表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

三十三話、決断

 人間が倒れたときの音が次々と聞こえてくる。俺が振るう剣が、一人、また一人と、着々と倒し、剣先を血で真っ赤に染める。人の死体廃棄場は、少しずつその数を増やし、憑かれている人間は倒れていく。

「昨日ぶりですね」

 元彼と相対する決意をしたソラの声が聞こえる。始まったのか。俺は戻れない。彼女は戻れる。いや、わからない。戻れないかもしれない。だが、これは彼女の物語(ストーリー)であり、俺の物語という過去ではない。俺は彼女の物語を観客という耳で、聞きながら、斬殺する。人間を。人間を。斬り殺す。少しでもソラが集中できるように、少しでもソラとの戦いに乱入する人間が減るように、俺は剣を振るう。観客として、乱入者を減らし、最高の物語(ストーリー)になるように。舞台の上のために振るわれている緋色に光る剣。それは振るう度に炎をまき散らす。

「だれ゛だあ゛!? あ゛あ゛、ゾラ゛がぁ!?」

 元彼の声は響く。濁点まみれの声は、観客の耳に響きわたる。まだ、憑かれていない者には、確かな悲壮感を呼び寄せる。

 その中で俺は斬り続ける。一人また一人と、舞台の為。

「モトハル、あなたも憑かれてしまったんですね……私のことを憑かれていても覚えてくれていたのはありがたいです……本当に……」

 ソラは元彼、モトハルといったか、にたいしても敬語口調なんだな、とたわいもないことを考える。その間にも死体は斬られ積もる。

「あ゛あ゛? づがれ゛でい゛る゛? お゛れ゛ばぜいじょうだぞ? な゛に゛を゛い゛っでる゛ん゛だ? ゾラ゛は゛?」

「そうですね、わからないんですね。戻りたいですね。昔に。戻れるんでしょうか? 私にはわかりません……こんな状況は運がないという一言で片づく、仕方がない事なのかもしれません。ですが、それでも、壊れている貴方を見るのには……

 

  もう耐えたくないんです……」


 確かに後悔と愛情が織り混ざったソラ声。憑かれ、皮膚の色が変色したモトハルの耳には届いたのだろうか? モトハルをちらりと見ると、怪訝な目をしながらソラを見ている。

「悪魔には……復讐をしないとですね」

 もう戻らない過去。俺と同じ。そして、もう逢えないのも、俺と同じ。緋色が鈍る。魔力切れか。魔力を込める。

「また、私は貴方と生きたかったです、そして、一緒に逝きたかったです……」

 あぁ、もう駄目なのか…………

 ソラは前へ駆け出す。右手には、今までの行程の途中で買った細剣。俺の魔法によって強化されたその腕と、剣を使い、用意にモトハルという人間の皮膚を切り裂く。この場所に彼女を救える勇者は現れず、ただ居るのは、お膳立てをする勇者のみ。それは勇者とはその場所に居ず、ただの観客として、一人の不幸を聞いているだけ。勇を持つものではなく、只の異世界人。魔王は倒したが、勇はいらなかった。試されることもせず、激情だけに身を任せ。勇者じゃない。そんな者は断じて勇者じゃない……

「ぐがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!???」

 完全な終幕。

 血が出る音に、悲鳴。後から聞こえる、人間が倒れる音。積み重ねられた死体の数は一つ増え、少女は終わったが終わっていない過去を一つ得た。だが、その過去を進ませることはできず、戻ることもできない。

 ソラは、悲しき少女となった。それでも生きるのだろう、逃避する異世界人とともに……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