二人の襲撃者
背後に忍び寄った何者かの攻撃は、微かに纏った殺気がなければ、鷲一でさえ、全く気づかなかったであろう、見事な奇襲だった。
とっさに回避行動を取ろうとした鷲一だったが、相手の攻撃の方が早く、結果、鋭い蹴りをまともに受け―― 鷲一にできたのは、急所は外すことくらいだった ――、鷲一はそのまま吹っ飛ばされた。
だが、正体不明の襲撃者はそれだけで止まらず、確実に仕留めるために、蹴り飛ばした鷲一へとすぐさま追撃を開始した。
一方、初手こそ遅れをとった鷲一だったが、このまま黙ってやられるつもりなどさらさらなかったので、蹴り飛ばされながらも、空中で無理やり体勢を変え、追撃に備えていた。
しかし、ここでまたもや鷲一の感覚が、別の殺気を微かに捉えた。
次の瞬間、鷲一の左側からひじを正確に狙った、矢が高速で飛来した。
見てからでは絶対に避けられない攻撃だった―― 矢の速さくらいなら、集中している鷲一であれば、何とか見えるが、見えるのと避けられるのは別だ ――が、ここでも鷲一は殺気を感じた瞬間、わずかに身をよじることで、何とかサポーターへの直撃を免れることができた。
しかし、その予定外の行動のせいで、鷲一はまたもや、接近してきた襲撃者の蹴りをまともに受け、今度は急所を外すことさえできすに、再び吹き飛ばされた。
その瞬間、鷲一の視界の端にメッセージが表示された。
【ボディスーツ(防御力1000)により、上等な弓矢(攻撃力149)を防御し、成功しました】
【防御成功により、ライフは削られませんでした】
やはり、ひじを正確に狙って飛んできた矢は、システム武器の攻撃だったようだ。
となると、奇襲のタイミングからして、襲撃者は最低でも二人組らしい。
さらに前衛後衛に別れて連携しているだけでも厄介なのに、二人共がかなりのやり手だ。
鷲一は急所を蹴り飛ばされたことで、少なくないダメージを受けたが、襲撃者との距離があいたおかげで、ようやく、吹っ飛ばされながらではあるが、仕掛けてきた襲撃者の様子を伺うことができた。
その人物は、長身ですらっとしていて、鷲一より少し年上くらいの若い男だった。
鷲一に弓矢の攻撃を躱されたのが気に食わないのか、渋面を作っている。
ボディスーツを着ているので、受験生であることは間違いないが、鷲一には見覚えのない男だった。
推測するに、おそらく美波を追いかけていた青年の声を聞きつけ、二人を襲撃しようとしたところに、直前で鷲一が割り込む形になったのだろう。
そして、青年をあっさり倒す姿を見て、その実力を警戒し、万全の配置を整えて、奇襲をかけてきたというところだろうか。
このまま、連携されている状況では勝ち目が薄いと判断した鷲一は、近くの木で弓矢の射線を遮ることにした。
しかし、そういう行動を取ることは、相手も予想の範囲内だったようで、上手く邪魔され、なかなか思ったように射線をきれない。
そうしているうちに、再び遠方からの殺気を感じたので、鷲一は自分からわざと体勢を崩した。
今回も危ういタイミングだったが、体勢を崩したことにより、何とかサポーターへの直撃は回避し、また先ほどと同じ防御成功のメッセージが視界の端に表示される。
【ボディスーツ(防御力1000)により、上等な弓矢(攻撃力149)を防御し、成功しました】
【防御成功により、ライフは削られませんでした】
体勢を崩したことで、致命的な隙ができ、敵前衛の攻撃を受けるかと身構えたが、必中のタイミングで二回とも、弓矢の攻撃を避けられたことで、このまま続けても攻撃成功は難しいと悟ったのか、敵前衛は一旦追撃の手を止めた。
その隙を逃す鷲一ではなく、すかさず木の後ろに入り、敵後衛の射線から身を隠した。
