将也の思惑
それから一分ほど経った頃だろうか、目を閉じて飛び回っていたディアが、目を開き、一つの木の前で止まった。
『この木の上の方から、反応があるのよ~』
鷲一から見ると、ディアが指し示している木は、周りにある木と同じく、何の変哲もないただの広葉樹にしか見えなかった。
「ディア、正確にはその木のどの辺に反応があるんだ?」
『ちょっと、待つのよ~。・・・・たぶん根元から頂上までの間の、ちょうど真ん中辺りに反応があるのよ~』
そうなると、木の高さが目測でだいたい十メートルくらいだから、五メートル付近か。
それなら、何とかなりそうだな。
ただ、森の中は見晴らしが悪くて、いつどこから敵が現れるか分からないから、ゆっくり登ってる時間がない。
武志くらい身体能力があれば、ささっと登れるだろうが、鷲一が同じようにやれば、ある程度時間がかかる。
仕方ない、ちょっと疲れるが、あれ使うか。
新宮流身体操作法『撥』。
体の溜めを利用して、一瞬だが、普段の数倍の瞬発力を得る、新宮流の身体操作法の一つだ。
それを用いれば、鷲一の身体能力でも、三、四メートル付近までは軽く登れるだろう。
「ディア、俺が近くまで登ったら、どの辺で反応してるか教えてくれ」
『分かったのよ~』
近くまでいけば、ディアもはっきり捉えられるようなので、鷲一は誰か来ないうちに早速、木登りのために準備を始める。
達人であれば、一瞬で発動できるが、鷲一はそこまで練度が高くないので、準備に三秒ほど要した。
次の瞬間、体に溜め込まれていた力が一気に解放され、勢いよく鷲一の体が飛び上がった。
鷲一は、予め目をつけていた枝を足場にしつつ、勢いそのままに木を駆け上がる。
地上から四メートルに届かない辺りで、勢いは完全に失われたので、そこから普通の木登りに切り替えた。
予定通り、普通に登るよりかなり早く、目標地点付近まで来た鷲一は、近くにいるであろうディアに声をかけた。
「ディア、反応はどの辺りだ?」
『えっとね~、あの辺りなのよ~』
鷲一の後からちょっと遅れて、飛んで上がってきたディアが指し示したのは、鷲一がいるのと反対側の幹の辺りだった。
先導するディアについていくと、その部分だけ木の幹がうろのようになっていて、その中に一本の短剣が立てかけられていた。
短剣は刃渡り二十センチくらいの両刃で、鞘もちゃんと付いていて、柄の部分には動物の革が丁寧に巻かれていた。
「ディア、これのステータスを出してくれ」
『はいなのよ~』
ディアが返事した瞬間、メガネ型デバイスをかけた鷲一の視界に短剣のステータスが表示される。
武器【上等な短剣】
攻撃力:94
使用回数:9回
装備可能箇所:両手、口、両脇
特殊効果:なし
「・・・これは武器として、いい部類なんだろうか。・・・上等ってことはいい武器なんだろうが、何せ初期装備以外では、初めてだからなぁ」
自分では判断がつかなかったので、何か情報を持ってるかと思い、ディアに聞いてみた。
「ディア、この短剣は使える方なのか?」
『そこそこ使えるのよ~。特殊効果なしの武器のランクは、下から、粗末、普通、上等、最高の4段階なのよ~』
なるほど、武器にもランクというのがあるらしい。
「ちょっと待て、特殊効果ありのはまた別なのか?」
『特殊効果のあるものは、ほとんどそれ一種類しかないユニークアイテムなのよ~。二時間おきに配置される動物を倒すと、手に入るのよ~』
「なんだそれ・・・・ディア、詳しく教えてくれ」
鷲一がいるのは木の上だったが、初耳な重要情報がディアから不意に飛び出したので、そんなことは二の次なのだった。
ディアに知っていることをいろいろ聞いたところによると、まず、審査開始から二時間経った午前十二時を皮切りに、二時間ごとに一定数の動物―― 見た目は動物だが、中身は全て機械らしい ――が受験生をここに運んできたのと同じ方法で、送られてくるようだ。
その動物も初めは、リスやウサギのような小さなものらしいが、後になるにつれ、狐、狼、熊、虎、象など、だんだん大きく凶暴なものになっていくようだ。
もちろんその分、入手できる武器や防具なども強力なものになるらしい。
その機械動物たちは、グローブや短剣などのシステム上の武器でダメージを与えることができ、また、こちらも相手の攻撃を、防具で防御できるが、向こうの攻撃が成功すると、こっちのライフも削られるので、欲張って無理をするとライフが減り、審査に勝ち残れる確率も低くなるようだ。
「そうか、ここで仲間の要素が重要になってくるのかもしれないな・・・・」
鷲一はずっと、将也たちが仲間を集めていた直接的な理由が、気になっていたのだ。
初めて審査の形式を知ったとき、必ずしも集団が有利とは言えない点が、どうにも引っかかっていた。
マップデータ共有の話を知ったときに、一瞬それが理由かと思ったが、どうにも仲間を集める理由としては弱い気がしてならなかった。
だが、これで分かった。
将也たちは、この機械動物を効率よく倒すために、仲間を集めていたのだ。
ただ単に倒すだけなら、おそらく一人でも可能だろうが、相手が強くなるほど、時間もかかるだろうし、こっちのライフが削れる危険性も高くなる、さらに、もたもたしていると、他の受験生に横取りされる心配も出てくるだろう。
