九話、購入
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二日目。この世界の日付って元の世界とどう違うんだろうなーと、二日目と思った瞬間に考えた。朝。窓から降り注ぐ日差しは、元の世界とは、何も変わらなかった。
「朝か……」
誰もいない部屋で、俺は一人つぶやいた。こんな時だからこそ思う、朝早く起きる習性がついていてよかったと、休日で昼まで寝てるような人間は、この世界では生活できないのかもしれない。野宿で襲われて死亡とか、誰でも嫌だ。
「どうするか……」
やることは何も決まってなかった。そうだ、奴隷を買おう。前日から決まってた。朝起きたばっかで頭がはっきりしてないせいかもしれない。そういえば、奴隷一人二万ギルって安いのだろうか……と、一瞬考える。そういえば、この世界の二万ギルって、元の世界のいくらだ? と、俺は考えてみた。まず、昨日の飲食店だ。焼肉定食は、八十ギルくらいだった気がする。元の世界では、多分800円くらいだろう。宝石が一つ一万ギルというのは……元の世界で10万か、結構いいものだったんだなーって俺は思った。
え? まてよ。そうすると、人間の価値って、二十万円!?
高いのか安いのかは俺には全くわからなかった。いや、それは元の世界で人身売買なんて、やってないからわからなかった。まぁ、やっていたらどこの悪の組織の一員だ!? みたいなノリになってただろう。やってないし。
二十万円という価値について、俺は何も感想を持たないことに決めた。こんなことなら中学の公民の資料集に載っていた某隣国の人身売買のところでも、しっかり見ておくんだな、と思った。というか、ここで人身売買や人の価格、その他もろもろについて思考していても、仕方がない。俺はあさの色々な準備をして、部屋を出た。
朝特有の清々しい風が吹いていた。少し伸びをする。そういえば、服も買わないとな、と、思う。少し旅の準備をしてからじゃないと、この街は、
壊せないよな。
なんでもない日常の一部。俺はそう思った。もう引き返せないところにいるのかもしれない。今まで殺したのは何人だろうか? 唐突に思い至る。まだ三桁はいってないよなー、と、特に何でもないように思った。
「さて、行くか」
俺は一言そうつぶやくと、奴隷屋に向かって歩き出した。昨日の絶望の少女を買いに行こう。なぜだかはわからないが、俺はとても胸が高鳴っていた。
カランコロン。奴隷屋の扉の音が鳴り響く。
「いらっしゃーい」
条件反射的に発された、店主の声が響く。
「おう、あんたかいな」
昨日あったからだろう、多少親睦性は増えていた。
「おう、昨日の少女はまだいるかい?」
俺は聞いた。
「あぁ、居るよ」
店主はそう答えた。まだいるのか、よかった。俺は瞬間的にそう思った。だがなぜ、俺はあの少女にここまで惹かれているのだろうか? そんなことを考えた。だが、すぐにその考えを改め、そんなことはどうでもいいじゃないか。強いてあげるならば、貧乳だから、ついでに絶望の目。それでいいじゃないか。結論を出した。問題ない。
俺と店主は昨日と同じように、歩いた。カタカタカタ。地下へ降りる、階段の音が聞こえる。奴隷といえば、地下だろう。なぜだかはわからないが、俺はそう思った。
辺りを見渡す。見つけた。昨日の少女だ。絶望の色は……薄れた? 薄れた。俺はその少女の絶望の色が薄れたことを、認識した。だが、なお強い絶望の色。吸い込まれそうな瞳。俺は、その少女に夢中になってた。まぁ、貧乳だからだよな。一人納得した。
「彼女でいいのかい?」
店主が俺に聞いてきた。
「あぁ。問題ない」
俺は答えた。
「そうかい」
そう店主が言うと、少女の行動範囲を圧倒的に狭めている檻の鍵を外し始めた。少し経ち、
ガチャッ
檻は開いた。少女は世界に出た。閉鎖された空間を……脱出した。
「奴隷の服従魔法はどうするかい?」
店主は聞いてきた。なぜだろうか。自分でできる気がした。
「自分でやるんでいいです」
そう俺が言うと、
「そうかい、」
店主は答えた。少し物珍しそうな目をして、
「じゃぁ、勘定をお願いしますね」
俺はがさごそとカバンの中から袋を出した。なかには金貨が入っていた。多分金貨一つで一万ギル。銀貨は百ギル、銅貨は一ギル。昨日の宝石商や飲食店の経験で、俺はそう、予想を立てた。
「これだ」
俺は無愛想に答え、金貨を二枚渡した。
「こっちに来い」
俺は少女に、そう言い、少女と一緒に奴隷屋から出ていった。