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3:ニタモノ

 ■


 ………

 ……

 …


『こんばんは、時刻は20時…首都圏ニュースの時間です。ではまず最初にお伝えする主なニュースです。今日午前9時すぎ、イーストキャピタルのシーダ・コマンダー区外科医院にて、この病院に勤務していた62歳の外科医スギナミ・コージ氏が病室で頭と首が破裂した状態で見つかり、その後死亡が確認されました。警察では殺人事件とみて捜査を開始しております…。』


「…開幕一番に僕関連のニュースを聞くとはね…」


 20時…アカミネは目を覚ました。

 目を覚まして放送受信機から聞こえてくるニュースで、自分の事が取り上げられている。

 あれだけ派手に殺したんだ。

 そりゃバレるだろう。


 幸いにも顔写真などはまだ手配されていないみたいだ。

 ホテルの窓の外を見てみるとすっかり日が暮れている。

 辺りは暗くなっていて、外の飲食店から流れ込んでくる料理の匂い。

 自然とお腹が空いてくるものだ。


 ぎゅるるる…

 アカミネのお腹が鳴り出した。

 よく考えてみると昨日の昼から何も食べていないのだ。

 道理でお腹が空いてしまうわけだ。


「あーっ…腹ごしらえもしないと…あと、()()に似あう服を買ってこないとな…」


 後ろから抱き着いている女を見てアカミネは呟く。

 女に似合う服…。

 これを探さないといけない。

 今着ている服はアカミネの服だが、正直言って小さい。


 アカミネの身長は165センチ程なので、180センチを超える女が着るにはサイズが小さすぎる。

 もう一回り大きい服を買うべきだろう。

 それに20時であれば市場も賑わっている時間帯だ。

 服屋も飯屋も空いているだろう。

 そして、アカミネ自身が今後必要な道具などを揃えるために夜の街に繰り出す必要がある。


 一方で女は寝ているようだ。

 スヤスヤと寝ているが、これでも浅い眠り。

 何かあればいつでも起きれる。

 アカミネが目を覚ましたことを感知してか、すぐに女も起きてアカミネに尋ねる。


「…アカミネ、起きた?」


「うん、起きたよ。まだ寝たい?」


「…大丈夫、ちょっと寝たから平気だよ」


「そうか…じゃあ、これからちょっと買い物しに行くけど…ついていくかい?」


「…いきたい!アカミネを守りたいから!」


「ありがとう、それじゃあ一緒に行こうか!絶対に離れちゃだめだよ?」


「わかった!」


 洗面台で顔を洗い、スーツケースの中から手提げバッグを取り出す。

 買い物をすればそれだけ荷物が増える。

 バッグを用意したほうがいい。

 そう判断したアカミネは手提げバッグを抱えて女と一緒に夜の街に繰り出した。


「ヘイ!いらっしゃい!新鮮な魚だよ!一等区から放出してきた滅多に手に入らない天然魚だよ!一匹2000レトンだ!さぁさぁ!早い者勝ちだよ!」


「聖都でも名の知れた魔術師様が書いて下さった治療魔法の巻物は如何かね?どんな病気でも治る優れものだよ!高いけど品質と証明書付きで保障するよ!一番安いやつで5000レトンだ!」


「自衛用の武器はどうだい?そこの兄さん、このあたりは治安の悪いから武器を買うのを勧めるよ!一番安いデリンジャーピストルなんてどうだい?値段は10000レトンからさ…えっ、弾丸もサービスしろ?しょうがねぇなぁ…ほら、弾丸付きで10000レトン、毎度あり~!」


