三十二話、彼女は……
こうしてみると自分のタイトルを付ける際の適当さは嫌になりますね。
惨殺、斬殺、惨殺、斬殺、惨殺、斬殺………………………
積み上がる死体。流れ落ちる血液。目は白目をむくのが多く、焦点など保たれるはずもない。そこに俺は立つ。
「多いな……」
死体の山を背にしながらつぶやく。その間にも前から横から後ろから斜めからと、数多くの人間である筈の者共が押し寄せる。
また、繰り返しか。そう思う。この量的に、他の村からも呼んだんだろう。本当にうっとおしい。さっさと世界を壊させてほしい。
「!?」
声にならない悲鳴。あげたのは自分ではなく、隣にいる少女。
「ソラ? どうした?」
俺は聞く。聞いている間にも人間共の群は迫るが、負けるはずはないので、そこまで気にしない。
「あれ……元彼です……」
戦場でそんなくだらないことを、と、一瞬ばかり思った。だが、重大なことなのだろう。気持ちの整理がなにもつかずに、別れた人間ほど名残惜しい者であり物はない。突然過労死した肉親然り、家庭の事情により、転校する友人然り、だ。
「おまえが殺すか?」
何気なく俺は聞く。俺が殺してもいい。だが、引きずってしまわないだろうか? ソラは、彼のことを、延々と引きずることになるのではないだろうか?
俺にはわからない。俺は朱里を殺そうとは思わない。この状況ならすべての勇者補正により与えられた技能を以て、元に戻そうと尽力する。ソラにそれを求めることはしない。なぜなら彼女は非力だから。だが……
決別くらいはさせてあげてもいいのではないだろうか?
元彼を殺すのはつらいことかもしれないが、いや、辛いことだろう。だが、元彼を殺さないで、彼女は前に進めるのだろうか?
俺にはわからない。故に質問した。彼女ならそれを汲み取り、しっかりとした自分の答えを出してくれるだろう。異世界という現実から逃げ、この世界に暴虐という現実逃避をしている自分とは違う結論が出せるはずだ。俺はそう思う。
「わかりました。私が決めます」
敢えてだろうか、殺すという表現を用いずに、ソラは答えた。何故かはわからない。いや、心の奥底では、俺の意を汲んでくれたとは理解しているが、もっと表面的な何か。
まぁ、一つ言えるのは、彼女は決別するということだ、彼と、
「わかった。俺は全力でサポートしてやるよ」
この世界で旅の仲間であり、友人である、ソラの重要な局面だ。俺が補佐をせずに、誰が補佐をする。そう決めると、俺は瞬発的にダッシュをした。
あれ? 俺元彼が誰かなんて知らないや。
あちゃー。ミスった。このままだと巻き込んでしまうかもしれない。急ブレーキ。急旋回。もう一度ダッシュ。
後ろに戻ってきた俺にソラは怪訝な目をする。
「元彼って誰?」
「あれです」
ソラが指さす方向には、悪魔に取り憑かれても、イケメンと言えるほどの美貌の持ち主が居た。あれは全世界の非リア充の敵だな、と俺は思う。殺さなくてはいけない、と、先刻した決意を忘れそうになる。嗚呼、駄目だ。一瞬で思い直す。
「わかった。アイツ以外を倒せばいいんだな」
「はい、お願いします。ありがとうございます」
さて、イケメンを見せられた恨みを晴らしますかね。世間ではこれを八つ当たりというらしいが、気にしては駄目だ。世間なんて見えないのだから。