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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ある魔眼持ちの薬剤師の日常

ある魔眼持ち薬剤師の日常

作者: カスミ楓

「あーーーーーもうっ!」


 私は両足を開いて腰を落とし……。


「いい加減にーーーーー!!」


 右腕を腰に添え……。


「してーーーーーーーーーー!!!」


 ひねり出すように右腕をへと打ち出しました。


 正拳突き。


 私の出した拳と、私の元へ四本の足を用いて突進してくる巨大なサイのような生き物がぶつかり、一瞬だけ拮抗した後、轟音と共にサイの肉体がばらばらに弾け飛びました。

 ついでに、拳から出た衝撃インパクトは地面を裂いて砂埃を撒き散らしながら、そのまま遠くまで全てをなぎ払いながら飛んで行きました。

 ふわりと裾の広いロングスカートと私の長い黒い髪が靡き、赤く染まった眼が徐々に元の黒色に戻っていきます。


 あー、もしあの衝撃波の進行上に生き物が居たらごめんなさい。


「しつこい生き物は女の子に嫌われるんだよっ」


 そう、これは天罰なのです。

 あの巨大サイ……ビルライノと呼ばれるランクSの魔物ですが、穏便に済ませようとした私を何と十キロ以上も追いかけてきたのですよ!

 ストーカーにも程がありすぎますよね、まったく。

 まー、魔物が人を追いかけてくるのは、ある意味習性みたいなものでしょうけど、それでもさすがに十キロはしつこすぎます。



 さて、私の名は薬剤師のナミル=イクランと申します。男爵家の次女として生まれ、御年十六になりました。

 でもどこか知らない貴族に嫁入りさせられそうになって逃げてきましたので、正確には元男爵家次女ですけどね。


 そして私の居る場所は、魔境と名高いサルクルの森です。

 高レベルの魔物がうようよいる魔の森として有名で、Sランククラスの冒険者数人でパーティを組んでも、森の半分まで行ければ御の字という超怖い場所なんです。

 そんな怖いところに、私のような可憐でか弱い少女が一人でいるのは不自然なのですよね。

 え? 可憐でか弱い少女は、サイを正拳突きでばらばらにしないって?

 ご尤も。



 実は、私は魔眼持ちなのです。しかも複数の属性を持つ。



 魔眼は百万人に一人居れば良いほうで、更に複数の属性を持っている人なんて、何十年に一人という確率だそうです。

 一つなら単なる魔眼、二つならペア、三つならトライゴン、四つはテトラゴン、五つはペンタゴン、そして過去最高である六つがヘキサゴンと呼ばれています。

 魔眼の持ち主は眼を通して特殊な能力を発揮でき、先ほどの私のように周囲に漂う魔力を拳に集めて圧縮させ放つ事だって出来ます。

 ちなみに魔力制御と魔力収束という二つの能力を使ってやりました。それ以外にも、暗視、魔力透視、鑑定、祝福、念話を持っていたりします。

 そう、私はちょーレア(焼き加減じゃないです)なヘプタゴンなのですよ、ふふふ。世に発表すれば歴史に名を残すくらいです。まあ晒す気は無いですし、今の職業はごく普通の薬剤師なのですけどね。


 そして私は貴重な薬草を採りに、この魔境までやってきたのです。


 私の作る薬は効き目は非常に高く(祝福で効果アップしてます)、更に一般のご家庭でもご購入できるくらいの価格に抑えています。

 もちろん買占めは、ダメ絶対、ですから本当に必要な人だけに限定して売っています。


 世の中には回復魔法、或いはポーションというものがありますが、あれは使用しすぎると身体の負担が高くなり、最悪廃人コースまっしぐらなのです。

 自己の治癒能力を魔力で加速させてあげ、更に足りない体力までも補給させているのですから、細胞が悲鳴を上げるのは当たり前ですよね。

 更に回復魔法を使える人は魔眼持ちに比べれば多いですが希少ですし、ポーションに至っては高級なものなら家一軒分の値段はします。

 そりゃ一瞬で怪我が治りますから、特に戦闘中には大変便利でしょうし、一命を取り留めるためにも必要と思います。ただ、そうして使用されすぎると代償は遠くない将来訪れてきます。

 


 だからこそゆっくり時間をかけて治療していく薬は身体に優しく、そして懐にも優しいのですよ。



 閑話休題。



 さて、もうそろそろ森の中央に着くはずですが……。

 私が求めているのはハイル草という痛み止めの素になる薬草です。しかしやっかいなことに、この魔境のように魔の瘴気の漂うところが主な自生場所であまり手に入らないし、市場では非常に高価なものとなっています。

