瞬く間の救出劇
鷲一と武志は受付で指定された方に向かい、しばらく進んで角を曲がると、右手側に部屋が並んでいた。
部屋に入ってみると、かなり広く、またさらにその両側に個室がずらりと並んでいた。
よくあるロッカーのあるタイプではなく、服屋の試着室みたいなタイプらしい。
もちろん、扉は布製ではなく、きちんと扉型になっているが。
まだ集合時間まで時間はあるが、ゆっくりしていても仕方ないので、早速着替えることにした。
武志と一旦別れた後、、鷲一は空いている個室に入り、扉の鍵を閉めると、まず渡されたケースの中身を確認することにした。
ケースの中には、手のひらサイズのスマホ型端末、真っ黒な上下一体型のボディスーツ、メガネ、グローブが入っていた。
「なんだこれ・・・俺らに何やらせる気なんだ・・・・」
しばらくケースを開けたまま固まっていたが、時間もないので、受付の女性が言っていた、端末に入っているマニュアルを確認することにした。
端末はよくあるスマホと扱い方は同じらしく、問題なく扱うことができた。
中にはアプリがいくつか入っていて、その中のマニュアルを開くと、『ケース内の装備について』という項目があったので、そこを開いてみる。
どうやら集合時間まで、装備関係のことについては、限定的な情報しか開示されていないようだったが、今ある情報は、ある程度把握した。
まず全身を覆う上下一体型のボディスーツは、特殊な合成繊維でできているらしく、防刃耐衝撃性能があるらしい。
また肘、膝の関節部分はプロテクターのようになっていて、薄いがそれなりの性能があり、取り外しも可能みたいだ。
それに何らかの収納箇所もいくつかあり、胸部分にはスマホ型端末を収納できるみたいだ。
次にメガネだが、これはスマホ型端末の補助デバイスらしい。
審査開始までには性能情報も開示されるらしいが、今はスマホ型端末と連動できるとしか分からない。
最後にグローブだが、これもボディスーツと同じ素材でできているらしい。
またこれも何らかの機能があるらしいが、情報開示はまだみたいだ。
鷲一はマニュアルを見つつ、一通りケースの中身について確認し終えた。
「まだ今の段階でも謎だな、この審査。・・・・とりあえず着替えるか」
ケース内の装備全てを身につけ、今まで身につけていた服や持ち物をケースに入れて、言われた通り指紋と端末に入っていたアプリでケースにロックをかけた。
そして、鷲一は個室にあった姿見で自分の姿を確認して、自分の似合わなさにため息をついてから、個室から出た。
そこにはすでに着替えを終えた武志が立っていた。
「タケ、お前は何着ても似合うよな」
「なんか照れるなぁ!そういうシュウは似合ってねぇな!!」
「うるせぇ!余計なお世話だっ!!だいたいこんなの似合うやつがおかしいんだよっ!!ほら、もういいから、行くぞっ!!」
「何、怒ってんだよー。おい、待てよ、シュウ!!」
鷲一はイライラしながら、受付で言われた通り、更衣室を出て、来た方とは逆方向に通路を進んでいった。
しばらく進むと、おそらくホールの入口だろう、両開きになっている扉が見えてきた。
その頃には、イラつきも霧散し、鷲一の気分はすっかり晴れていた。
なぜなら、見かけるほとんどの受験生にボディスーツが似合ってなかったからだ。
それも当然で、真っ黒なボディスーツなんて、そもそも日本人には似合わない格好で、例外は、武志やその他少数くらいである。
鷲一と武志はホールの入口でケースを預け、ホールの中に入った。
ホールはかなり大きく、形状としては、イタリアのコロッセオの現代版みたいな感じだった。
確かに今日の受験生4000人くらいは入れるスペースはありそうだ。
鷲一たちはどちらかというと後半組だったらしく、ホール内にはすでにかなりの受験生が集まっているみたいだった。
「しかし、この変な格好がこれだけ集まると、なんか威圧感あるな・・・・」
そう鷲一が呟いたまま、二人でしばらく呆然と立ちつくしていると、突然すぐ近くで怒声が響いた。
