕を掴もうとしたリーダー格の男の右手をアカミネは掴む。

 目を細めて鋭い視線を向けるが、リーダー格の男にとってはそんなのは威嚇にすらならない。


「なんだぁ…てめぇは…女の連れか?」


「連れというよりも彼女と一緒に行動している者でしてね…彼女はとても強い上に、怒ったら確実にあなた方の命は無い。僕のいう事だけしか聞かないんです」


「ほう、それじゃあ彼女に言ってやんな。俺の○○○○を咥えろってな!」


「ぎゃはははははっ!!!最高っすよ兄貴!こんな弱そうなヒョロガキオタクなんざ一発でノックアウトできるっすよぉ!」


「早く女を裏路地に連れ込みましょうよ!」


「ああ、それじゃあ女は貰っていくからさっさと失せろクソ野郎!」


 兄貴と呼ばれている男がアカミネに暴力を振るおうとした瞬間。

 男の腕を女が掴んだ。

 強く、親しんでいる男に振り下ろされそうになった暴力に対して怒っている。

 怒りに震えた女が男に鉄槌を下した。


「おいおいおい、何も止めるこたぁねぇだろ?こんな弱っちい奴なんかよりも俺みたいな強い奴と付き合ったほうがマシだって…」


「アカミネをいじめる奴は…ゆるさない!!!!!」


 -ベギィィッ!!!!


 その音は周囲にいた人々の耳に入ってくる。

 骨と鍛えられた筋肉が粉砕される音だ。

 ねじ曲がったように右腕が巻かれている。

 本来であれば曲がってはいけない角度に曲がっている。

 その見た目はソフトクリームのようだ。

 男は何が起こったのか理解できなかった。

 自分の腕がグニャグニャに曲がっているなんて。

 自分の腕がソフトクリームのように巻かれていると自覚した直後。

 男の右腕から激痛が走りだす。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!」


「あ、兄貴ぃぃぃぃ!!!」


「腕が…あんなにぐにゃっと曲がるなんて…」


「くそっ、兄貴の仇だ!囲んで殴れ!殴れ!」


 武装ギャングがアカミネと女に襲い掛かる。

 ナイフや鉄パイプを持った男たちをもろともせずに、女は一人のギャングの服を掴むと、そのまま他のギャングの連中めがけて放り投げる。

 砲弾投げのように次々とギャングの男たちが投げ飛ばされていく。

 男たちは悲鳴をあげるが、そんなのはお構いなしに投げ飛ばされ、地面や他のギャングの身体に当たって倒れていく。


 -ズドーン!


