二十三話、魔王戦其の弐
諦めるな。諦めては駄目だ。方法は確実にある。魔王がこちらに接近する。気にするな。魔王を倒す方法を考えるんだ。魔王だって世界の一部だ。魔王を壊さずに世界を壊すことなどできない。魔王が剣を降りかぶる。くそっ、取りあえず視界をぼかそうと、魔法の詠唱を始める。
「《霞炎<オミフリフロガ>》!!!」
ゆらゆらと揺れる灯火のような空間を剣と俺の間に作成。
何故か俺は炎系の魔法が得意だ。とっさに視界をぼかす魔法を発動したら、炎属性だった。まてよ、炎属性の霧が、空中に霧散している?
この作戦が成功すれば、きっと魔王も倒せる。そう思った俺は、魔法を発動させる。が、
「おぉっとぉ!?」
危ない。わざわざ視界をぼかしたのに剣に当たるところだった。魔王は一瞬のうちに視界がぼけたので驚いたらしく、行動が少し遅れている。今の一瞬だ。そう思った俺は、先ほど考えた作戦を発動させるため、詠唱を始める。
「《水の盾<ネロアスピダ>》」
俺の周りに炎耐性がある盾を一瞬で作る。
「《物質作成<イリコズィミウルギア>》」
最後に、油を作製!
「なっ!?」
魔王が吃驚した。上の三つはすべてが簡単な魔法だが、剣を振るう時から、避けたときまでに、三つの魔法を発動されるとは思っていなかったのだろう。とっさの判断で発動させた魔法だったが、偶然にも、三つの魔法以前に発動させた魔法で、かなりの量の魔力が練られていた。それを魔法として具現化させる時間など、ほんの数刻で十分だ。にしても危なかった。魔法妨害を発動するほど魔王が冷静だったら、まだピンチは続いていただろう。
灯火のように揺れていた火に、油が着火する。爆発が起こる。轟く轟音。なんとか水の盾で自分は守る。衝撃が俺に当たる。熱くはないが痛かった。
え、これだと、俺水の盾で守り切れてなくね?
俺は後ろに吹き飛んだ。
火による火傷は水の盾の効果で無かったが、衝撃と音を考えに入れていなかった。衝撃でかなり吹っ飛ばされ、結構な箇所を打撲している。それに耳もまだ痛い。予想以上の音がした。
「《光の救済<フォスアナクフィスィ>》」
俺の周囲を光が包む。それと同時に痛みは和らぎ、外傷が消えていく。
「便利な魔法だなぁ」
俺は感慨深く呟く。ふと思い立って、魔王が居た場所の方に目を向けると、そこにもう魔王は居なく、魔王を倒したと証明できるものも何もなかった。さらに、付近一帯が先ほどの爆発により、廃墟といってもいい程の状態だった。
「やりすぎたな……」
というか、ソラは大丈夫なのだろうか。全く考えていなかった。これに巻き込まれたとなると結構やばいな。
「大丈夫ですよ……危なかったですけどね」
「おぉ、よかった!」
ソラが生きてたのは嬉しいな。うん。同じような境遇だしな。
「まぁ、ご主人様とそこの怪物が戦っているとき、私は街の方に避難していましたからね。危なかったですし。それにしても……」
ソラが街の方を向く。俺もそちらに注意を向けた。怒声が響いている。「今度は何があった!?」と聞く男が居る。
「やべぇな」
こんな所に人間が居るなんて、おかしいな。普通は先ほどの爆発で居なくなっているか吹き飛んでいる。
「逃げるか、壊すか、か」
俺は悩んだ。