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新宮流

鷲一はディアに案内されながら、森の中を度々立ち止まりつつ、小走りに駆けていた。


森のように視界の悪い場所では、先に相手を発見した方が圧倒的に有利であるため、人や動物の気配を慎重に探りながらでしか進めなかったが、ディア曰く、着実に森の外へ向かっているということだった。


再び鷲一が気配を探るべく立ち止まると、補助デバイスであるメガネをかけた鷲一の視界に、ディアが姿を現し、小さな手で指差しながら言った。


『こっちなのよ~』


律儀なことに、鷲一が止まる度に、進む方向を示してくれているのだ。

案外、真面目なやつらしい。



そのまま何にも遭遇することなく、初めに自分がいた場所から数百メートル進んだ頃、鷲一は気になっていたことをディアに尋ねた。


「そういえば、まだ隠されたものとやらを見つけてないが、見ただけですぐ分かるものなのか?」

『五メートル以内に近づけば、あたしに分かるものもあるのよ~。そういうのならシュウイチも、見れば分かると思うのよ~。でも、隠されてるのが強力なやつになるほど、見つけにくくなるのよ~』

「なるほどな・・・・・で、例えば、どういうとこに隠されてるんだ?」

『簡単なのは、その辺に転がってたりするのよ~。難しいのは、地中深くに埋まってたり、水の底に沈んでいたり、他のものに偽装されていたりなんてのもあるのよ~』

「そうか、容易くは・・・・・・」


鷲一はとっさに話を中断し、素早く木の後ろに身を隠して、息を潜めた。

右前方、鷲一の視界に動くものの姿が映ったのだ。

距離はそこそこあるため、おそらく相手は気づいていないだろう。

鷲一は、第三者に背後を取られたりしないように警戒しつつ、木の影から、進行方向の右前方を覗き込んだ。


顔までは分からないが、おそらく身長は同じくらいの男で、ボディスーツを身につけているのが分かる。

間違いなく同じ派学の受験生だ。

一応辺りを警戒しつつ、行動しているつもりのようだが、鷲一から見れば、あまりにも杜撰ずさんだ。

こちらを気づいている様子もないのも含めて、全て演技という可能性もあるにはあるが、限りなく低いだろう。


攻撃すべきだろうか、鷲一はメリット、デメリットを天秤にかけ、一瞬考えたが、すぐに戦うことを選択した。


デメリットとして、相手の装備が不明であることが主に挙げられるが、いつかは誰かと戦わなくてはならないだろうから、それならば、おそらく格下であろう彼と戦うのはチャンスだと思えた。

他に人影もないため、仲間もいなさそうだし、一体一で相手が格下なら、審査におけるルールを確かめつつ、戦い方を模索するいい機会である。


そうと決めれば、まず初手は奇襲だ。

上手くすれば、木の上の死角から、先手をかけることができるだろう。


考えがまとまったところで、相手に気づかれないように、小声でディアに話しかける。


「ディア、あの男の進行予測ルートを割り出して、木の上から奇襲するという条件で、一番いいポイントを割り出してくれ」

『分かったのよ~。・・・・・・・出たのよ~、案内するから付いてくるのよ~』


数秒で演算したディアは、気を遣って、同じように小声で応答し―― ディアの音声はメガネ型補助デバイスについている耳元のスピーカーから発されている ――、鷲一を案内するべく、羽を羽ばたかせ、飛び出した。



男の様子を伺いつつ、気づかれないように慎重かつ素早く移動し、何とかディアが割り出したポイントまでたどり着いた。

そのまま鷲一は軽く助走をつけて、男が来ている方と反対側から、軽々と木に登った。




新宮しんぐう流古武道。

本城武志の母方の祖父が、指南している古武道である。

戦国時代のとある兵法家たちから端を発したもので、他流派の多くは時流が流れるにつれ、剣術や柔術など、一芸のみを深く追求していくようになっていったが、新宮流と他少数の流派は、時流に逆らうように、様々な術を学ぶことを流派の真髄としてきた。


そして現代では、表向き、剣術と柔術を道場生に教えているが、後継者候補である秋穂や武志には、他に薙刀術や泳法術を始めとした、七つの術を教えている。

本来は秘伝であり、無闇に他人に教えたりはしないのだが、鷲一や舞、雪乃などは巻き込まれるように厳しい修行に参加させられていたりしたのだった。


ちなみに舞は途中から陸上が、雪乃は警察の仕事が、秋穂は大学が忙しくなり、ここ数年は、主に鷲一と武志が毎日のように修行していた―― 女性陣が来なくなり、武志の祖父の容赦は皆無になった ――のだが・・・。


その中に隠形おんぎょう術という、いわゆる忍びの術がある。

武志はあまり得意ではなかったが、鷲一は厳しい師匠が素質を認めるくらい、得意だった。



呼吸音を限りなく無音に近づける、独特の呼吸法『静』など、鷲一は会得している隠形術を駆使して、木の上で気配を消していると、先ほど見かけた男が、鷲一の真下から少し離れたところを通り過ぎた。