「「ぐわああああああ!!!」」


「なんだよこいつは!!!オリンピック選手かよ!!!ぶげぇっ!」


「いや、まるで怪物だ!こんな怪力を出せる女なんざ聞いたことがねぇ…!」


「…そんな生易しいものじゃないよ…彼女は…」


 そう呟くアカミネを見て、ギャング達は更に恐怖に駆られる。

 アカミネは女と同様に怒っていた。

 自分だけでなく、女にも手を出そうとした事。

 そして彼女を侮辱された事だ。

 アカミネの左手から青色の炎が浮かび上がる。

 激しく燃えているのに、その炎は熱気を感じない。

 不気味な炎だ。


「彼女はね…僕と同じ捨てられた人間(ニタモノ同士)なのさ…」


 呪文を唱えながら左手から吹き上げた青い炎を見て、ギャングたちは戦慄した。

 普通の炎を噴き上げるだけなら大道芸や下級魔法使いでもできる。

 しかし、青い炎は訓練された上に適性検査で合格した人間しか扱えない代物だ。

 そしてこのような高度な魔法を使えるのは魔法省の許可が必要であり、ごく限られた一部の魔法使いだけにしか扱えない。


 それも、自分たちのように魔法の使えない人間からしてみれば、まさにアカミネは凶器だ。

 ボクシングの試合にグローブではなく拳銃を持ちこむようなものだ。

 初めからギャングの連中に勝ち目は無かったのだ。

 それに気が付いたときには、すべてが遅かった。


「こ、こいつはもしかして…魔法使いだ!!!」


「くそっ、しかもただの魔法使いじゃねぇ!!上級魔法を使えるエリートの魔法使いだ!!!こんなヤワな武器じゃ勝ち目はねぇ!逃げろォ!!!」


「逃がすか!!!」


 青い炎が逃げようとするギャングを包み込んだ。

 炎がギャングに襲い掛かるが、痛みを感じない。

 むしろ強烈な眠気が襲ってくる。

 僅か5秒の間に次々とギャングは倒れていく。


「こ、こりゃあなんだぁ…グーッ…グーッ…」


「ね、眠気がぁ………ウッ………ウッ…」


「も、もうだめぇ…」


 一人、また一人と倒れていく。

 アカミネが使ったのは催眠魔法だ。

 催眠魔法は不眠症患者などに使用されるが、その際に使われる魔法の様子は青い炎を吐き出すように見える事から「ブルー・ナイト」と呼ばれている。

 ブルー・ナイトを使いこなせるのは全国でもそう多くはいない。

 限られた者だけに使用が認められる魔法だ。

 人によっては生涯でも一度も見ることが無い魔法なのだ。

 そして、あれだけ威勢がよかったギャング集団は全員が悲痛な叫び声や唸り声と悲鳴、そしていびきをかいて寝ている。


「くそぉぉぉ!!!おい!何寝ているんだ!!!早く起きろぉぉぉ!!!」


「無駄ですよ…少なくとも眠っている人たちは丸一日は目を覚ましませんよ」


 右腕がソフトクリームのように折れ曲がっているギャングの兄貴は左手で抑えながら悲痛な声で叫ぶも、無慈悲にアカミネは彼らは丸一日起きない事を伝える。

 とんでもない相手に手を出してしまった。

 どうしたら許してもらえるのか知能の少ない頭をフル回転させて考える。

 許しは問わぬ。

 そんなカッコいい言葉を吐けるだけの度胸もセンスもない男は、それはそれは綺麗な土下座をしてアカミネに謝った。


「た、頼むぅぅぅ!!!俺たちが悪かった!!!すまねぇ!!!だから、だから命だけは勘弁してくれぇぇぇぇぇ!!!」


 命乞い。

 それが男にできる唯一の選択肢であった。

 これ以上の抵抗を示せば女にボロ雑巾のように惨殺されるか、ヒョロガキだと侮って喧嘩を売った魔法使いに焼かれるかの二択しかない。

 顔をぐしゃぐしゃにしながらアカミネに許しを願った。


「顔をあげてください…貴方は…もうこれ以上酷い事をしないでください。約束ですよ?次に襲ってきたら…その時は容赦なく殺します」


「アカミネ…こいつ殺すの?」


 女はアカミネに襲い掛かってきたギャングの兄貴を殺そうとしている。

 いつでもアカミネの命令があれば飛びつきそうな姿勢を維持して首を掴もうとしている。

 それに対してアカミネは女に自制を促した。

 そこで初めてアカミネは女の名前を口にした。


「だめだよ()()()。この人はもうこれ以上抵抗しないと表明したんだ。逆恨みして襲い掛かってこない限り、これ以上手を出しちゃだめだよ」


「…うん、分かった」


 アカミネの言う通り首を掴もうとするのを止めてシオンはギャングの兄貴を狙うのを止めた。

 それを聞いたギャングの兄貴は安心したのか気を失ってしまう。

 これにて戦いは終了したのだ。

 この異様な光景に人々は驚いた。

 物凄い力を持った長身の女性とエリートの魔法使い。

 2人は20人近くいたギャングを3分で全滅させたのだ。

 周囲の人間は人外じみたパワーを持つ二人の活躍を見て驚きの声を口々に語りだす。


「…すげぇ…レッドギャングの連中をたった二人でボコボコにしてしまうだなんて…」


「あの魔法使いの少年もすごいが…女の人のパワーも凄まじいな…」


「アメコミに登場するヒーローみたいだ!」


「ブラボーッ!ブラボーッ!!」


 気がつけば、シオンが投げ飛ばしたりした衝撃でボロボロになった服のギャングが次々と逃げていく。

 寝ている仲間や右腕があらぬ方向に曲がって気絶した兄貴分を運んで人混みの中に消えていき、それを見ていた群衆は彼らを笑い、ギャングを倒したアカミネとシオンに歓声と拍手をした。

 その中でもアカミネはシオンの優しさに気が付いて、彼女を労った。


「シオンも偉いね、僕の為に頑張ってくれたんだね…それに、加減もしてくれたお陰で処理が楽になったよ」


「アカミネ…私…アカミネの役に立てた?」


「勿論だとも!シオンは僕の役に立っているよ!僕はすごく嬉しいよ!」


「…アカミネ!!!」


「わっぷ!!!」


 シオンはアカミネの言葉が嬉しかったようで、アカミネをギュッと抱きしめた。

 無論、シオンは加減して抱きしめている。

 本気を出してしまうとアカミネの全身の骨が複雑骨折しかねないからだ。

 そんなシオンの抱擁をアカミネは快く受け入れている。

 ちょうど顔のあたりが胸に当たり、アカミネが少々呼吸をするのに苦しいと感じたが、シオンが喜んでいる様子をみて満更でもない様子だった。

 そして、その光景を見ていた群衆も二人の熱烈ともいえる純情を見て自然と胸がときめく音がしたのであった。

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