プロローグ
春、4月。
海からのさわやかな風が吹きつける千葉県茂原市にある九十九里学院小学校。
今日は始業式と言うこともあってか、登校してくる児童達もこれから新学年が始まる、と言う期待と不安が入り混じった顔をしていた。
そんな学校の校門の前に待ち合わせをしているのだろうか、一人の少年が立っていた。
それから程なくして、一人の少年が校門の前にやってきた。
「よ、ノブ、おはよう」
校門に立っていた少年――佐々木圭亮が挨拶をする。
「おはよう、圭亮」
ノブと呼ばれた少年――鶴田信幸が挨拶を返す。
「やれやれ、オレ達も今日から5年生かよ」
圭亮が言うと信幸が、
「そうぼやくなよ。3年生に逆戻りしたら大変だろう。…それより唯ちゃんたちは?」
「…もう中に入ってるぜ」
「そうか、じゃ行こうか」
そういうと信幸と圭亮のふたりは校門に入っていった。
*
玄関前には大勢の児童達が集まっていた。
おそらくクラス替えで自分がどのクラスに振り分けられたかを確かめているのだろう。
その中にいた肩までかかっている髪の毛の少女――早乙女唯が信幸と圭亮に気がつくと、
「あ、鶴田君、佐々木君。おはよう」
「おはよう、唯ちゃん」
「…さて、オレ達はどのクラスかな?」
「どこだと思う?」
唯が言う。圭亮は張り出されている掲示板から自分の名前を探した。…と、
「…なんだよ、ノブ。またお前と一緒かよ!」
「あんただけじゃなくてあたしや唯、みことも一緒よ」
圭亮の隣に立っていた髪の毛を両方でお下げにまとめた少女――森沢涼子が言う。
「…ってことはオレたち5人、また同じクラスかよ。ハハハ、これで5年連続だな」
信幸が言う。
「…幼稚園も一緒だったんだから7年でしょ?」
涼子が言う。
そう、なぜかわからないが、この5人は不思議と幼稚園のころからずっと同じクラスの仲間だったのだ。そのためか今では校内でも「5人組」としてけっこう話題になっているのだった。
「ハハハ、りょーこちゃんの言う通りかもしれないな」
「…でも、7年も一緒のクラスなんて、大人になったら自慢できるかもしれないですよ」
みこ――藤堂みこが言う。
「かも知れないな。…ま、とにかく行こうか。担任の先生が誰かも気になるしさ」
信幸の言葉に5人は教室に向かった。
*
教室に入ると黒板に座席表が貼り付けてあり、既に指定された机に座っている生徒達もいた。
そしてチャイムが鳴ってそれぞれの席に着いて間もなくだった。
一人の教師が教室に入ってきた。
意外、といっては失礼だが25〜6歳の若い男性教師だった。
その教師は教壇に立つと、
「…今日から君達の担任を勤める事になった須崎雅彦だ。先生もまだ教師になって日が浅くて、先生にとっては君達のクラスが初めての担任となった。先生もまだわからないことだらけだけど、君達と一緒に勉強して行きたいと思っているのでよろしく頼む」
そういうとその須崎教師は生徒達に一例をした。
「…さて、自己紹介はこのくらいにして、早速だが、この学校に転校生がやってきて、今日からこのクラスで一緒に勉強をすることになった仲間がいるので君達に紹介しよう。…入って来たまえ」
そう言うと一人の少年が入ってきた。
その瞬間、女子の間から驚きともなんともつかないどよめきが起こった。
そう、その少年は絵にかいたような美少年で、どことなく上品な雰囲気を漂わせている感じだったのだ。
「それでは、自己紹介を頼む」
そして須崎がその少年に自己紹介をするように促すと、その少年は、
「Enchante. Je m’appelle Kazumi Hara.」
その言葉に思わず全員が目を丸くした。と、
「…あ、今のはフランス語で『初めまして。私の名前は原和美です』と言う意味なんですよ」
その少年が日本語で言った。
いきなりフランス語で挨拶をしたと言う驚きと、日本語が話せるとわかって全員が複雑な表情をする。
「…なんでも、彼は何でもこの3月までお父さんの仕事の都合でパリに住んでいて、そこの日本人学校に通っていたそうだ。聞いた話だと向こうで生まれたらしい」
「パリ、ってフランスの?」
「…おい、それ以外のどこにパリがある、ってんだ?」
須崎の言葉に思わず笑い声が起こる。
「…まあ、とにかく、そういったことでまだ日本の生活に慣れていないところがあるそうだが、みんなもそういったところはちゃんと教えてやってくれよ」
「…とにかく皆さん、よろしくお願いします」
そして、原和美、と名乗った少年は全員の前で頭を下げた。
「…じゃ、そろそろ始業式が始まるから行くか」
そして、彼らにとっての新しい生活が始まったのである。
(事件編に続く)
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