 だから手っ取り早く自分で採りに来たのです。

 そして森の中央は一番瘴気が濃いので、その分品質の良いハイル草もたくさん生えています。


 私は普段着の格好のまま、森の中を更に中央目指して歩き始めました。

 もちろん魔力制御で身体を覆うようにフィールドを張っていますので、普段着でも破れたりする事はありません。

 たとえカ○ハ○波の直撃を喰らっても、きっと三秒くらいは持ちます。


 ……だってあれ惑星壊せるし、流石にそれを防ぎきるのは魔眼持ちでも無理です。まあそんな架空のお話は良いとして、そろそろ中央のはずなんですけど。

 そんな私の耳には、何やらドタンバタンと争っているような音が聞こえてきました。

 何か嫌な予感がします。

 慌てて私は音の聞こえた方向へ走り出しました。



 そしてその場に着いた私の目に映ったものは、白竜とポイズンクラブが争っている光景でした。



 白竜はこの森の主です。SSSランクというほぼ最高クラスの魔物で、知能も高く氷系の魔法なんかも使ってきます。

 対するポイズンクラブは、まあ名前通り竜に負けないくらいでかいカニです。

 ものすごく堅い甲羅を持っていて、更に猛毒を撒き散らすやっかいな魔物で、SSランクに位置づけられています。


 ……森にカニが居るのは不自然ですけど、そこは魔境ですし。


 白竜のほうは身体の一部が紫色に変色しています。毒を喰らったのでしょうね。対するポイズンクラブは、足が半分もげて、あちこちが凍り付き、甲羅にもひびが入っています。さすがのカニの甲羅でも、竜の攻撃には耐えられなかった模様ですね。


 ぱっと見て、押しているのは白竜です。さすが森の主、ほぼ最高ランクの魔物だけのことはあります。ただし、若干動きが鈍いのは毒が回ってきているのでしょう。時間をかけるとカニのほうが有利になりそうですね。

 おっと、白竜が大きく息を吸い込みました。氷のブレスを吐く予備動作ですね。カニは二本の大きなハサミをクロスさせて防御姿勢をとりました。

 そのカニめがけて、白竜の氷のブレスが炸裂しました。

 レーザーのようなブレスがカニに直撃。カニのハサミがみるみると凍り付いていきます。

 カニがブレスに押され、一歩後ろへと下がりました。がさっとカニの足から落ち葉が舞い散りました。

 しかし白竜のブレスも息切れを起こしているのか、徐々に威力が落ちていますね。

 カニの防御力はハンパないですよね。


 ……ん? 落ち葉?


 私が目を凝らしてカニの足下を見ると、ハイル草らしきものまで舞い散り……。

 って、ああーーーーー!!!

 よく見ると、カニの足下にはハイル草がたくさん生えています。カニが一歩下がるたびにそれが潰され……。


「まてやこら!!」


 私は足に強力な魔力を籠め一瞬でカニの懐に入り、ジャンプするようにカニの下からアッパーカットを食らわせました。

 竜に匹敵する大きさのカニが軽々と空へ飛び、そこへ白竜が襲いかかって尻尾で一撃与えました。バキン、と甲高い音を立てて甲羅が割れ地面へと激突しました。

 甲羅が割れた身だけのカニでは、もう竜には勝てないでしょう。


 そ、そんなことよりハイル草!!


 しかし私の足下には無残にも押し潰された残骸のみが残っていました。


 あ、ああ、あああ……。


 がっくりと膝をついた私の前に白竜が優雅に舞い降りてきます。

 そしてその大きな口を開け……。


「ナミル殿、助かった。礼を言う」


 と、人の言葉で話しかけてきたのです。

 そう、この白竜は私が数年前にここへ初めて来たとき喧嘩を売ってきたので、ふるぼっこしてあげたらなぜか懐かれたのです。

 それ以来定期的にハイル草を採りに来た私とお茶する間柄なのです。


「ちょっと! あなたたちが争ったせいでハイル草がめちゃくちゃじゃないですかっ!!」

「ええっ?! 我はあのカニに喧嘩を売られたから買ったまでだぞ? そもそも我はこの森の主、挑まれて逃げる事は許され……」

「喧嘩両成敗!!」


 私は白竜が弁明していのを無視して、問答無用でカニに喰らわせたアッパーカットを白竜にも与えてあげました。




「いきなり殴る事はないだろう! 死ぬところだったぞ?!」

「あなたにも責任はあります! なんですか、あんなカニ如き一撃で沈めてやりなさい! そうすれば、ハイル草も無事でしたのに」

「そうは言うが、カニのやつなかなか堅くてな」


 私の前に伏せをした白竜が横たわっています。とてもこの森の主とは思えませんよね。私がやらせているのですけど。

 あ、ちなみにちゃんと解毒して上げました。といっても、解毒薬を飲ませてあげただけですので、本当は二日ほどゆっくり休んだほうがいいのですけどね。


「あなた少し弱くなってません? 私が稽古をつけて差し上げましょうか?」

「竜はそうそう変わらぬ。それと我はまだ命は惜しいのでな」

「ふぅ、弱虫ですね。向上心を失ったら成長は止まりますよ」

「竜族の我を弱虫と言えるナミル殿が異常なのだ」


 そんな事はないですよ?