――― ――― ――― ――― ―――
森山凛花はイラついていた。
派学を受けたのは自分の意志だったとはいえ、最終審査を受けるためにしなければならなかった格好に嫌悪感を覚えていたからだ。
それも仕方ないかもしれない、ボディスーツは伸縮性のある素材で出来ているため、肌にぴったりと張り付いており、身体のラインが浮き彫りになるのだ。
比較的、男性はそれほど抵抗を覚えないだろうが、多くの女性にとっては、積極的にしたい格好ではないと言えるだろう。
そんなイライラを抑えながら、ホールで待っていると、微かにだが、凛花には悲鳴のような声が聞こえた気がした。
気になって辺りを見回すと、ちょっと離れたところの壁際で女の子が男二人に絡まれているのが見えた。
その瞬間、はじかれたように凛花は飛び出した。
問答無用で殴り飛ばしたかったが、審査前の暴力沙汰はまずいかもしれないと考えて、一応警告としておくことにした。
「そこの二人、その子から離れなさいっ!!」
すると、背を向けていた男たち二人が振り返った。
二人共、20代後半くらいの男で、一人は金髪にピアス、もう一人は坊主にタトゥーという、いかにもな感じのチンピラだった。
「なんだ、てめぇは、すっこんでろっ!!」
「いや待て、なかなか可愛い顔してるじゃねぇか。これでちょうど二対二だしよ、嬢ちゃんも俺らと遊ぼうぜぇ」
その瞬間、本気で飛びかかりそうになったが、男たちの近くに怯えている女の子がいるのを思い出し、隙を作るために仕方なく、会話を続けることにした。
「はぁ、寝言はいいから、その子を離して、ゴミはゴミ溜めに帰りなさいっ!」
「あぁん?言うじゃねぇか、くそガキ、覚悟できてんだろうなぁ!?」
凛花としては、女の子さえいなければ、いくら二対一だからといっても、こんなチンピラ風情に遅れを取るつもりは全くないので、向こうから飛びかからせて女の子と離れさせるために、さらに挑発しようとした。
ところが、声を発する前に、突然割り込んできた長身の男に邪魔されたのだった。
「おいおい、女の子相手に男二人で情けねぇなぁ。代わりに俺が相手してやるから、さっさとかかってきな!」
「上等だぁぁ、ガキィィィィ!!」
その長身の男に向かって、いきなり坊主にタトゥーの方のチンピラが殴りかかっていった。
坊主チンピラは空手をかじっていたらしく、凛花から見ても、まあまあの逆突きを繰り出した。
対して、長身の男は、凛花から見ても凄まじい使い手で、流れるような体さばきで坊主チンピラの懐に潜り込んだかと思うと、坊主チンピラが自ら飛んだのではないかと思うような見事な背負い投げを決め、一瞬で倒してしまった。
凛花も思わず見とれてしまって、気づいたときには、長身の男の仲間らしき男が、金髪チンピラを取り押さえてしまっていた。
派手な背負い投げに、金髪チンピラが気を取られている隙にやったらしい。
突然の出来事にさすがの凛花も呆然としていると、長身の男が話しかけてきた。
「おい、大丈夫だったか?」
その問いかけに、はっと我に返って、何とか取り繕いながら、凛花は答えた。
「だ、大丈夫よ。それに別にあなたたちが手を出さなくても、チンピラ二人くらい、何とかできたわよっ」
その言葉に嘘はないつもりだが、女の子を盾にとられていたら、凛花の実力では女の子がどうなっていたか分からなかったから、実際は助かったのが現実である。
しかし、プライドの高い凛花には、素直にお礼を言うという選択肢はなかった。
「そうか、それは余計なことしたな、悪かったよ!」
「べ、別にいいわよ、謝らなくても!それより、あなたたち、何者なの!?」
その問いに、長身の青年はにかっと笑って答えた。
「俺の名前は本城武志だ!あと、あっちのやつは倉田鷲一だ、よろしくな!」
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◎勇敢な女の子
名前:森山凛花
年齢:18歳
身長:158cm