10:アンブレラ・ディ
「私はね…信頼していた友人に裏切られて…レッドギャングに借金をつかまされたんだ…もう1年も前の話さ…」
友人の保証人になったばっかりに借金を背負った。
その額は300万レトン。
決して少なくはない額だ。
信頼していた友人は蒸発して行方不明。
しかもたちが悪い事にレッドギャング系列の金融会社から借りたものらしい。
借金は中々返せず、返せているのは利子だけだ。
「今は何とかして生きている状態だけどね…それでもそろそろ限界なんだ…もう、私は…このままじゃ身体を売って稼ぐしかないのさ…」
「お姉ちゃん…」
「いいのさ、リサを売れと言われるぐらいなら私が娼婦にでもなるしかない。そうでもしなきゃ…」
キャシーは言葉を詰まらせる。
リサも輸入店で働いているのは姉の借金を少しでも返済できるようにしている為のようだ。
本来であれば勉学に励むべき時期なのに…。
それが出来ない。
アカミネは自分が恵まれていた環境で育っていたことを痛感すると同時に、何とかして二人を救いたいと考えた。
すると、一つの案が頭上に浮かび上がる。
(二人がレッドギャングに弱みを握られている状態であれば、逆にそれをこちら側から行動をおこして利用すればいいのではないだろうか?)
敵が動かないのであればこちら側から動く。
動く事は重要だ。
だが、突破口を開くには十分な情報が必要だ。
情報をキャシーから聞き出そうとした際に、傍にいるシオンがやたらと周囲をキョロキョロと見渡して落ち着きがない。
その様子を不審に思ったアカミネはシオンに聞く。
「シオン、どうかしたの?」
「…さっきの悪い人達…外にいっぱいいるみたい…」
「…本当かい?」
「…うん、大勢が外で立ち止まっている…もうじき入ってくるよ」
「…向こうからやってくるとはね…きっと話し合いでは解決できないかもしれないな…」
カウンターの椅子からゆっくりと立ち上がるアカミネ。
ここで戦いをやる気だ。
キャシーの店だが、キャシーの店で死人を出さない為にはここで被害を最小限にとどめておく。
アカミネは傘立てに入っていたビニール傘を取り出すと魔法の呪文を唱える。
「強化魔法…鋼鉄化!!!」
右手に持っていたビニール傘は、あっという間に鉄パイプ並の硬さに変化する。
透明のビニールが鉄のように硬くなっていく光景を見ていたキャシーとリサは驚愕した。
「す、すごい!ビニール傘があっという間に!」
「安物の傘がこんなに硬くなるだなんて…これが強化魔法ってやつかい?」
「ええ、あまり詳しいことは秘密ですが…強化魔法というのは強化する元となる素材さえあれば何でも強化できます。ただし、使い方を間違えたり手順を失敗すれば肉体を滅ぼしかねないものです。諸刃の剣ですよ…」
魔法を使い、そして物体を強化する人間はごく限られた数しかいない。
目の前にいる少年はそんな珍しい魔法使いだ。
そしてキャシーは目の前の少年について、噂になっている人物であると直感した。
「もしかして…昨日の夜から噂になっているレッドギャングの連中をコテンパンに倒した少年と女性って…あなた達の事なのかい?」
「…そうですね、確かに昨日…絡んできたレッドギャングの連中を数十名に対して反撃をしたのは事実です…キャシーさん。リサさんと一緒に伏せていてください。破片が飛んでくるかもしれません。なるべく店を壊さないようには努力します」
「ちょ、ちょっと!店を壊すのを前提に戦うのかい?!」
「話し合いが決裂すれば向こうは襲ってくるでしょう。壊れた分はレッドギャングの連中から立替といてやりますよ」
「アカミネ…私も戦ったほうがいい?」
