寿司屋にて
母親から紹介されたバイトで大金を手に入れた俺は回らない寿司屋に行こうと決めた。
なんせ母親から大量の蟹を運んで欲しいというバイトだったので海の幸が食いたくなったからだ。
「へいらっしゃい!」
店に入ると威勢のいい大将の声を聞いた。
俺は店のカウンターの席につく。
「お嬢ちゃん。帽子は入るときとるもんだ」
おっと。大将すまなかったな。さすが老舗の寿司屋だ。マナーがあるな。
「すみません」
ちゃんと謝った。
「後、上着も脱いでね」
すまないな大将。
「すみません」
謝った。
「で、注文は」
おお。言ってみたかった台詞を言えるな。
「おまかせで」
「……お嬢ちゃん悪いけどお金あるの? 高いよウチは」
「けっこうあるから大丈夫さ。万札が十枚あるから今」
「そうやって持ち金を開けっ広げにいうのは粋じゃないよお嬢ちゃん」
「すみません」
「まあいいけど。ほら玉子だよ。お嬢ちゃん」
玉子か魚じゃねえな。まあ玉子ってなんか通っぽいかんじがするから最初はしょうがねえか。
醤油につけて食べることにする。
「お嬢ちゃん! 醤油はシャリじゃなくネタだけにつけな!」
玉子だしよくね?
「……すみません」
一応、謝った。
その時、入り口から新しい客が入ってきた。
「よっ大将! 来ちゃったよ!」
「おお! いらっしゃい!」
常連みたいだ。帽子と上着を着ているな。
「今日は何握る?」
「おまかせで頼むよ」
「了解!」
はっ? 帽子と上着を脱がせねえの?
「あいよマグロだよ!」
玉子じゃねえの?
うお。あの常連、滅茶苦茶シャリに醤油つけてんじゃん。
「……」
何も言わねえの!?
「よし。大将。存分に握れよ。今日がその手で寿司を握れる最後の日になるからな!!」