ざっと見た感じ、新たな装備を身につけている様子はないようなので、ほとんどの危険は排除されたと言ってもいいかもしれない。

そして、初期装備ならば、狙うはグローブによるサポーターへの打撃だ。

本来であれば、リーチが短いため、攻撃を受けないように懐へ入るのに苦労するところだが、今回のように死角からの奇襲であれば、容易く攻撃できるだろう。


こちらの位置が完全に死角に入ったタイミングを見計らい、鷲一は木の上から身を投げつつ、男の左ひじのサポーター目掛けて、手刀を繰り出した。


飛び降りざまに鋭く放たれた手刀は、正確に男の左ひじのサポーターを捉えた。

サポーターの上からとはいえ、かなりの痛みが走ったのか、男はうめき声をあげて倒れ込んだ。


「う、ぐぉっっ!!い、いってえぇぇ!!な、何が起こった!?・・・だ、誰だ、お前!?」


ボディスーツ姿を見れば、同じ受験生と分かるはずなのだが、どうも突然の出来事に混乱しているらしい。


その反応で取るに足らない相手だと確信した鷲一は、男のことをよりも、視界に表示されているものに気を取られていた。


【グローブ(攻撃力13)によりサポーター(防御力7)を攻撃し、成功しました】

【攻撃成功により、ライフを6削りました】


「なるほど、こういうふうに表示されるのか」


急に襲われたことと、その相手に半ば無視されていることに腹を立てたのか、倒れている男が先程までよりも、かなり声を荒らげて叫び始めた。


「おいっっ!!何言ってんだっ!?てめえぇぇ、何しやがったあぁぁ!!!」


攻撃された側にも表示されるのかどうか、確認したいとこだったが、男はメガネをつけていないようだった。


「おい、お前、メガネつけないのか?」

「はんっ!あんなもん、かけても何もねぇじゃねえか!!捨てちまったよっ!!」

「・・・サポートAIに聞かなかったのか?」

「はぁ!?AIが何だってぇ!?さっきから、訳分かんねえこと、言ってんじゃねえよっ!!」


端末を開けば、誰にでもサポートAIが与えられるはずなのだが、おかしい。

まさか、ここに来てから、もう30分以上経ってるのに、一度も端末を起動してないなんてことは・・・・ありそうだ・・・・。

まあいきなり見知らぬ所に飛ばされて、混乱していれば、無理もないのだろうな。


何にせよ、相手がどうであれ、これはサバイバルなので、鷲一に遠慮してやるつもりは全くなかった。


「仕方ない、相手にも表示されるかどうか、確認したかったが、またそれは今度試すとしよう。じゃあ、お前には悪いが、次の段階に移らせてもらう」



明らかに年下である鷲一の態度に、男はまた腹を立て、何かわめいていたが、鷲一は―― 男の力量も見切っており、無警戒でも男の攻撃なら対処できるという確信があったため ――全く意に介さず、それよりも騒ぎを聞きつけて、他の受験生がやってこないかどうか、辺りを警戒した。


どうやら、相変わらずこの辺りには、自分と目の前の男の二人しかいないと確認できると、再度攻撃を開始した。


まず、ようやく立ち上がったばかりの男の顔に掌底を入れ、仰け反らせて、男のグローブが自分の防具に当たることを警戒して、倒れざまに相手の手から身につけているグローブを剥ぎ取る。

そのまま体勢を崩して尻餅をついた男の頭を目掛けて、真横から右足を振り抜く。

鷲一の右足で、左側頭部を蹴られた男は、勢いよく吹っ飛び、うつ伏せに倒れた。

しかし鷲一は容赦することなく、うつ伏せに倒れている男の左腕を、左手で背中側にひねり上げながら、左膝を背中に押し当て、右足で男の右手を踏み、身動きを封じた。



そこまでして、ようやく鷲一が口を開く。


「安心しろ。掌底も蹴りも打撃というより、体勢を崩すことを優先したから、そこまでダメージはないはずだ」

「ゴホッゴホッ・・・て、てめぇ、離しやがれぇ。・・・い、いてぇ、て、手をひ、捻るのはやめろぉ」

「大人しくしていれば、これ以上危害は加えない。ただちょっと実験したいことがあるだけだ」



どっちにしても、今の状態では、反撃どころか身動きすらできないと悟ったのか、男の抵抗が弱まった。

とりあえず、身動きを封じるという鷲一の作戦はうまくいったようだ。

読んでくださってありがとうございます!

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○新宮流隠形術

 『静』:呼吸に使われる筋肉、体内器官を可能な限り制御し、呼吸の際に発生する音をほぼ無音に     近づける呼吸法。

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