「そうだね…シオンはキャシーさんとリサさんを守ってあげてほしい。裏口からやってくるかもしれないからね。頼むよ」
「…うん!分かった!」
「…リサを助けてくれたんだ。アカミネさん、あんたを信用するよ…それと、店のものはなるべく壊さないように頼んだよ」
「分かりました…さて、それじゃあ扉を開けるよ…」
ゆっくりとアカミネが扉を開ける。
不意打ちを食らわないようにそっと開ける。
すると、扉が開くのを待っていた連中が店の入り口にゾロゾロとやってきた。
レッドギャングだ。
我が物顔で店の中に入ろうとするも、入り口の先に待っていたのは鋼鉄に強化された傘を持っているアカミネが立ちふさがっていた。
「キャシーちゃん…遊びに来たぜぇ~っ。利子が払えないなら俺の夜の相手を……って、誰だお前はっ!!!!」
「おいおいおい、いつからこの喫茶店はボーイを雇った?ただでさえ資金繰りが苦しいのによぉ……ペェッ!!!」
「なんだなんだ?ついに諦めて金を払う気になったのかい?」
先頭に入ってきた奴に続いてゾロゾロと入ってくるギャング。
柄も素行も悪く、平気な顔で唾を吐く。
アカミネに絡むギャング達。
だが、アカミネは怯えるどころか逆に清々しい顔でギャングを見ている。
彼らはそんな余裕を持っているアカミネの目つきが気に食わないようだ。
メンチを切って睨みつける。
「おうおうおう、随分と余裕そうじゃないか……えぇ?」
「こいつチビだしよぉ!蹴り飛ばしてやろうぜ!」
「それはいい!チビなら女装させてやればソッチ系の店で売れるぜ、ヒャッハー!」
最後に入ってきた男がアカミネを見るや否や、指を指して叫んだ。
ヤバイ奴に遭ってしまった表情で叫んだので、一斉に男に視線が集まる。
「あーっ!!!!お、お、お前はぁぁーっ!!!!」
「どうしたイケガミ?こいつを知っているのか?」
「知っているもなにも…そいつは……そいつは昨日ナルゼ兄貴を病院送りにした奴だぞ!!!」
イケガミと名乗るギャングの言葉で空気が変わる。
優越感から妙な雰囲気に変わる瞬間だ。
余裕をぶっこいてアカミネを揶揄った末路。
いや、弱者を踏みにじっている連中がどうなるか…まさに今、アカミネの正義が執行されようとしている。
それでもイケガミを除いてアカミネを弄るのを止めない。
「ナルゼ兄貴をやった?こいつが?タダのチビ男じゃねーか。俺は巨体の筋肉モリモリマッチョマンの大男にやられたって聞いたぞ」
「そうだそうだ、こんなひ弱なヒョロガキ男にナルゼ兄貴が負ける筈ないじゃないか。頭イカれたかお前?」
「ちょ、ちょっと待て!!!違う、違う!そいつは魔法使いなんだよ!青い炎を噴き出せる上級魔法使いだ!あとナルゼ兄貴の腕を捻じ曲げた奴はそいつじゃない、そいつと一緒にいたバカげた怪力を持っている巨人女だ!!!!」
「ははは、イケガミ…それじゃあ、こいつが魔法使いじゃなかったら10万レトン払うか?」
「ああ、賭けたっていい!そいつとは関わらないのが一番だ!絶対に後悔するぞ!俺はここから離れるぞ!!」
イケガミはそう言ってその場から立ち去った。
それを見ていた周りのギャングは大笑い。
逃げたイケガミの事を指さして罵った。
「ガハハハッ!あいつチキン野郎だぜ!!!」
「ほっとけ、ほっとけ、さぁて………そこをどいてもらおうか?」
スキンヘッドの男は凄んだ。
アカミネを睨みつけて。
こんな貧弱な男には負けないだろうという余裕を持って身体を突き飛ばそうとする。
しかし、アカミネの身体はびくともしない。
それが頭に来たらしく、男はキレてアカミネに殴りかかる。
「てめぇっ!調子に乗りやがって!」
-ドゥン!
