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「わりぃ、しめっぽい感じにさせちまったな」
隆が少し申し訳なさそうに云った。
「いや、むしろ久々にあいつのことを話せて、嬉しかったよ」
おれは隆に云った。日々の生活に追われていれば、30年も前に死んだ友人のことをゆっくり思い出す機会など滅多にない。忘れていた大切なことを思い出させてくれたようで、おれは目の前の調子乗りな中年に、感謝せずにはいられなかった。
「透の葬式のこと、覚えてるか?」
ふいに聡がおれに云った。おれは首を横に振る。
「いや、おれ実は、奴の葬式には行ってないんだ」
「そうか。そういや、そうだったよな」
聡はそう云って、ジョッキにわずかに残ったビールを飲み干した。
そうなのである。親友との最後の別れをおれはしなかったのだ。透の死は、あまりに悲しく、その悲しみはおれの心を長くにわたって残ることとなった。それこそ、長きに渡って青春時代を過ごしてきた、親友の別れができなくなるくらいに――。
透の事故からすぐ、おれは校則を破った罰で生活指導室に入れられ、1ヶ月そこで過ごすことになったのだが、反省文を書かされても、何をさせられても、涙が溢れてどうしようもなくなってしまうのだ。先生も、事情を理解してくれていたようで、たまにちらりちらりとおれの様子をうかがうくらいで、厳しいことは云わなかった。昼時になれば、「飯食って来い」と声をかけてくれる。だが、当然ご飯など喉を通るはずもなく、缶ジュースを飲むばかりであった。1ヶ月で随分痩せたものだ。
そんなわけで、おれは親友の葬式にどうしても出る気にはなれず、参列を辞退したのだが、大勢の友人たちが、透と最後の別れに訪れてくれたみたいである。
その中のひとりから話を聞いた話だ――。
棺の中の透は、顔の左半分がガーゼで覆われていたらしい。
その理由がおれにはすぐ分かった。事故のせいで、透の顔の左半分は見るに堪えない状態になってしまっていたのだ。みんなに綺麗な顔を見てお別れしてあげて欲しいと、透の母親は願ったのだろう。