どうやら襲撃の第一波は防ぎきれたようで、それもあってか、若い男の襲撃者は鋭くこちらを睨みながら、初めて口を開いた。
「初撃を防いだことも見事だが、あの手順でも攻めきれんとは、相当な使い手だな、貴様」
声は思ったより硬質で、警戒心や敵愾心にあふれていた。
鷲一としても、後手に回っている状況で、防戦一方の流れを切ってくれるのは願ってもないことなので、会話を続けるべく、すかさず返事をする。
「あんたたちもかなりのやり手だな。それにあの連携、一朝一夕のものじゃない。一体何者だ」
鷲一が受けた奇襲の質と連携の練度は、明らかに並みの使い手のそれではなかった。
攻撃に殺気が込められているあたりから察するに、もしかしたら、普段は殺しに手を染めているのかもしれない。
鷲一も、殺気や気配の感知を、普段から師匠に徹底させられていなかったら、初手の段階でやられていただろう。
「・・・こちらの仲間に入るのならば、教えてやろう」
敵対する者に正体を教える気はないようだ。
「・・・・あんたたち、御陰将也の仲間とかじゃないよな?」
鷲一は襲撃された時から、頭に浮かんでいた可能性をぶつけてみた。
これほどまでの力を持っている組織の心あたりが、鷲一にはそれくらいしかなかったのだ。
だが、それも、全くの見当違いでもなかったようだ。
将也の名前を出した時、わずかではあるが、間違いなくこの男は反応した。
しかし、名前を出された時の雰囲気からして、仲間というより・・・・
「知らんな。それより、あそこの女も貴様の仲間か?」
そういえば、いきなり戦いが始まったから、そちらを気遣う余裕が全くなかったが、近くには小河美波もいるんだった。
鷲一から見て、戦闘開始前から動いてなければ、右後方にいるだろうが、今は振り向いてる余裕はない。
しかし、男に問いかけられ、後ろにいるであろう美波を意識してしまったのは、敵と相対している今の状況において、鷲一の完全なるミスだった。
鷲一の意識が美波へわずかに逸れた瞬間、男は素早く懐から棒状の武器を取り出し、鷲一の方へ踏み込みながら、上段から鋭く振り下ろした。
ただ、鷲一もわずかに意識が逸れたくらいで、簡単に一撃をもらうほど、柔ではない。
すぐさま自分も腰から短剣を取り出し、迎撃しようとした。
しかし、なぜか男の攻撃にとてつもない違和感を感じた。
こういう時、自分の直感を信じるように、師匠からさんざん言われて刷り込まれていたので、とっさに迎撃を中断し、全力で後ろに飛び退いた。
結果、鷲一の判断は正しかったようだ。
飛び退こうとした瞬間、先ほどとは別方向から殺気を感じ、弓矢が飛来したのだ。
直前で全力の回避行動を選択したおかげで、またもや弓矢の直撃を回避でき、三度目のメッセージが表示される。
【ボディスーツ(防御力1000)により、上等な弓矢(攻撃力149)を防御し、成功しました】
【防御成功により、ライフは削られませんでした】
それを視界の端に確認しつつ、男の追撃に身構えた鷲一だったが、男は追撃してくることはなかった。
「なぜだ、あれを躱すなど、いくら矢の速度が、銃弾に劣るとは言え、到底不可能なはずだ・・・」
確かにこの男の言う通り、迎撃の選択をしていたら、間違いなく弓矢の攻撃を受けていただろう。
人間誰しも、不意を突かれた時の行動はパターン化してくるものだ。
おそらく男は経験と観察眼から、鷲一が回避より、迎撃を取る傾向にあると判断したのだろう。
実際鷲一は、相手の思惑通りの行動を取ろうとしていた。
「ああ、迎撃していれば、避けらないタイミングだったよ」
なぜなら鷲一は、弓矢の射線から外れていると思って、完全に油断していたのだから。
そう、男が追撃の手を止めたのは、わざと鷲一を射線から隠れる木の後ろへ移動させ、油断させるためで、会話をし始めたのは、後衛が別の射撃ポイントへ移動する時間を稼ぐためだったのだ。
