〜愚者のプロローグ〜
今回は、初めて異世界転生を書きました。
感想を頂けたら幸いです。
2030年、革命的とも呼べる技術の進歩で、VR空間(仮想現実空間)の使用が現実的になった。
VR空間は、医療関係や娯楽をはじめ、様々な用途に重宝された。
その中でも、ゲーム用途に関しては、異常なほどの盛り上がりを見せていた。
15年ほど前に出たライトノベルの世界観を完全再現したVRMMORPG(仮想現実大規模多人数オンラインゲーム)
が発売されたりと、人気はとどまることを知らないほどだ。
その、VRMMORPGで、他のゲームより頭一つ抜けて人気なゲームがあった。
その名は、エクスラビリンスオンライン。
通称、XRO。
そんな、XROには、最強と呼ばれる二人のプレイヤーがいた。
その、プレイヤー達は、それぞれ違う種族の派閥に属し、敵として戦っていた。
人族、エルフ族、ドワーフ族、亜人族、魔族のように、5つある種族の中で、その二人がいる人族と魔族だけが、絶大な強さを持っていた。
その二人がいる種族が本気で潰し合えば、このXROの世界は崩壊するとまで言われるほどだ。
そんな、最強プレイヤーの二人だが、リアルでは兄弟だったりする… 。
「おにぃ、戦争したいんだけど?」
そんな、サディスティックでヴァイオレンスな言葉を呟いたのは、人間陣営の頭領にして、最強プレイヤーの一人。
『シオン』である。
シオンは、前人未到の最高レベル500を誇る。
人族特有のソードスキルを使いこなし、圧倒的プレイヤースキルで敵を圧倒する。
と、ここだけ聞くとゴツいハゲヅラのおっさんを思い浮かべるかもしれないが、茶髪でポニーテイル、顔は童顔、胸はFカップの巨乳と、真逆の超絶美少女である。
「何日かかると思ってんだよ…。人族と魔族の総勢で5万はいるぞ。それに、いくらお前の呼びかけでも、みんなデスペナ惜しくてそんな戦争したがらないって。」
と、ため息混じりにつぶやく青年の頭には、黒山羊のような禍々しい角鹿生えている。顔には、赤いタトゥーが刻まれており、髪は白色の昔のヤンキーのような容姿だが、これでも魔王と恐れられる、魔族の長、この俺、リンネである。
と、格好良くは言ってみたのだが、実際は、俺たちは、ニート兄弟なのだが…。
俺、十月輪廻は高校を卒業して、そのままニートの道を選び、妹の詩音は絶賛中学不登校中。母親は、俺が中学の時に交通事故で死んで、父親は、大層金持ちだったが、2年前に行方不明になってしまった。一応、一生遊んで暮らせるだけの金はあるにはあるが、なんだか少し生きにくい。
「あぁあ、いっそこの世界の人間になりたいなぁ…。」
「それな。あたしもずっとインしてたいかも。」
そういう意味では、無いんだけどなぁ……。
まぁ、いいや。おっと、そろそろ会議の時間か。
「会議の時間だからきるぞ。」
ゲーム内通話を終えると、運営からの通知が来ていることに気づく。
『XROプレイヤー名:リンネ
現実世界名:十月リンネ 殿
貴公は、XRO当社の厳選なる判断の結果、最優秀プレイヤーに選ばれました。よって、真世界にご案内いたします。』
ん?真世界?ああ、新マップの事か。遂に、XROにもやっと新マップが!?
いや、待てよ?これってもしや俺だけか?
『つきましては、現実世界の物体または、生命体を一つまで持参することが可能です。
所持物: 』
生命体か…。これって、シオンでもいいわけだよな?
と、所持物の欄に十月詩音と入力する。自分の実妹を所持物と書くのは正直どうかとは思うが、せっかくの新マップでも一人では詰まらないからな。
『一度、転移してしまうと、クリアするまで元の世界には戻れませんがよろしいですか?
YES NO』
「あぁ…、旧マップに戻って来れないのか…。」
でも、別にいいかな。する事も無くなってたし。
YESっと。
「あっ、詩音に相談してなかった!」
まぁ、良いか。もうローディング始まってるし。
あと、会議前だった……。まぁ、チャットぐらいはできるだろ…。
後で謝ろう。
段々と目の前が暗くなっていき、やがて完全にフェードアウトする。
◇
「う…、いってて…。」
臀部に鈍い痛みを感じ、目を開けると、そこは見知った光景。
即ち、XROの始まりの街だった。XROでは、死亡する度にここに送られる。
何故だ?俺たちは新マップに送られたはずでは?
俺たち?そうだ!シオンは!?
キョロキョロと周りを見渡すと、隣でシオン…、と言うか、十月詩音。
つまり、現実世界のシオンがいた。
「ん…、おにぃ?何で?あたし、部下にパワハ…、教育をしてて、それで…。」
うわぁ…。こいつ今、パワハラって言おうとしたよな?
人族の湧き出るブラック感…、ってそんなこと言ってる場合じゃない!
