三十一話、人間殺し
溢れる。人と認識できても人間と言いたくないもの。所謂ゾンビに相対したときの気持ちだろうか、としばし考える。だが、実際はゾンビほど人間をやめたわけでもなく、とり憑かれた「だけ」の人間なのだ。
「くそっ」
苛立たしげに緋色の剣を、俺は振るう。斬っても斬っても終わらない。憑かれ人の山。死体は辺りに散乱し、この寂れた村にこんなにも人がいたのだろうかと、俺は驚愕する。
傍らを見ると、ソラもしっかりと敵を斬っている。悲しみの顔で、時々顔を伏せながらも、襲ってくるものを斬っている。勿論ソラ単体では、剣を振るう力など無きに等しい。俺の身体強化魔法を使ってやっとだ。無理矢理俺に従わされる魔法を使われなくても、しっかり斬り殺すといってのけたあたりに、覚悟というものを伺うことができた。
因みに、なぜこんな無意味な思考を延々と続けているのかというと、ゾンビのように、津波のように、わらわらと襲いかかってくる人間に、意識を向けるのが疲れたという位のものだ。
「はぁ……」
そろそろ魔法で一掃するかな、と考える。
自分への被害をなくすために一歩退くが、人間は、俺の方向へしつこく迫ってくる。
「ちっ」
舌打ちを一つ。そして魔力を練る。
「《束縛<ペリオリズモス>》!!」
辺りの人間全体の動きを止める。
「ソラ!!!!」
叫ぶ。それに反応してソラも後ろに下がる。俺と同じくらいまで下がったところで……
「《束縛<ペリオリズモス>》!!!」
ソラが受け持っていた人間の動きも止める。うまく成功したのを見、俺は新たな魔力を練りながら、束縛を解除せず、封じ続ける。
溜まった、
「《熱き隕石<ケオメテオリティス>》!!!!!」
上空から降る隕石。それは肌の色が変色した人間の肌を焼き尽くす……
轟々と燃える炎。人間は燃え尽きた。
「ふぅ……」
一つため息をもらす。が、そんなことをする暇も無く。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぉあ!」
後ろから新たな人間が迫り来る。
「多いなぁ!」
俺は苛立ちを声にぶつけながら、剣を握る。隣のソラも同じようにしている。
俺はかけ声と共に剣を振るう。敵から見ると降りかかる剣が、聞くには嫌な音を残しながら肌に食い込む。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ!」
迫り来るときと同じような悲鳴をあげ、人間は倒れる。
空気はまだ澄んでいない。悪魔はまだ居るし、とり憑かれた人間も数多くいる。
この村を見捨てて次のところに進んでも構わないが、夜寝ているときに襲われるのは、辟易とするな。と思考を取り消す。ゴーレムとかを召還したいなと思っても、俺は召還魔法が苦手だ。
「次を、探すか」
結局俺たちに残されている道は、この村の人間を皆殺しにする事だけらしい。