それぞれの初動
岩峰雪乃は困惑していた。
警視庁公安部の先輩二人と共に、派学への潜入捜査と、審査に参加している過激派宗教団体の監視のために、派学の審査を受け、さっきまで派学敷地内のホールにいたはずなのだ。
ところが急に視界が光につぶされ、次の瞬間、目を開けると、どことも知れない場所にいたのだ。
「何が起きたの・・・・」
周りを見回したが、やはり見知らぬ場所で、辺りは黒っぽいゴツゴツした岩だらけだった。
分からないことは考えても仕方ないので、まずは公安部の先輩と連絡を取るべく、隠し持っていた緊急連絡用の端末を取り出そうと持ち物を確認したら、派学に支給されたもの以外の持ち物が無くなっていた。
「なんで何もないのよ・・・・いったいどうなってるの・・・・」
しかし、雪乃は昔から深く考えるよりまず行動という性格なので、緊急事態に対応するべく、まずは辺りの探索から始めることにした。
――― ――― ――― ―――
御陰将也は高揚していた。
仲間に聞いた時には、有り得ないと信じなかった現象が本当に起こったからだ。
遡ること十数時間前、すでに審査を終えた仲間から情報を聞き出すために、将也はチームのアジトの一つで、その仲間と落ち合っていた。
しかし、現れた仲間はなかなか話し出さなかった。
どうやら裏切りへの報復を恐れ、この場に現れはしたものの、チームへの恐怖以上のものに怯え、話すのをためらっているらしい。
その仲間の普段の臆病さをよく知っている将也だったので、情報を話さないことより、何にそんなに怯えているのか興味をそそられた。
「おい、何にビビってしゃべれないんだ、あぁん?言ってみろ」
「は、はい、や、やつら、得体の知れない力を、つ、使うんです・・・」
「はぁ?何だそりゃ?・・・まあいい、しゃべらないなら、その気になるまで痛めつけるだけだ。・・・・おい!お前ら、やれ。間違っても殺すなよ」
数時間後、ボロ雑巾のようになった仲間が、血溜りの中に横たわっていた。
しかし、結局、そこまでしても、将也は断片的な情報しか手に入られなかったのだった。
話は現在に戻る。
「はははは、面白くなってきやがった!」
将也の笑い声が、周囲のゴツゴツとした岩場に響き渡る。
久しぶりに感じる高揚感に胸を躍らせる将也だったが、あくまで冷静に、仲間から得た情報と端末の情報をすり合わせるところから始めることにした。
――― ――― ――― ―――
小河美波は恐縮していた。
何が起こったか全く分からず、辺りを見回しても、緑の景色ばかりだったのだ。
「な、何が・・・・う~・・ここどこぉ・・お姉ちゃん・・・助けてぇ・・・・」
昔から臆病だった美波は、二つ年の離れた姉に助けられてばかりいた。
その姉は、誰よりも勇敢で、誰よりも優しく、小さい頃から美波の憧れだった。
しかし、姉はもういない。
二年前の不運な事故によって、姉はこの世を去ったのだ。
姉の死は、美波にとって、『世界の終り』と同じだった。
事故の後、思いつめて、姉のあとを追って死のうかとも思ったが、愛する娘を立て続けに失う両親の悲しみを思うと、どうしてもそれだけはできなかった。
それから美波は悲しみに暮れ、引きこもってしまった。
それからしばらくたったある日、美波は夢の中で、最愛の姉と再開した。
夢の中で泣きじゃくる美波を優しく抱きしめがら、彼女は優しく諭すように話し始めた。
「いい、美波、よく聞きなさい。今までは美波がくじけそうな時、わたしがそばで守ってあげることもできたけど、もうそれもできなくなってしまったの。でも、わたしがいなくても美波は大丈夫。わたしは信じてる。わたしの妹だもの!それにいつまでもパパとママに心配かけてちゃダメよ。さあ、美波、前を向いて、歩き出して!」
それから美波は、一歩ずつ歩んでいく決意をし、姉に比べて、臆病でどうしようもない自分を変えるために、派学を受けたのであった。
突然の出来事に弱気になっていたが、夢の中での姉の言葉を思い出し、美波は気を取り直した。
「お姉ちゃん、見ててね。み、美波、頑張るからっ」
――― ――― ――― ―――
森山凛花は憤慨していた。
「何よこれっ!どうなってるのっ!?」
そんなことを言っても返答はないのは分かっているが、そう言わずにいられなかった。
確かに最終審査を受けたのは自分の意志だが、必要だからとしたくもない格好をさせられたり、光で目の前が真っ白になったと思ったら、周囲が見覚えのない場所になっていたりと、すっかり翻弄されているのが、どうしても気に入らなかったのだ。
「全くいったいどこなのよ、ここっ」
辺りを見回してみると、離れたところに湖らしきものが見え、周囲は草原のようになっていて、遠くにはかなり高い山や海らしきものが見える。
「ここが最終審査の会場なのかしら。・・・・ん?・・・あれは、同じ受験生?」
離れているから、はっきりとは分からないが、湖のほとりに人が立っているのが分かる。
このまま悩んでいても仕方ないので、凛花は意を決して近づいてみることにした。
――― ――― ――― ―――
本城武志は驚愕していた。
「グボベブボボボ・・・ブハッゴホッゴホッ・・・な、何だこりゃあっ!?」
視界が光に包まれたかと思ったら、急に水の上に投げ出されたのだ。
突然だったので、水をかなり飲んでしまったが、塩辛くないので、どうやら淡水らしい。
「冷てぇぇぇ!!!ん?あれ?そうでもない!・・・・変だなぁ、三月なのに・・・」
三月に寒中水泳なんかすれば、相当寒いはずであるが、それほど寒くなかったのである。
しかし、このまま水の中にいれば、体温を奪われて、いずれ溺れてしまうので、体力のあるうちに陸に上がることにした。
幸いにもちょっと離れているが、陸は泳いでいけるような距離にあるので、そっちへ向かって泳ぎ出した。
着衣での水泳だったので、時間がかかるかと思ったが、ボディスーツは撥水加工されているらしく、またある程度体に密着しているので、思ったより時間はかからずに陸に上がることができた。
「すげぇなこの服!どんどん乾いてくぜ!こりゃ、便利だ!」
さらに速乾性も高く、防刃耐衝撃性能、撥水加工やその他諸々も合わせると、いったい一着でいくらするんだろうと、鷲一なら考えただろう。
だが、武志は便利でちょうどいいくらいの感想しかなかった。
「さて、これからどうするかだな。こういう時、鷲一がいれば助かるんだけどなぁ。・・・・よし、合流を目的にしつつ、その間は俺にできることをやるか」
武志が鷲一に考えるのを任せているのには理由がある。
もちろん、鷲一がそういうのを得意というのもあるが、一番は武志が考えながら行動をすると、事態がややこしくなるという、過去の経験に基づく自覚があるからだ。
そもそも、そういうのは苦手なので、ほとんど考える前に行動してしまうのだが。
「よし、方針決めたら、あとは動くだけだ!とりあえず、あっち行くか」
主に勘頼りに行動を開始する、武志であった。
今回は主人公登場せずで、すいません・・・。
次回から主人公メインです。
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