そして、後衛の準備が整ったのを確認してから、会話で鷲一の意識を逸らし、阿吽の呼吸でタイミングを合わせて、攻撃したのだろう。
「有り得んっ!なぜ避けられた!?」
今まで終始冷静だった男だが、今回ばかりは声を荒げずにはいられなかったようだ。
「簡単だ、違和感だよ」
「違和感!?・・・それが何だと言うんだっ」
「あの時の、あんたの攻撃が単純すぎたんだよ」
そう、今までこちらに簡単に反撃できないように攻撃していたはずの男の攻撃が、その時だけ、隙の大きくなる上段攻撃だったのだ。
あの時、隙を突かれたとは言え、鷲一はやろうと思えば、いくらでもカウンターで迎撃できたが、今までの攻撃とのギャップがありすぎて、違和感を抱かずにはいられなかったのだ。
「・・・俺としたことが、詰めが甘かったか・・・・」
「ああ、紙一重だったけどな」
「・・・・・仕方ない。これ以上、貴様とやるのは得策ではないようだ。先ほどまでの見事な対処に敬意を表して、一旦引くとしよう」
どうやら、引いてくれるようだ。
しかし、先ほど会話で不意をつかれたこともあるので、鷲一が警戒を解かないでいると、男は苦笑し始めた。
「ふっ、そう警戒するな・・・・と言っても、無理だろうな」
「当たり前だ、そう簡単に信用できるか!」
「まあいい。・・・・それより、貴様、名前を聞いておこうか」
鷲一は名乗ろうかどうか、本気で迷ったが、相手の名前を知っておきたかったので、名乗ることにした。
自分が名乗れば、相手も答えるような気がしたのだ。
「俺は、倉田鷲一だ。そっちはなんて言うんだ?」
「多々羅修吾だ。・・・・倉田鷲一か、聞き覚えがないな。お前ほどの使い手なら、耳にしたこともあるかと思ったが・・・・。まあいいだろう、ではまたな」
そう言い残して、あっさりと走り去っていった。
――― ――― ――― ―――
修吾は一応、尾行を警戒していたが、どうやら誰もつけていないと分かると、同期させているAIの指示を頼りに、離れていた仲間と合流した。
合流した仲間は修吾より少し年下の女性で、手には竹製の弓、背には矢筒を背負っていた。
「修吾殿、あの男、見逃して良かったのですか?放置しておくには、いささか危険すぎる男と思われますが・・・」
合流してすぐ発言したところを見るに、修吾が一時撤退を決めたことに不満があるようだ。
「確かにそうだが、あのまま戦っても、攻めきれなかっただろう」
「それはそうかもしれませんが・・・・」
あの手順で攻めきれなかった時点で、打つ手はもうほぼなかったのだ。
だが、それが分かってはいても、女性の方は心情的に納得しきれていないようだった。
「それに、あの男、いや、倉田は手の内をほとんど見せていない。まあ、こちらが反撃させないように、攻めていたから、当然ではあるが・・・・」
「つまり、負けていた可能性もあると?」
「まあそうだな。俺としては、見てみたい気もあったが、今はそんな場合ではない。それに倉田ばかりに構っていては、他の連中に足元をすくわれかねないからな」
「・・・・そうですわね、では修吾殿、狩りに戻りましょう」
「ああ、まだ先は長い。焦らずに行くぞ!」
「「我が神に栄光を!!」」
再び、危険な二人組が、受験生狩りへと動き出したのだった。
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◎冷静沈着な武僧
名前:多々羅修吾
年齢:26歳
身長:181cm
◎優雅なる狙撃手
名前:???
年齢:23歳
身長:159cm
○装備品ステータス
・上等な弓矢
攻撃力:130~160
使用可能回数:5~7回
装備可能箇所:両手
特殊効果:なし




