二十六話、確信
村に入るにつれて、ソラの疑惑は確信に変わっていった。
「絶対に私の村ですね……」
街から100m程度離れたところで、完全に確信にと変わったようだ。
「どうする? ここから速攻で壊してもいいし、中に入ってもいい。お前の村だ。お前に決めさせてやるよ」
俺は言い放った。まぁ、ソラの村だ。ソラに決めさせても良いだろう。まぁ、最終的な決断は俺がするけどね。ソラじゃ村壊せないし。
「どうしますかね……」
そうソラが言っている間にも、着々と俺らは村に近づいている。
「まぁ、入ってから壊しても良いしな。選択は無限だ」
「じゃあ取り合えず入ります……お別れもしたいですしね」
「そうか」
殺人鬼と旅をしても、性格は殺人鬼に染まらないらしい。まぁ、村長は嫌っても、元彼は嫌っていないのだろう。まぁ、村長ともお別れをしたいような人なら、俺との旅にはついてこない筈だしね。あくまで持論だけど。
村は、貧乏そうだった。見るからに活気がない。始まりの街と比べる必要もないほどだ。
「寂しい村だな……」
ついこぼれでる。
ソラに聞かれたら悪いと思うが、俺の率直な感想はこれなのだ。ファンタジーでの村と聞くと、隣人同士の結びつきが強く、貧乏でも和気あいあいとしているイメージが強いと思うのだが、この村にはそれがない。沈んでいて、道を通る人々にも、会話があまり見あたらない。
「前よりも酷くなっていますね……」
ソラが村にいる頃より酷くなっているらしい。何故だろうか。
「活気が出てもおかしくないんですけどね、街からの税金はなくなりましたし」
「殺人鬼が来る可能性があるから沈むんじゃないのか? 税金なんて命よりは軽いだろ」
「税金は重いですよ。生活できませんしね。一時の喜びか、永遠の苦しみか、どっちを取るかという問題なんでしょうね」
「というか、事実暗くなっているのに、明るい前提のこの話って意味があるのか?」
「ないですね……」
自分の村が暗いことに辟易としているのか、ソラ自身の顔にも陰りが出ている。
「大丈夫か?」
俺は聞く。
「まぁ、この村のみんなよりはいい生活をしていましたからね。弱音なんて吐いてられません」
あぁ、そう言えば料理の魔法があったから、元の世界っぽい物も簡単に作れたな。ソラは初めて食べたとき感激してた。
「といっても、村がこんな惨状なのは結構来る物がありますね」
「俺の住んでいたところは昔から平和だったからな。あんまわかんねーや」
こっちに来るまでを少し思い出す。戻りたいなぁと、思うが、戻る方法なぞわからない。
「いいですねー、元の世界は。地球、でしたっけ?」
「あぁ、良いところだった。本当にな」
過去は戻らない。戻れない。戻りたい。
村を歩くが、やはり陰鬱としている雰囲気は何処も変わらなかった。一つ思ったのは、村としては大きいな、と思った。これまで見てきた村の中で最大級の大きさだった。
「どうします? 行きたい場所があるのですけど」
言いづらそうだ。何か思うことがあるのか。俺はいない方がいいかもしれないな。わざわざソラの過去に入ることもあるまい。
「俺がいない方がいいか?」
まぁ、行きたくないと言えば嘘になる。でも、魔法を使ってまで行きたくない。本人の意思は尊重したいってところだ。
「ありがとうございます。一人で大丈夫です」
「じゃぁ、俺はさっきあった、宿屋<パピャ>にでも居るな」
大きなアヒルの彫像が飾ってある宿屋だった。珍しい宿屋もあるものだな。
「わかりました。では、また後で」
そう言うとソラは歩きだした。ここは尾行でもせずに、素直に宿屋に行くか。