 それよりハイル草どうしましょう。ここ以外生えている場所ありますかね。


「白竜さん、ハイル草は他に生えているところ知っていますか?」

「我はそのような草など分からぬ」

「ですよねー」


 どうしましょうか。

 あまりここで時間を潰しても仕方ありませんし、とにかく探しに行きましょうか。


「では白竜さん、私を背中に乗せて低空飛行でお願いします」

「は? 我が人の子を乗せ……」

「つべこべ言わずさっさと乗せろよ」

「わ、分かりました!!」


 私が魔眼でガン飛ばすと、なぜか怯えた目をしてあっさりと乗せてくれました。普通、竜は人を乗せて飛ぶような事はしませんけど、私と白竜さんの仲ですしね。

 彼の首の上にまたがると、さっそく木々をなぎ倒しながら低空飛行で飛んでくれました。キラッ!


 さてさて、どこにありますかね。

 鑑定を使い、地面に生えている草を次々と見ていきます。でも流れるような速度なので、正直目で追うのは辛いです。


「もう少し速度を落としてください」

「これ以上落すと墜落する」


 竜が墜落なんて格好の悪い事言わないでくださいよ。


「ホバリングくらい出来るようになりましょうよ」

「我はまだ生まれて二百年しか経っておらぬ故、まだ飛行技術は未熟なのだ」

「二百年……しか……」


 竜族は万の年数を生きると聞いています。確かに二百年ではまだまだ子供でなのでしょうけど、だからカニと戦っていた時も空を飛んで攻撃しなかったのですね。

 やはり稽古が必要だったのでは?


 そうして三十分ほど回遊していると、ようやく少しだけ発見しました。

 ぺちぺちと白竜さんの首を手で叩きます。


「降りてください!」

「分かった分かった、何故我がこんな騎乗ペットのような扱いを……」


 何やらぶつくさ文句言ってますが、私と知り合った時点で足蹴にされるのは諦めてもらいたいです。



 こうして私は無事ハイル草を手に入れる事が出来ました。当初予定より大分少ないので、また数ヵ月後くらいに来る必要はありますが。



 △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽ △ ▽



 さて、魔境から私の住んでいる町まで徒歩一ヵ月はかかります。

 でも私が足に魔力を籠めて本気で走ると三日くらいで着く距離なのですけど、それでも三日です。とても面倒です。

 と言う事で、白竜さんに町まで乗せてきてもらいました。



 ……が。



「ひっ?! ド、ドラゴン?!」「に、にげろーーー!!」「た、助け……て」


 何やら大騒ぎです。


「なあナミル殿、何か大騒ぎなのだが良いのか?」

「ははは見ろ! 人がごみのようだ」

「ダメだこりゃ……」


 生意気にも白竜さんに呆れられました。

 まあ外野はうるさいですけど、私的には楽でしたし何も問題ありません。次回からもこの手で行きましょう。


「ありがとうございました」

「それではまたな、ナミル殿」


 我が家の前まで運んでくれた白竜さんにお礼を言って別れました。しかもちゃんと見送る時、手を振ってあげました。感謝の心は必要ですよね。

 ちなみに私の家は大通りに面しているので白竜さんくらいなら降りられるスペースはあります。


「おい、あれってあの薬剤師じゃねーか」「あのマッド薬剤師、とうとうドラゴンまで下僕にしちまいやがったぞ」「マジかよ」「なんで薬剤師なんてやってるんだよ」


 何やら騒々しいですけど、私はそれらを無視してお店の中へ入っていきます。

 そして袋の中から採れたてのハイル草を取り出しました。


 この草は痛み止めの素になります。

 偏頭痛や腹痛の薬にもなりますし、もちろん大怪我をした時にも使えます。

 まさに万能薬。

 しかもこの採ってきたハイル草はそんじょそこらの瘴気が漂う森に生えているものとひと味もふた味も違います。

 何しろSランククラスの魔物がひしめき合う魔境産なのです。高濃度の魔の瘴気に長時間晒されたハイル草は、特に強力なのです。

 あまりに強力なため、幻覚させも見える事すらあります。


 これをすり潰して、魔力を更に加えて、そして……。




 出来たっ!




「じゃじゃーん、合法ハー○薬!」



「「「ダメだろ!!!」」」



 お店の外から伺っていた人たちから一斉に突っ込みいれられました……。




後日、作成した薬は何十倍にも薄めて普通の痛み止めにしました



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