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「おーい、サン。はいるぞー」


 ノックと同時にワンがわたしの個室に入って来た。


「ちょっと、勝手に入ってこないでよー」


「わるい、わるい。まあ、いいじゃん」


 特に悪いと思っている様子はない。

 わたしも文句こそつけたものの、ワンが勝手に入ってくるのが当たり前のようになっている。

 言うだけ言うと、ベッドに寝転がった。


 最近この世界で流行っている『ドグラ・マグラ』をよみだす。


「いっしょに、いれて」


 ワンも布団に潜り込んでくる。


「やだよーだ」


「もう入っちゃってるもんね」


  なんでワンもここにいるんだろう、と思ったけど、そういえば二人揃って休日なんだった。


「その本、おもしろい?」


 ワンが聞く。

 体を動かすのが好きなワンはあまり本を読まないのだ。


「うーん、流行ってるから読んでみたけど、よく分かんないや。いままで流行ってた本と全然違うよね」


「どんな話?」


「なんかね…主人公は病院で目を覚ますんだけど、死んだと思ってた博士がいきていたり、主人公が人殺しかもしれなかったり、そうじゃなかったり、…なにがホントで、なにがウソか分からなくなっちゃうの」


「よく分かんね」


「だって、わたしも分かんないもん」


 本好きな3棟のツーが書庫で発見したらしいけど、わたしには難しすぎるようだった。


 そういえば。


 異世界もおんなじ文字をつかっているなあ、と今更気がつく。


 もしかしたら、昔、わたしの世界の人が、あっちの世界に行って、文字を伝えたのかもしれない。


「なあ、サン」


「ん、なあに?」


 うつぶせになりながら、ワンがわたしに声をかける。


「最近休みになるたび、どこに行ってんの?」


 本の頁をめくる手が止まりかける。


「え…なんで?」


「だってさ、休みがほとんど被っているのに、いつも姿がみえないじゃないか」


「…」


 もしかして、これを問いに来たんだろうか。

 ワンはうつぶせになったままで、表情が見えない。




 ワンに、ほんとうの事を話すべきだろうか?


 きっとワンなら異世界の存在を信じてくれるだろう。すべてを話して、アタラに頼んだら一緒に連れて行ってもらえるかもしれない。シュンだって信じてくれたのだ。


 でも、クルマを運転していた職員にはくれぐれも話さないように言われた。パニックになっちゃうからって。


 どうしよう。


 ぐるぐると頭の中をいろんな思いが掠め去る。


「じつはさ…」


 あとさきのない言葉が口から溢れ出した。


「なあ、サン。俺、ヘンなのかな」


「え?」


 本の紙面をながめるのをやめて、ワンを見る。


「最近さ、体が言う事を聞かないような気がするんだ」


 もしかして、へんな病気にかかったのだろうか。


「ビョウキかなあ」


 うつぶせたまま軽い口調で言うワンの、腕が小さく震えている。


「…」


「とつぜん、視界が真っ赤になって…それで、気付いたら、へんな事をしているんだ。やってる最中はなんとも思わないのに、終わってみると後悔でいっぱいになる」

「それは…どう、というより、なにをしているの?」


 どう尋ねていいか分からない。


「言いたくない」


 遮断するかのような言い方だ。


「そう、だよね。ごめん」


 普段はおちゃらけているワンがしおれている。


「きっと疲れているんじゃないかな。職員に言って、お休みもらうと、」



「そういうんじゃない!」



 信じられないような大声だった。


 ワンも瞬間目を見開くと、辛そうに顔を歪めた。


「ちがうんだよ。そういうんじゃないんだよ。………頭冷やしてくる」


 帰る、そう言い残すと、ワンはわたしの部屋から出て行った。


 わたしはベットに座ったまま、ただ途方にくれた。


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