その点、仲間がある程度いれば、時間もそこまでかからないだろうし、削れるライフも分散でき、横取りしようとする受験生への牽制もできる。
問題は戦利品の扱いだろうが、その辺はあの得体の知れない将也たちだ、何か策があってもおかしくないし、最悪何もなくても、その時は仲間割れ覚悟で、強力な装備を独占すればいいだけの話だ。
まあまだ他に何か知らない要素が隠れている可能性はあるが、おそらくそれで間違いない。
ちらっと、視界の端に映る時間表示を見ると、もうそろそろ審査開始から二時間が経ち、問題の午前十二時を迎える頃だった。
そこでふと気になることがあったので、また再び、ディアに尋ねる。
「二時間ごとって話だが、それはいつまで続くんだ?というか、そもそも、かなり重要なはずの審査をいつまでやるのか、聞いてないな・・・」
『そこはあたしにも分からないのよ~』
「・・・そうか、まあ明日の審査もあるだろうから、長くても丸一日だけどな・・・・。短く想定しても仕方ないし、一応最悪のケースが起こる前提で、丸一日コースも覚悟しとくか・・・」
そういえば、重要なことを話していたので、すっかり忘れていたが、短剣を取りに木の上に登ったままだったことを思い出した。
とりあえず聞くことは済んだので、鷲一は短剣を回収―― ボディスーツは装備品をしまうことを想定しているのだろう、胸や腰、足などいろいろなところに収納スペースがある ――し、枝を足場にして駆け下りた。
そしてそのまま、先ほどのようにディアに案内してもらいつつ、森の外へと急いだ。
短剣を発見した位置から、森の外まではかなり近く数分でたどり着いたが、その頃には午前十二時を過ぎていた。
「ようやく、森を出たか」
いきなり森から開けた場所に出るのは、誰が見ているか分からない状況では危険だと判断した鷲一は、森を出る少し手前で、立ち止まり、念のために木の影に隠れた。
「かなり大きい島のようだな」
木の陰から、片目で覗き込むようにして森の外を見ると、そこには壮大な景色が広がっていた。
立ち止まりながらの小走りではあるが、ここまで来るのに二時間近くかかった―― 実質、移動していた時間は一時間ちょいだが ――ことを考えると、相当大きい島だとは思っていたが、想像してた以上だったので、鷲一は愕然としていた。
まず、手前のちょっと離れたところに湖のようなものが見え、その奥には黒っぽい色をした、おそらく1000メートル以上の高さの山が見えたのだ。
あの広大な森でも、島の一部でしかなかったみたいだ。
単純に計算して、ここまでの移動速度と、実質の移動時間を考えると、直線距離なら、10キロメートル近く移動してるはずだから、島全体はかなりの大きさになる。
「こんな島、日本にあったか?・・・・無人島にしては大きすぎるみたいだが・・・・」
『日本地図に載ってないことは確かなのよ~』
「しかし、一応安心したな。遭遇人数が少なすぎて、疑ってたが、ちゃんとこの島に、受験生がみんないるらしい」
最初景色に目がいって、よく見てなかったが、森の外の草原、湖のほとり、その奥の山の斜面など、遠くて小さいが、確かに受験生らしき姿が伺える。
正確な数は分からないが、見えている数を全部合わせると、200人以上はいるだろうか。
しかし、改めて考えると、この位置は危険かもしれない。
森の外はすぐ草原のようになっているから、人の心理として、草原にいる人間は、森の中に入って身を隠そうとするだろう。
そうすると、森と草原の境界線あたり、つまり今いる位置は、他の受験生との遭遇率が必然的に高くなると予想できる。
その考えは正しかったようだ。
鷲一の右手後方、つまり森の奥側から、男の声が聞こえてきた。
向こうがかなり大きな声を出しているから、鷲一は接近に気づいたが、直接お互いの姿を確認できない程度には、離れているため、向こうはこちらにまだ気づいてないだろう。
厄介事を避けるべく、鷲一は先ほどと同じく『撥』を使って、近くの木を登り、地上から3メートルあたりに身を潜めた。
近づいてきて分かったが、どうやら男が声を出しているのは、誰かを追いかけているかららしい。
「待てえぇぇ、ちゃんと戦えぇぇ!!・・・逃げるなぁぁぁ!!」
鷲一はふとどんな状況なのか気になって、一つ下の枝に降りて、賑やかな追いかけっこを拝見することにした。
しばらくして現れたのは、見た目二十歳くらいの青年と中学生くらいの女の子であった。
男の方は全く知らないやつだったが、女の子の方は、どこか見覚えがあったような気がしたので、よく見直してみると、なんと派学のホールで助けた女の子、小河美波だった。
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○新宮流身体操作法『撥』
適度に脱力した状態を維持しつつ、体全身で溜めを作り、体全体をバネのようにするイメージで、
一気に溜めを開放し、一時的に普段の数倍の瞬発力を発揮する身体操作法。
また達人になると、気や捻りを応用して、溜めを作っているのを見た目では一切悟らせず、予備
動作なしで発動できる。
○装備品ステータス
・武器【上等な短剣】
攻撃力:80~100
使用可能回数:8~10回
装備可能箇所:両手、口、両脇
特殊効果:なし




