7泊目
「あーそれでだ、スミカ姉さん。治療代なんだが......」
サーシャが奥に向かったのを目で追いながらドワーフの男。ホメットが苦笑いしながら言うと店主スミカが首を傾げた。
「治療代?」
「あぁ、治癒魔法に赤ポーション二本だろ? アインス金貨十枚で足りるか?」
アインス金貨十枚か、エスルーアンなら騎士団幹部の月給より高いな。
「(アインス金貨ってどこの国より金の純度が高いからウチの国なら二倍の金額ですよね?)」
「(ん? あぁ、エスルーアン金貨二枚でアインス金貨一枚が相場だな)」
ケインズが小声で言ってきたので俺も小声で返した。店主スミカは返り血の着いたままの服で腕を組んで悩んでいた。
「もし足りないって言うなら俺も出すぜ!」
「俺もだ!」
「私も出すよ!」
「アールの命が助かったんだ、金貨五枚でも十枚でも出すぜ!」
ホメットのチームメンバーや応援に来ていたチームメンバー達が次々に言った。
「ふぁー......治癒魔法は国の経営する治療院だとアインス銀貨十枚じゃな。だが先ほどスミカが使った『ヒール』『再生』『活性化』の上級治癒魔法、一回につき金貨五枚ほどじゃ、そして振りかけた赤ポーションをよく見てみる事じゃな」
幼い声が二階に続く階段から聞こえてきた。俺は声のする方に顔を向けるとそこには金髪のロングヘア、赤い瞳で背丈はサーシャほどの少女が大きなあくびをしながら降りてきた。
着ている寝巻きの生地が薄く少し肌が見えており、少女に似つかわしくない物を着ているなと思ったがその腰には黒いコウモリのような羽が生えていた。魔族か?
「あれ? 寝てたんじゃないの?」
「阿呆、サーシャの奴が走り回っておってな。五月蝿くて寝てもおれんわ」
「そっかごめんね、サーシャは?」
「今さっきお主の部屋から封筒を持って裏口から出て行ったぞ」
「良かった」
「お、おい嬢ちゃん! そんな事より今、上級治癒魔法って言ったか?!」
ホメットが青い顔をしながら魔族の少女に詰め寄ると少女は両手で両耳を押さえて顔をしかめていた。
「うるさいのう......たかが上級治癒魔法の一つや二つで騒ぎおって」
「この赤ポーションはアインス銀貨五枚ってのは分かるぞ? 上級治癒魔法がアインス金貨五枚のはずねぇだろうが!」
ホメットが空になったポーションの小瓶を少女に突きつけると中に少しだけ残っていたしずくが目に入り俺は目を見開いていつの間にかホメットの手を小瓶ごと掴んでいた。
「何だてめぇは!」
「失礼! 少しこの小瓶を見せてもらいたい」
「ッチ......ほらよ」
怪しい者を見る目で俺を見てきたホメットは舌打ちしながらも小瓶を俺に手渡してくれた。その小瓶を日の光にかざしながら中に残ったしずくを見てみると少しだけ紫色が混じって見えた。
「やはりそうか......」
「何がだよ異国の騎士さんよぉ?」
「これは赤ポーションでは、ない」
「......」
俺がそう告げると魔族の少女が目を細めて感心したように頷いていた。
「赤ポーションの比率が高いがこれは......紫ポーションではないか? 店主スミカ殿」
「......驚きました。確かにそれは私が調合した物なので比率はお教えできませんが紫ポーションですね、あと私のことはスミカとお呼び下さい」
「ではスミカ殿。紫ポーション、別名『エリキシル』は大変高価でそして稀少であるため王族以外には滅多に出回らない物のはず、何故貴方が持っているのですか?」
驚き顔のスミカ殿がじっと俺の顔を見てきた。『エリキシル』は小瓶一個ほど作るのに約百年と言われておりエスルーアン金貨でおよそ八百枚、とても高額だがその効果は絶大で『一滴で病が治る』と言われるほどだ。
「私がSSランク級冒険者だから......と言えば納得して貰えますか?」
「......」
なるほど、確かにSSランク級冒険者なら持っていても不思議では無いか。実際エスルーアン聖王が極秘に、しかも王が直筆の手紙を送る相手なら何らかの繋がりがあり持っている可能性がある。
「なるほど、失礼したスミカ殿」
「い、いえ」
少し笑顔が引きつっていたスミカ殿に頭を下げて小瓶をホメットに渡そうと振り返るとそこには約九人の男女が青ざめながら震えていた。
「む、紫ポーション......? エリキシル?」
「アインス金貨で、やややや約七百枚って、きききき聞いた事が......」
「......あふん」
ガタガタと震え、そして一人の女性冒険者が倒れた。
「あー......あの」
スミカ殿が苦笑いしながら言うと。、ビクッと集団が反応した。
「今回は無料と言う事でいかがでしょう?」
スミカ殿の言っていることが一瞬理解できず、数秒後。
「「「えぇええええええええええ!?」」」
「なんじゃとぉおおおおお!?」
その日、竜風亭が八人+俺とケインズ+魔族の少女の声だけで震動した。