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(そういえば、今年もそろそろ奴に会いに行く季節だな)
おれはふと思い出した。今はおれも大学を卒業して就職し、都会でバリバリ働いている。結婚もして子供もでき、幸せな家庭を築いてもいる。だが、時が経っても決して忘れないものがある。年に1度の透の墓参りだ。
本当は、墓参りだけじゃなく、透の家に行って、仏壇に線香をあげたいと思う。最初はそれもやっていたのだが、社会人になって10年を過ぎた頃だったか、透の母親に「もう来ないでほしい」と云われてしまった。少なからずショックだった。透が死んでからというもの、おれが彼女の息子であるような気持ちでいたのだ。なぜだと理由を尋ねると、透の母親はこう云った。
「来てくれるのは本当に嬉しいし、こうやって話すのも楽しいんだけど、あなたが帰った後、とてつもない虚しさが押し寄せてくるのよ。それに、こう云っちゃ悪いんだけど、あなたは結婚して幸せな家庭を築いているでしょ。でも、うちの息子は若くして死んでしまった。もちろんあなたが悪いわけじゃないんだけど、でもどうしても『なぜ私の息子だけが』って、やり切れない気持ちになってしまうのよ」
おれははたと気づいた。今まで、自分の気持ちばかりで、透の母親の気持ちを考えていなかったことに。
とにかく、透の母親がそう思っている以上、おれも何も云えない。「分かった」と応えるしかなかった。だが、このまま透との縁がきっぱり消えてしまうのはおれも嫌だ。
「その代わり、透の墓には毎年お参りさせてもらっていいか?」
おれの問いかけに、透の母親は微笑んで云った。
「もちろん、それはやってあげて。透のお墓、綺麗にしてあげてちょうだい」
毎年、盆休みには故郷に帰り、透の墓に手を合わせに行く。花瓶の水を換え、花や供物を供え、墓石を磨いて綺麗にし、それから手を合わせて近況を報告する。透への墓参りは、おれの30年来の大切な行事だ。




