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三十話、伝令

 宿屋を駆け上がる。元の世界なら既に体力を切らしていたと思われるスピードを維持し、宿屋の階段を駆け上る。宿屋のおばさんに怪訝な目を浮かべられたが、気にしてはいけないと自分に言う。まぁ、宿屋のおばさんが悪魔に取り憑かれていなかったことを、少しは喜ぶべきか、それともこれから殺さなくてはいけないことを、悲しむべきか、走りながら考えた。答えはでなかった。

 ドアを開ける。

「おい! やばいぞ!」

 俺は怒声を発する。

「はい……? 何かあったのですか?」

 目は覚めていたが、まだ眠そうな調子でベッドの上に座っていたソラは言った。

「この村の人間が、悪魔に憑かれている……」

 怒声からうって変わり神妙な俺の声。それに対してソラがあげた声は、

「は……?」

 疑問だった。なにがなんだか解らないと言う目をしている。俺は感覚的にこの村にきているのが悪魔だと解るが、一般人であるソラは解らない。こんなところで一般人であるソラと勇者補正が働いている俺とで差がでるとは思わなかった。少し魔法を考えた。文字が頭で踊った。

「《魔法の贈り物<マギアドロ>》」

 詠唱する。自分に働いている魔法の効果を、他人に渡す呪文だ。先ほど使った探索<アナズィティスィ>の魔法をソラに渡す。魔法がソラに流し込まれる。流し込まれた瞬間、ソラは驚愕の顔を露わにし、

「どうするんですか?」

 すべてを理解したように、俺に質問をしてくる。

「とりあえず、この村の悪魔が取り憑かれている人間。悪魔憑きを倒そうと思う。殺すつもりだが問題ないか?」

 少し残酷なことを聞いてみる。いや、聞かなければならない。俺の旅の目的上、いつかはこの村を壊すことになるのだ。ソラに恨まれたとしても、壊すことに、人間を殺すことになるのだ。

 ソラは悩んでいる様子だった。残された時間は余り無いと思う。何故なら部屋の外の悪魔の気を感知できる程度に、悪魔の力は憑依されている。しかも昨日はこの気配を感じられなかった。即ち、この悪魔は一晩でかなりの人間に取り憑くことができる上級な悪魔だと言うことだ。

 そんなことを考えているうちに、考えはまとまったらしい。

「問題ないです。未練は沢山ありますが、ご主人様の目的に沿うのも奴隷の役目だと私は思っていますから」

 陰鬱な微笑みを浮かべながら、

「壊しましょう。この村を。この村をおそった悪魔を」

 言ってのけたのだった。

 ソラの決断に、一瞬俺はこの村を残そうか迷った。だが、悪魔が居るとなれば、この村から出してくれるか解らない。結局は壊すしかないのだ。いいわけを自分で作り納得させる。仕方ない仕方ない。心の中でつぶやく。

「じゃぁ、行くか……」

 微妙な顔で、ソラは「はい」と頷いたのであった。

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