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 着いたのは、広い場所だった。


 広場……といえるのだろうか?

 わたしが乗って来たクルマのようなものがいっぱい並んでる。


 わたしが景色に見蕩れている間、アタラは、なにやらクルマを運転していた人と話すと、職員はクルマをつれてどこかに去っていった。


「ほんとうに…ほんとうにあったんだ!」


 わたしは自分が異世界にいるという事実に感動した。


「ねえ、アタラ! これはなに?」


 わたしはアタラを引っ張って、近くにあった赤いモノを指差した。

 なにかを入れるクチが二つ着いている。


「これはポストっていうんだ」


「ポスト?」


「そう。手紙っていうのを運んでくれる。人はそれで意思の疎通ができるんだよ」


「手紙くらい知ってますよー」


 わたしは少しふくれてみせた。


「知ってるんだ」

 

 とぼけたように目を見開いた。


「友達同士で手紙交換しますもん」


「なるほど。興味深いね」


 アタラは一人で悦にはいったように頷く。

 

 その後もわたしは気になったモノをすべて問いただして言った。

 興奮していたから相当騒がしかったと思うんだけど、彼はにこにことわたしの質問に答えてくれた。

 

どうやら自分がいる場所というのはショッピングモールという所で、人々が通貨を使って『買い物』をするらしい。通貨っていうのは、別名お金、ともいうそうだ。


 わたしは興奮した。

 こんなに人が沢山いるのをはじめてみたし、世界中がキラキラしているように見えた。


 わたしはアタラが『買って』くれた『クレープ』というものを、ベンチに並んで腰掛けながら一緒に食べた。


「ねえ。アタラはもしかして異世界から来た人なんですか?」


 ふと気になった事を聞く。

 まるで異世界の事をぜんぶ知っているように感じたから。


「そう見える?」


 アタラがわたしをじっと見つめた。

 まるで深海のような。なにを考えているのか分からない深い瞳が、黒ふちのメガネ越しにわたしを見つめている。


 けど、そこには、恋愛のような甘い色はなくて、まるで暴いてやる、とでもいいたげな獰猛さがあった。


 それなのに、口元は笑っている。

 アンバラスでちぐはぐだった。


「そう、見えます」


 わたしもじっと見つめ返す。

 なんとなく負けたくなかった。


 お互い視線を交らわせたまま、どのくらいたっただろう。


 アタラはふっと、目元の力をぬくと、ほほ笑んだ。


「アタリ」


 そして、わたしの手から食べ終わって、手で弄んでいたクレープの紙をとると、捨ててくるよ、と言って、ベンチから離れていった。



 

 それから、アタラはわたしを何回か異世界に連れて行ってくれた。学校というところや、カラオケという遊び、電車にも乗ってみたりした。わたしは約束の前日になると、畑仕事で疲れていたにもかかわらず、眠れなかったりした。


 だれにも、異世界に言っている事は喋らなかった。


 秘密にしてくれ、と運転していた職員から言われたからだった。そうじゃなくても言えなかったと思う。

 


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