二十二話、魔王戦其の壱
なんだか、ながいんだか短いんだかわからない一話に……
魔王が神速とも言うべき速さで俺の懐に入り込む。
「ちっ!」
俺は舌打ちをしながら剣を抜く。同時に魔王も剣を抜き……
両者剣を振るい、剣と剣がぶつかった。金属音が付近一帯に響きわたり、近くの砂埃は周囲に弾け飛んだ。
「なかなかやるな」
魔王が俺に言う。
「ありがとよっ」
言い終わると同時に俺は魔法を唱え始める。
「《緋色の剣<アリコスパシィ>》!!」
俺の剣が緋色に光り始める。詠唱の終わりにはもう少し……
「《悪魔の囁き<ディアヴォロスプシィスィロス>》!!」
魔王の声が響いた。同時に黒い何かが俺の魔法を止めようと妨害してくる。
「チッ!?」
俺は叫びながら魔法の発動に使っていた魔力を少し防御に回す。それと同時に新たな魔力を練る。
先ほどの杖使いとは違い、真っ当な魔法での魔法妨害。それほどなら少し魔力を練れば防げる。
が、
「甘いぃっ!!」
一度後ろに引いていた魔王が俺に再度接近する。抜いた剣を振りかぶる。俺はまだ剣の強化魔法が発動していない。
強化していない剣で魔王の剣を受け止める。先ほどより重いっ!?
「単純な魔法妨害でもすると思ったか?」
成る程、敵の魔力を自分の剣の強化に換算する魔法か。防御に回していた魔力が奪われている。その分が強化されていたのだろう。だが、
「考えている暇なんてあるのかっ!?」
魔王の攻撃がさらに重くなる。こちらの剣で受け止めるのがいっぱいになってくる。
「よしっ!」
俺の剣が緋色に光る。強化は完了した。強くなった剣で少し押し返す。が、完全に押し返すことはできない。
「《黒い悲鳴<アスワドウルリャフト>》」
魔王が冷徹な声で詠唱をする。剣と剣の間から悲鳴が響く。俺の耳に響いてきた声は確実に俺の精神力を蝕み、妨害してくる。
「くそっ、何でこんな早く魔王がっ!?」
無意識下に声がでた。当然だろう。異世界に転移した場合、魔王はラストボスじゃないのか?
「敵の有能な芽は早くに摘む主義だからなっ!」
魔王が叫ぶ。当然だろう。わざわざ敵が自分を殺せる強さになるまでのんびりしている奴などいない。
「そうかよっ!」
そう俺が応えると同時に、俺は剣に込める力を強くする。だが、これでは八方塞がりだ。一瞬力を抜き、別の方向から、攻めるっ!
が、力を抜いた瞬間。向こうが力を入れ、
「ふんっ!」
こちらを押してきた。突然の行動に吃驚し、俺は後ろに吹き飛ばされる。
「やはり戦闘経験はまだまだだな。勇者よ」
知るもんか。俺は再度飛びかかっていった。
自分でも不思議になるほどの声を上げながら前へ走る。そして右の方に剣を降ろし、左上へ、斬り上げる。
「まだまだだな」
魔王は斬り上げた剣をいとも簡単に剣で受け止める。剣が駄目か、なら、魔法で攻める。
「《炎の槍<フロガロンヒ>》!!!!」
魔王の四方八方から槍を出現させる。単純な魔法なので、妨害するほどの時間はない。
それに対して魔王は剣を周りに振るう。炎の槍はいとも簡単に空中に霧散。その力を剣は得る。こちらに魔王が向かってきた。
「ちぃっ!」
俺は剣に魔力を込める。魔法という難解なものでもなく、ただ単純に強化する。魔法と違って複雑な相乗効果が生み出されないが、単純な力は少し変わる。
「無意味だな」
魔王が呟き、俺の剣も振るわれる。空中で魔王の剣と俺の剣がぶつかるが、いとも簡単に俺は押し負ける。後ろに倒れ込んだ。
「チェックメイトだ」
魔王が勝ち誇った笑みで言った。