 夜の街は活気に溢れていた。

 昼の裏通りは人が少なくてガラガラだったが、夜はその逆で人でにぎわっていた。

 露店や店のシャッターが開いて色んなものが販売されている。


 上級階級が暮らす街から流れついてきた魚を販売する魚店。

 胡散臭い医療商品を売り出す薬局。

 密造銃など違法銃器を堂々と展示している武器屋など…。

 合法・違法問わず何でもそろっている。


 アカミネがそんなカオスな場所に立ち寄ってまず買いに来たのは洒落た輸入雑貨店であった。

 雑貨店に入ると、少女が出てきた。

 犬耳を生やしており、毛並みも綺麗な少女であった。

 いわゆる獣人と呼ばれている種族だろう。

 この少女は店員のようだ。


「いらっしゃいませ~何かお探しですか?」


「すみません、この店に髪染めの商品はありますか?」


「ありますよぉ~!少々お待ちくださいね!」


 少女が店の中に入っていき商品を確認しているようだ。

 5分後、少女は筒状の容器に入っている髪染めの商品を持ってきた。

 黒髪・金髪・赤髪など様々な色の種類がある。


 どれも正規品のようだ。

 アカミネは商品の裏側をチェックする。

 偽のコピー商品であれば裏側の表示が滅茶苦茶になっている場合が多いのだ。

 それを見ていた店員は少しアカミネに問う。


「お客さん、だいぶ疑ってますねぇ~…ひょっとして同業者ですか?」


「いえ、違いますよ。ただ、念のために確認しただけです。それで…この髪染めはこの店でも人気の商品なのですか?」


「ええそうです。特に人気なのがこちらになりますねぇ~ブリテン製マグーネ社の髪染めは皮膚のかぶれが起きにくいんですよ。特に、こちらの紺色がオススメですね」


「紺色ですか、たしかに紺色のほうがあまり目立たない色ですもんね…ではこの紺色の髪染めを一つください」


「毎度ありがとうございます!お会計は5000レトンになります。サービスで髪染め用のくしもお付けいたしますね」


 わざわざサービスまでしてもらった。

 アカミネの髪の毛の色は茶髪と赤毛が混じったような色をしている。

 これから生きていく上で髪の毛の色が目立ってしまう。

 そこで、目立たない紺色の髪染めを購入したのだ。

 値段もかなり張っているが、身元がばれないための保険だと割り切ったほうがいい。


「どうもすみません、サービスまでしてもらって…」


「いえいえ、しっかりとしたお客さんだったのでサービスしたまでですよ~!またいらしてくださいね!」


「どうも~」


 手を振って店を出たアカミネ。

 その後ろに付いていくように歩く女。

 やはり身体が大きいので少々目立ってしまっている。

 …周囲の視線も気になるが、次に向かったのは服屋であった。


 トタン屋根と軒先に水が被らないようにビニールシートが張られている。

 そして『Heat Of Inferno』という文字のネオン管が照らしているのが特徴的な服屋だ。

 服屋の中に飾られているのは一等区からの盗難品や、貧民街の主婦が刺繍を施した縫い付けを施したオリジナリティ溢れる服などを取りそろえている。

 服に関してはこの地区一番の品揃えだろう。


「いらっしゃい!おう、何か欲しい服はあるのか?」


「へへへ、いらっしゃい。服をお探しですか?」


 革ジャンを着たスキンヘッドでサングラスを掛けた男が二人出てきた。

 二人とも見た目は厳つい感じだが、そんな見た目とは打って変わって二人とも比較的柔らかい口調であった。

 特に、片方は敬語をつかっていた。

 アカミネは二人に大きめの服があるか尋ねた。


「はい、実は…彼女のサイズに合う服を探しているのですが…」


「ほぉ~後ろの彼女さんにねぇ…うーん、ちょっと大きさ的に女性向けの服は無いけど…男向けの服ならサイズに見合う服はいくつかありますよ。それでもいいならお見せしますが…」