「シオン落ち着いて聞いてくれ。ここは、XROの新マップらしい。」
「おにぃ、嘘はよくないよ。私が好きすぎて、拉致ったんでしょ?そんな事しなくても言ってくれれば、処女ぐらいはあげたのに。」
「いや、素直に嬉しいけど、そう言うのじゃなくてだな…。」
「そう言えば、おにぃ、なんでリアルの姿なの?あれっ、あたしもだ!おっぱいあんまない。」
シオンに言われて自分の顔や体を触ってみる。すると、なんと言うことか、自分までリアルの身体になっていた。どういうことだ?
運営側は俺たちの姿を知らないはず。
なのにどうして、俺たちの顔の形はおろか、体格まで再現できているんだ?
バグ…、なのか?一旦ログアウトするか。
「ログアウトボタンが無い!?」
「えっ、おにぃ?どういうこと?」
システムウィンドウにログアウトの表記が無い。
これじゃあ、XROの旧マップどころか、現実世界にも帰れないじゃ無いか!
たしか、15年前に大流行したラノベにこんなのあったよな?
あの時は、幻想だったが、今は実現できる。もしかして、XROがデスゲームになってしまったのでは無いか?
『フアッハッハァ!!頭の中で色々と考察を立てているみたいだが、それはちょっとばかし違うねぇ。』
「誰だっ!?」
突然、男の声が聞こえ、体が硬直する。さっきまでヘラヘラ笑っていたシオンも、俺の腕にしがみつき、心なしか震えている。
『おっと、これは失敬。私はゲームアルーラーだ。』
「ゲーム…、アルーラー?」
ゲームの支配者という意味か。
『そう。私は、支配者だァ!この世界のねェ!この世界の生きとし生けるもの創造主!ゴッドだ。アイアムアゴット!!』
「神…か、神だとしたら悪神だな。ところで、さっきの少し違うってどういう事だ?」
『そう。少しッ、違う。君たちは、ゲームに囚われたのでは無く、この世界の住人、即ち、異世界転移して来てしまったのだよ。』
「異世界っ…、転移だと!?」
異世界転移とは、ひと昔前に流行ったラノベによく用いられていたジャンルで、現実世界から、空想の異世界に転移することだ。
そんなこと、人知を超えている。
神を自称しても、ゲームアルーラーも人間だ。
そんな事出来る筈が無い。
『まあ、信じられないかも知れないけど、信じざるおえないことになるよ。是が非でも君たちには、クリアするまで、この世界の住人でいて貰うのだから。』
「ふざけるな!俺たちを元いた世界に返せ!」
『ほう。帰って何をするのだね?何か明白な目標でもあるのかね?』
「関係ないだろっ!いいから、早く現実の世界に返してくれ!!」
『明白な目標も明日を生きる希望も君には無い!そんな事で私が納得し、現世に戻してやるとでも思ったのかい?答えは否だよ。そうだ、君はどうなんだい?十月詩音クン。』
「あ、あたしは…。」
「おいっ!シオンじゃなく、俺に!」
『うるさいんだよォ!!君は!私は、詩音クンに聞いているんだ!君にはもう興味が無い!失望したのだよ!!』
うっ…、失望か。
そうだな。自分自身、今の自分には失望と言うか、哀れだなと思う。
「あたしは、今…、そんな事考えちゃいけないって、ダメだって、分かってるけど、少しワクワクしちゃってる…、かも知れない。」
『ほう。そうかい。君は、愚かなお兄さんとは違い、物分りがいいようだ。まぁ、持っていくもので、頭の良い妹さんを選択したあたり、一概に愚者とも言えないか。それだけは、英断だったね。まぁ、元の世界を勝手にゲーム内の話だと決めつけたのは、流石に愚行だと思うがね。ハァッハッハァ!』
そうか。あれは、旧マップに戻れないと言うことでは無く、現実世界に戻れないと言うことだったのか。それを軽はずみに押してしまったのか俺は…。
どうする?ゲームアルーラーは現実の世界に返してくれる気はさらさら無いらしい。
「クリアしたら…、戻れるんだよな?」
『約束しようとも。だが、愚かな君にこのゲームがクリア出来るかな?』
「確かに、俺一人じゃ無理かもな。でも、愚者の唯一つの英断、俺はシオンと供に、二人でこのゲームをクリアしてみせる!」
「お、おにぃ!」
シオンの俯き、今にも泣き出しそうな顔が、パァっと明るくなる。
クリアするまで帰れないのなら、この状況を目一杯楽しんでやる。
生憎、俺たち二人ならクリアできない気がしねぇ!
『愚者の可能性…、おもしろいじゃないか!クリアしてみたまえ!私はそれまで、何処かで見守っていようじゃないか。では、さらばだ愚者。それと…、力のアルカナよ。』
それ以降、ゲームアルーラーの声が聞こえることはなかった。
そんな、プロローグを経て、俺とシオン。
愚者と力、二人の冒険が幕を上げた。
この作品は、タロットカードをモチーフにして書きました。
リンネは、愚者、シオンは、力ですね。
愚者には自由や可能性、軽率や焦りなどがあります。
力には実行力や知恵、甘えや優柔不断などがあります。
そんな、二人がどのように、ゲームアルーラーの試練を乗り越えるのか。
果たして、ゲームアルーラーとは誰なのか。
次話、乞うご期待!!