二十七話、暇とか飯とか
手持ち無沙汰だ。暇だ。
ソラがなかなか帰ってこない。というか、自分自身のこらえ性があまりないので、ずっと座っているというのは苦行以外の何物でもない。
「なんかすっかなー」
だが、やる気も起きない。やる気は出ないが、何もしないのも嫌だ。なんて二律背反した思考だろうと自嘲。
「寝るかなー」
安眠を貪るのも必要だろう。この世界に来てから警戒することが多かったので、安らかな眠りにはあまりついていないような気がする。幸い今は宿屋にいる。寝ても問題はない。
「真昼間から寝るなんて、元の世界ではあんまなかったなー」
と、思いながら、俺は眠りについた。
「ご主人様ー? ご主人様ー!」
五月蝿いな。俺は眠っているんだ。どこの世界でも眠っているのを邪魔するのは苛立つ。果てしなく苛立つ。
「うぅ!?」
俺は呻き声を出す。
「あー、よく寝た……?」
外が暗い。腹の中は空腹を訴えている。
「今何時だ……?」
一瞬で意識が覚醒した。この世界に来てから寝起きは良くなった。警戒しながら寝ることが増えたのもその一因だろう。
「正確にはわからないですけど……七時位じゃないでしょうかね」
「七時か……」
この宿屋って飯出してくれたっけかな? 忘れた。出してくれるといいな。
「飯食いいくか?」
「そうですね。どっか適当に食べに行きましょう」
ソラの口ぶりからすると、この宿屋で飯は出ないらしい。まぁ、仕方ないか。
「じゃぁ、行きますか」
完全に覚醒した意識と、ソラと共に、俺たちは飯屋に向かった。
「うまいな。これ」
刺身を食いながら感想を表す。なんの魚かはわからない。元の世界にあった魚じゃないよなー、と思う。
「この食堂の旨さは折り紙付きですよ」
ソラも至福の表情を綻ばせながら同意する。やっぱ、現地の人に案内を頼むといい店に連れていってもらえるものらしい。
「ところで今日は何処行ったんだ?」
気になったから聞いてみた。無神経かもしれないけど、まぁ死ぬわけでもあるまい。
「あぁ、ちょっと父さんの家に行きました。無駄に喜んでましたよ。結末も知らないで」
彼氏の家にはいかなかったのかな、と思ったが言うのはやめた。辛い感情もあるのだろう。
「そうか。元気そうだったか?」
「はい。元気そうでしたよ」
先程までの至福の表情とは一転し、こちらからはなかなか伺えないような微妙な表情になる。
「まぁ、こちらの身を無駄に案じてきたのは辟易としましたが。売ったのは自分自身ですのにね」
あぁ、憎めないのか。瞬間的に俺はそう思った。なぜかはわからない。
「お前も大変なんだな」
誰にでもあるのだ。忘れたい過去が。俺が殺した人間にも。ソラにも。俺にも。過去を引きずって死にたくない。だが、過去は取り戻すことはできない。
「まぁ、頑張りますよ」
微笑んでソラが言った。俺も頑張らないとな。と、思う。
話をしているうちに飯は食い終わった。満足だ。
「宿屋に行くか?」
「そうですね」
俺たちは二人、宿屋に帰った。