「見せてもらってもいいですか?」


「もちろん、買ってくれるなら喜んで出しますよ。兄さん、お願いできますか?」


「待ってな、直ぐに持ってくるからよ」


 兄さんとよばれた店員がカウンターの棚から在庫を確認している。

 二人は兄弟のようだ。

 取り出してきたのはデニム生地で作られた黒色の作業着と青色のカーゴパンツであった。

 作業着にはフードがついており、顔を隠すにはうってつけだ。

 これを買いたいが、念の為試着したほうがいいと判断したアカミネは店員に尋ねる。


「彼女に試着してもいいでしょうか?」


「ええ、もちろん。ただし、商品盗難防止のために店員を更衣室の前で見張っていますけどよろしいですか?」


「構いませんよ。さぁ、更衣室でこれに着替えてみて」


「…うん」


「大丈夫だよ、ここで待っているから落ち着いて着替えてきてね」


 アカミネがデニム生地を触った感じの肌ざりは悪くなかった。

 不良品という感じもしなかった。

 オドオドしながらも女はアカミネから渡された服を持って更衣室に入る。

 着替えを行っている間にアカミネと二人のスキンヘッドの兄弟と共に雑談を交わす。


「それにしても君は彼女さん想いじゃないですか!いいねぇ~青春は!羨ましいですよ~俺の頃はそんな事出来なかった時代だったからなぁ…毎日毎日、空襲警報に怯えて生活していたからなぁ…ホント、青春は楽しんだほうがいいよ~それぐらいしかお兄さんからのアドバイスはないけどね!」


「はは、それはどうも…ところで、この辺りに美味しい食べ物屋さんはありますかね?」


「美味い食べ物屋かい?そうだねぇ…このあたりだと合成小麦粉や化学調味料てんこ盛りのラーメンを売っている向かい側の屋台が一番味と品質がマシかな…他の屋台や食堂に関して言えば…素材さえ気にしなければ食べていける味だよ」


「素材…ですか?」


「そうだとも、あまり知らないようだからコッソリ教えるけどねぇ…この辺りは実質的に闇市みたいなもんでね…牛肉や新鮮な野菜とかは正規品だと高くてとてもじゃないが買えないんだ。だから露店で売られている肉は代用肉としてクッソマズイ合成肉とか裏ルートで仕入れた消費期限ギリギリの肉を食べているのさ…悪いことは言わない…ラーメンを食べたほうがいいよ、本当に…酒に酔ってないと他の食べ物は食べれる味じゃないのもあるからね…」


「ああ………あれはマジでやめとけよ。慣れていないと胃腸炎を発症しかねない代物だ。やたら安い露店の食べ物には絶対にいかないほうがいい。ラーメンや中華系の料理みたく、多少高くても加熱した料理を食べたほうが無難だぜ」


「ご、ご忠告どうもです…」


 スキンヘッド兄弟の店員の迫真の食レポはアカミネでも思わず息を飲むほどであった。

 この辺りの食事の大半はアルコール飲料を飲まないとやっていけない程マズイ味もあるようだ。

 比較的裕福な家庭で育ち、健康的な食事を取っていたアカミネにとってかなりジャンキーな味わいとなるだろう。

 そして、後ろでようやく着替えが終わったようだ。


「アカミネー、着替え終わったよー」


 着替えを終えた女を見ると、かなり似合っていた。

 黒の作業着は先程着ていた服よりも胸を隠すのに役立っており、カーゴパンツはビシッと整った状態で履いていた。


「よく似合っているよ!」


「えへへ、うれしぃー!」


「ええ、思ったよりとってもお似合いですねぇ!」


「ああ、良い感じだな!」


 似合っているといわれたのが嬉しいようだ。

 顔を赤くして両手で覆い隠している。

 服のサイズも、問題なく履けているのでアカミネはスキンヘッド兄弟に服の料金15000レトンを渡す。


「毎度!ありがとうございました!」


「おう、中々いいもんを見せて貰ったぜ。彼女さんを大事にしろよ!」


「こちらこそありがとうございます!」


「ありがとー!」


 幸せな買い物の時間。

 アカミネと女は食事を取ろうと目の前のラーメン屋の屋台に向かおうとした。

 その時、二人を数人の黒服を着た男たちに取り囲まれてしまう。

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