二十九話、異変
異変は夜のうちに起こるものらしい。昨日とはうって変わって、清々しい朝の目覚めを俺は迎えた。だが、空気が暗い。自然な暗さではなく、人為的に寄った暗さ。だが、完全に人為的でもなく、微かな自然が残る。そんな暗さだった。
明らかにおかしい。
「何があった?」
一人呟く。ソラはまだ寝ていた。暗い空気はソラから出ていないことを確認し、安心する。だが、暗い空気が出ているのは事実だ。とりあえず、ソラを起こそう。そう思い、ソラの方へ動く。
「ソラ、起きろ。朝だ。何か異変がある」
端的に要点を述べながら起こす。ソラは起き始め、
「う……? 何があったのですか?」
質問を返してくる。
「何か、空気が暗い」
抽象的にしか聞こえそうもない言葉で、俺は言う。
「はい……? 何がですか?」
そういうと、もう一度ソラは寝始めた。確かにソラを起こすには不確定な動機だったなぁ、と、反省する。
だが、それ以上良いと思われる起こし方など、俺には思いつかなかった。強制的に起こしても良いが、安眠を貪っている中、不確定な要素で起こすのも悪いと考える。
「仕方ないか」
実際どんな状態か見てきてから、起こそうと思い、一言だけつぶやくと、俺は宿屋の部屋から出た。
外に行くと、暗い空気はさらに強く、暗くなっていた。明らかにおかしい。
「なんだ……これは?」
俺は疑問の声をあげる。だが、疑問だけでは意味がないと悟り、魔力を練る。
「《探索<アナズィティスィ>》」
詠唱が終わり、この暗い空気の正体と、発生源を探る。自分から調べることは大切だ。
探り終わった後に俺の口からでてきた言葉は、簡潔なものだった。
「悪魔……憑き?」
この村は、悪魔に憑かれているらしい。
昨日はそんな様子を微塵も見せなかった。隠れていたか、昨日の夜か。判別する手だてはない。そして、目的もわからない。八方塞がりな思考を中断し、悪魔憑きの力が強い方向に向かおうとした、
刹那。
斜め後ろ後方に、気配を感じた。
「まだいだのがぁ!」
奇声をあげながらこちらに迫り来るのは、人間だった。
人間なのは確かだ。ただ、肌は黒く濁り、持ち寄る空気が変わっている。それを俺は敏感に感じ取った。
そう、悪魔憑きの人間だと。
「ちっ」
一つ舌打ちをする。やっかいだ。瞬間的にそう思う。
「《神託の炎<マディスフロガ>》!!!」
とっさに呪文を唱える。神の加護を受けた炎が悪魔に憑依された人間を焼き殺す。
「ぐばぁ!?」
もはや人間の声とはとれないような悲鳴をあげ、倒れていく。
「ふぅ……」
これは厄介なことになりそうだ。俺は自分が使った魔法から微かに出ている、魔力の残滓を感じながら思った。