その際にアカミネは鋼鉄化した傘で男に当てる。
すると、男は後ろにいた男たちと共に突き飛ばされる。
一瞬の出来事だったこともあってか、何が起こったのか分からない。
分かるのは、先程までバカにしていた少年に傘で突き飛ばされたという事実。
それを認めたくはない。
「くそっ!傘に何か仕込みやがって!!!不意打ちを食らわせた代償は重いぞ!」
「そうだ!こいつをボロ雑巾みたいに千切ってやれ!」
「覚悟しろチビ!!!」
何かあの傘に仕込んだに違いないと感じたレッドギャングの男たちはキレる。
一斉に襲い掛かればこの少年をボコボコにしてやれると思ったのだろう。
助走を付けてアカミネに殴りかかる。
だが、ボコボコにされたのは男たちであった。
アカミネは傘を開いて呪文を唱えて更に強化して銃を構えるように振りかざす。
「鋼鉄開花!」
-ドガァァァン!!
「な、なんだそりゃぁっ!!!!」
傘布だった部分は、今は鋼鉄で出来ている。
中棒と手元に衝撃が走ると、まるで噴射したように傘布の部分がレッドギャングの男たち目掛けて飛んでいく。
まさか傘布の部分が飛んでくるとは思いもしないだろう。
もう一度確認するが傘布の部分は鋼鉄と化している。
とてつもなく硬い。
そんな硬くて重い物体が狭い入り口付近に集まっている男たち目掛けて猛スピードで飛んできたらどうなるか?
答えは簡単だ。
避けきれずに殴りかかろうとしていた連中の身体に突き刺さるように激突する。
「ぐぇーっ!!!」
「ぎゃぁーっ!」
車に跳ね飛ばされたように店のドアを突き破って外にギャングの連中が投げ出される。
まるでボウリングでストライクを出した時のように。
ピンがはじき飛んでいるようだ。
折り重なっている連中は身動きが出来ない。
どうやら全身を痛めてしまったようだ。
「ち、畜生…こ、こいつはやべぇっ…!」
「ありえねぇ…!ありえねぇよぉ!!!」
「まぁ、今の攻撃を食らったらそうなりますよね…普通は…」
アカミネは傘の中棒と手元部分を握ってスキンヘッドの男に向ける。
スキンヘッドの男はもう戦意は湧いてこないようだ。
そればかりか、両手を挙げて降伏の意志を示している。
同じスキンヘッドでも、服屋のスキンヘッド兄弟のほうが人として立派だろう。
こいつに爪の垢を煎じて飲ませるべきだとアカミネは思った。
「わりぃ、本当にわりぃ!!!あんたがここまで強いやつだとは思わなかった!!!本当だ!ゆ、許してくれぇ!!!」
「随分とさっきとは態度が違うみたいですが…」
「だって、だってこんなに強いと分かっていたら喧嘩は売らねぇよ!!!こんな喧嘩は高すぎる!!買えねぇよ!!!」
「でも売り出したのはそっちですよね?怪我をするリスクを承知の上で売るのが喧嘩でしょう?だったら尚更、目玉の一つや二つ潰れても文句は言わないですよね?」
ゆっくりと顔面に押し付けようとすると、男はついに涙を流して許しを乞う。
「わ、分かった!もうキャシーちゃんには手を出さねぇ!いや、妹さんにも手を出さねぇから許してくれ!!!」
このままでは完全に目潰しどころか殺されかねない。
そう感じたからだ。
これで主導権は完全にアカミネが握った。
アカミネは顔の表情を一つも変えず、男を見つめながら言った。
「そこまで言うのであればあなた達の暴言と暴力に対してはこれ以上行っても、無意味です。あなた達のボスに会わせてもらうことはできますか?」




