エピローグ
6人が須崎に連れてこられたのはあるアパートだった。
「…ここは?」
「…ああ、先生はここに住んでるんだ」
そして須崎に階段を上がっていくのに6人がついていく。
*
須崎がドアを開け、ドアの傍にあった電気のスイッチを入れると、
「…ほら、入れ」
そして6人が中に入った。
20代半ばの男一人暮らしの部屋、と言うのはこんなものかどうかよくはわからないが、色々なものがあちらこちらにおいてある部屋だった。
ただ、不思議なことに本棚はスポーツ関係の本が一杯置いてあり、中でもサッカー関係の本が多いように思えた。
*
「…何もないけどな」
そう言いながら須崎はコップを7個と清涼飲料水が入ったペットボトルを6人が座っているテーブルの上に置いた。
暫くの間沈黙が流れる。やがて、
「…でも、先生。何でオレ達のいる所がわかったんですか?」
信幸が聞くと、
「…ん? おまえの親から連絡があったんだよ」
「え?」
思わず絶句する信幸。こっそりと家を出たつもりだったの知っていた、と言うことだろうか?
「これから寝ようか、と思ってた時におまえの親から電話があってな。『息子がいなくなったので探して欲しい』って連絡があったんだよ。念のために圭亮や早乙女たちの家にも電話してみたら、どこの家でも息子や娘がいなくなってた、っていうじゃないか」
「…」
「これは一大事だと思ってな。あちらこちら探してたら、あのマンションにおまえ達がいた、とこういうわけだ」
「…そうだったんですか…」
「…それにしてもおまえらも…、あんな夜中に子供だけで集団で出歩くなんて、常識じゃ考えられないな。ああいうこともあるかと思ってサッカーボールを持っていったのはよかったな」
「…」
6人は何もいえなかった。確かにそうであろう、どう考えたって正しいのは担任である須崎のほうだし、自分達だって一歩間違えれば危なかったのだから。
「…マンション荒らしに関しては先生も話は聞いてたし、どうなるかとは思っていたけど、まさかおまえ達が調べていたとはな」
「…」
「…まあ、でもおまえ達のことだ。これで懲りるとも思えないけどな。また何か事件があったら首を突っ込みそうな気がするんだが。…そうだろう?」
「…」
6人は何も言わなかった。
「…何も言わない、って事はそうだ、っていうことだな。…よし、だったらこうしよう。これから先生がおまえ達の監督になる、ってのはどうだ?」
「…監督?」
思わず素っ頓狂な声を上げる信幸。
「そうだ。ほら、野球だってサッカーだってチームスポーツには監督がいるだろ? それと一緒だ。これからは何か調べたい事や気になることがあったら、どんな小さなことでもいいから監督である先生に相談しろ。そして先生の言う事を必ず聞くこと! その代わり、おまえ達に何かあったら先生が責任を取るから心配はするな。それでどうだ?」
「…じゃあ…」
圭亮が聞くと須崎は何も言わずに頷いた。
それはこれからもこういう事をやっていい、と言う須崎の意思表示だった。
*
「…まあ、とにかく、先生が責任もって送ってやるから今日はもう帰れ」
さすがにもう1時近い真夜中では小学生が夜道を歩くにはいくらなんでも危険である。
6人は須崎の言う事に従うと、立ち上がって玄関に向かっていった。
そのときだった。何かを思い出したかのように圭亮が、
「…ねえ、先生。ひとつ聞いていいですか?」
「…ん? なんだ?」
「先生、もしかして須崎雅彦選手でしょ?」
「え?」
「…だって、これ見てよ」
そう言うと圭亮はポケットから財布を取り出すと、その中から一枚のカードを引っ張り出した。
「…これは…?」
それを見たほかの5人が思わず絶句する。
そこにはおそらく試合中の様子を撮ったのであろう、Jリーグのチームのユニフォームを着て、ピッチに立っている須崎の姿があった。
「…先生の顔見たとき、何処かで見たことあるな、と思ってたんだけど。やっぱりそうだったんだ」
「…なんで、こんなの持ってたんだ?」
「…ほら、こういったカードがおまけに付いているスナック、ってあるだろ?」
「…ああ、覚えてるよ。オレもしょっちゅうおまえが買ったスナック食わされてたな」
信幸が言う。
「オレ、このチームのファンだったからさ、どうしてもこのクラブの選手のカードが欲しくて、一杯買ったんだけど、ようやく当たったのがこれだったんだよな。それでさ、今でも大事にとっておいてたんだ」
「先生、それって本当なんですか?」
唯が聞く。
「…よくわかったな。1年だけだけどな、先生は元Jリーガーだったんだ」
「本当?」
「…でもなんで先生なんかに…?」
「…実はな、先生は小さい頃からサッカーが好きだったんだ。で、高校もサッカーが強かった高校に入って、全国大会にも出場したことがあるんだ。それで、その、圭亮が好きだ、って言うクラブに入団して、公式戦にも何回か出たことがあるんだ」
「…でも、どうして辞めたんですか?」
「辞めた、って言うよりも辞めさせられたんだな。結局は先生くらいのレベルのヤツなんか何人もいたし、それ以上のレベルのヤツもそのくらいいたからな。どのスポーツでもそうだけど、10人が入団すれば、その分10人が辞める事になるんだ。他のクラブからも誘いがなかったし、じゃあ大学に入りなおそう、ってことで大学に入って、教員免許を取ったんだ。…それにしても、よくわかったな」
「いや、須崎雅彦、と言う名前を顔を見たときもしかしたら、と思って。そしてさっきの身のこなしを見て、やっぱりな、って思ったんだ」
結局、その後は6人は須崎の運転する車にすし詰めになりながら各々の家に帰り、行く先々で須崎が頭を下げるはめになってしまったのは言うまでもない。
*
それから数日たって、信幸たちが捕まえた男はやはりここ最近のマンション荒らしだということがわかった。
更に調べてみると意外な事実がわかった。
なんとその男は以前、その盗みに入られたマンションが利用していたセキュリティシステムの会社に勤めていた、と言うことだったのだ。
数年前に会社を辞めて以来、生活に困りマンション荒らしをしていたらしい。
確かに元社員だったらセキュリテイィシステムの仕組みもわかることだろうし、それの外し方などもわかっていただろうが…。
マンション荒らしを捕まえた、という事で信幸たち6人はたちまちの内に有名人となってしまった。
そして、このときから「九十九里少年探偵団」と呼ばれることになる6人の活躍が始まったのである。
(おわり)
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