二十一話、破壊の渦中
城が崩れていく。ガラガラガラと、音を立て崩れていく。
「壮観だな」
思ったとおりのことを、俺は言葉として紡いだ。青い空には城から沸き上がるような砂埃が待っている。それが清々しい青空を壊す。
「そうですね」
本当には納得していない様子でソラが呟く。まぁ、自分の国が壊されたとして俺が喜ぶことができるか?と言われてもできないだろう。だが、壊す人間はいるのだ。俺のように。
「そうか」
分かったように俺はつぶやく。多分本当は分かっていないのだろう。でも、フリは大事だ。世界で生きるには、偽りも必要なのだ。
「次はどうしますか?」
ソラが言ってくる。離れたいのだ。人の悲鳴から。今は止んだが、先程はトラウマになるような悲鳴が城から沸いていた。それが怨念としてうずくまっているような気がする。俺だってそうなのだ。まだ良心というものを多く持っているソラには耐えられないのだろう。
「まぁ、次のところを適当に探して壊すか。まぁ、街全部を壊す気はあんまりないよ。気分が出たら壊すけどな。次は……騎士隊のところでも襲うか」
何故街全部を壊さないのか? 世界を壊すとして俺は世界の何を壊すのか?
何も決まっていなかった。何も決めていなかった。この壊すという段階でそれを思い知らされた。俺だってわかっていたさ。わかっていたとも。俺がただこの世界に飛ばされたという現実から逃げたいだけだって。
「もっと真面目に探すかなー」
元の世界に戻る方法を探しても、戻らない時間はあるのだ。この一週間は確実に戻らない。万が一、もしかしたら、この世界に転移してきた時間で元の世界に戻れるかもしれない。だが、それはあくまでもしかしたらの話なのだ。本当にその時間に戻れる保証などどこにもない。というか、元の世界に戻る方法があるのかもわからないのだ。
「何をですか?」
ソラが聞いてくる。あぁ、前後の話と脈絡が何もなかったな。過去を振り返る。
「いや、少し元の世界に戻る方法でも探そうかと思ったんだよ。そんなもんがあるかは知らないけどな」
俺が観念したように言う。いや、事実観念しているのだ。諦めているのだ。
「そうですね……私が知っている限りでは、元の世界に戻った勇者はいません。希望を壊すようで悪いですが」
「そうか」
居ないのか。居て欲しかったな。一人でも、この世界で幸せに過ごしたと語られるであろう勇者は本当に幸せだったのだろうか? 元の世界に戻ろうと思わなかったのだろうか? わからない。過去など何もなく。すがるべきものは全て元の世界。あるのは勇者補正の力とソラだけ。
「まぁ、とりあえず騎士隊のところに行くか。憂さ晴らしだ。騎士には悪いが」
そういうと、先程より少しは明るい表情――といってもまだ暗いままだが、で、ソラは頷いた。
不自然なほど舞っている砂埃。血と肉の臭い。悲鳴。三重奏に彩られた場所。そこはまさに戦場というにふさわしかった。
「なにが起こった……?」
俺は呟いた。騎士団の休憩地がこんな状態になっているとは、にわかには信じられない。
「なにがあったんですかね?」
ソラも言う。
「わかんねー」
なぜこんなことが。わからない。砂埃の中を俺は進んだ。影が見える。周りには積み上げられた人影。よく見ると死体だった。
「勇者か?」
図太い声が響いた。真ん中の影。よく見ると人間ではない。異形の怪物。それもかなり巨大。しかしながらどことなく理知的な雰囲気を持つ怪物だった。
「あぁ、一応勇者だが、おまえこそ何だ?」
「あぁ、朕は魔王だ」
なぜだろうか。勇者物はラストに魔王がでるものではないのか?
「まぁ、魔王と勇者が会えば、やることは一つだろう?」
魔王がそう呟いた刹那、戦闘の火蓋が切って落とされた。