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ユキちゃん

バスを降りると、すでに派学の敷地の中だったようで、校舎はすぐ目の前だった。


「シュウ、あそこが受付かな?」


武志に言われて見ると、右手の奥に見える建物の前で、受験生っぽい人たちが行列になっているようだった。

その最後尾あたりに係員らしき人が、『受験生の方、受付はこちらです』と書かれているプラカードを持っているところを見ると、確かに最終審査の受付らしい。


俺もそちらに向かおうと歩き出そうとした瞬間、突然、武志が驚いたような声を上げた。


「えっ、あれって!」



どうやら目線的に行列の方を見て、言っているようだ。

俺も気になって注視してみたが、特に変わった何かがあるわけでもない。


「おい、急にどうしたんだよ」

「いや、たぶんだけど、あれってユキちゃんじゃね?」

「え、ユキちゃんって、お前んとこの道場に通ってた、あの?」



武志に言われて、改めて行列に並んでいる人たちを見ていくと、確かにそれっぽい女の人が行列に並んでいる後ろ姿を見つけた。

だが、行列は建物の中に続いていて、鷲一が見つけたときにはちょうど、その人が建物に入っていくところだったので、いまいち判然としなかった。


このまま立ち止まって話していても仕方ないので、鷲一たちは行列に並ぶことにした。

その最中も変わらず、話題はさっきの人のことだった。



「確かにそれっぽかったけど、後ろ姿だけじゃ何ともなー。というかそもそも俺は最近会ってなかったから、見てもすぐには分からんが・・・」

「いやちょうど振り返ったときに顔が見えたけど、あれは間違いないって!」

「まあタケがそこまで言うんだし、そうなんだろうな。・・・けど、ユキちゃんって、警察に入ったんじゃなかったっけ?何でこんなとこにいるんだ?」

「いや俺に聞くなよ、そういうのはシュウ担当だろ!」

「って言われてもなぁ。最近の事情は俺も知らないし、秋穂さんから何か聞いてないのか?」



岩峰雪乃いわみねゆきの

武志の祖父がやっている古武道の道場に二年前まで通っていた、28歳の女性である。


名は体を表すとはまさに彼女のことで、なかなかの美人なので道場の男共から散々言い寄られていたが、一年を通して山々に積もる雪のように、誰一人として相手にせず、冷たくあしらい続けていたのを覚えている。

まさにクールビューティーとは、彼女のような女性のことを言うのだろう。


そんな雪乃は、道場でも数少ない同性であり、年もわりと近い秋穂と仲が良かったのだ。

関係としては秋穂が雪乃を慕い、そんな秋穂を雪乃が可愛がるという感じであった。

そんなこともあってか、その弟である武志と、その友達で道場生の鷲一も、それなりに仲良くしていた。


まあ馴れ馴れしく、『ユキちゃん』なんて呼んでいるのは、恐れ知らずの武志くらいだろう。

呼ぶ度に毎回、半殺しにされていたが、それでもやめないので、結局、雪乃さんが折れたのは今でも、道場生の男共の中で伝説になっていたりする。



「そう言えば、ここだけの話だけどな、姉貴がユキちゃんが最近、公安に入ったって言ってたぜ」

「え、それ言っちゃダメなやつじゃ・・・・」

「おう、姉ちゃんもそんなこと言ってたな」

「・・・まあいいや・・・・。しかしあんな若いのに、雪乃さん、すげぇなー。

しかしそうなってくると、なんかきな臭い話になってきそうだなぁ」



武志の話が本当なら、どうやら雪乃は警察庁公安部に所属しているらしい。

ということは、ここにいたのも何らかの潜入調査とかだろうか。



「まあこれ以上、俺らが考えても仕方ないな。タケ、雪乃さんのことは一旦忘れて、俺らは審査に集中することにしよう」

「そうだな、それにユキちゃんなら、心配しなくても大丈夫だろ!」




しばらくすると、鷲一たちの順番が回ってきた。

最後尾に並んだ時は、それなりの人数が並んでいたので、結構待つかと思ったが、受付は複数人で対応しているようで、思いのほか、回転も早いみたいだ。


「次の方、こちらへどうぞ!」


まず武志が先に行き、その後に鷲一が続いた。

鷲一の担当は、30歳前後くらいの小柄な女性だった。


「では、顔をスキャンしますので、その間動かないでくださいね」


そう言うと、受付の女性は、手に持っていた端末をこちらの顔に向けてかざしてきた。

どうやら、端末による顔認証で、最終審査に残っている受験生であるかどうか確認できるようだ。

言われた通り、動かずに待っていると、認証はかざしてから数秒ほどで、終了した。


「失礼いたしました、認証完了しましたので、もう動かれても大丈夫ですよ。倉田鷲一様で、間違いございませんでしょうか?」

「はい、倉田鷲一です」

「倉田鷲一様の受審番号は、10823となります。それではこちらをお受け取り下さい」


そう言って、受付の女性は足元からケースのようなものを取り出し、渡してきた。



「こちらの中には、審査で使う衣服等が入っていますので、中に入っているものは全て身につけてください。男性の更衣室は倉田様から見て右手にございますので、着替えにはそちらをお使いください。その際、今身につけていらっしゃるものや貴重品など、持ち物全てをケースに入れていただきますよう、お願いいたします。このケースは、ケースの中に入っている端末と倉田様の指紋で、二重にロックできますので、そちらもお忘れないようにお願いします。ではここまでで何か、ご質問等はございますでしょうか?」


「中に入ってる端末って言うのは、審査でも使うんですか?」


「はい、本日の審査でお使いいただくようになりますので、紛失されませんように、くれぐれもご注意ください。紛失されますと、失格となりますので」


言い方から推測するに、例外なく問答無用で、失格になるみたいだな。


「他に何かありましたら、ケース内の端末内にマニュアルがございますので、そちらをご覧下さい。では着替えなどの準備が終わりましたら、ケースを持って、奥にあります、ホールにお集まりください。そこで本日の審査に関して、説明がございます。ケースに関しましては、ホール入口にて、お預けくださいますよう、お願いいたします」


「はい、分かりました」



どうやらそれで受付での手続きは全て終わったようだったので、鷲一が指定された更衣室に向かおうとしていると、先に手続きを終えた武志が待っていた。



「シュウ、どんな審査だと思う?」

「いや、さすがにあれだけじゃ、予測はつかないな。でも、簡単じゃなさそうなのは確かだな」

「だな!俺、なんかワクワクしてきたぜ!!どんなのか、楽しみだなっ!!」

「いいから、早く着替えにいくぞ!」



そう武志に言いつつも、珍しく同じように胸を躍らせながら、更衣室に向かう鷲一であった。

読んでくださってありがとうございます!

よろしければ、評価やブックマーク、感想など、ぜひお願いします!



◎秋穂の姉貴分

名前:岩峰雪乃いわみねゆきの

年齢:28歳

身長:167cm

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