二十話、城内戦闘
「おーい、ソラ、大丈夫か?」
俺は倒したまんま城に入るか悩んだが、ソラの身を案じて、いったん城外に戻った。
「いねーなぁ……」
まぁ、勇者補正の魔法で探すけどね。本当に便利だな、と思いながら、使いたい魔法を頭の中に思い浮かべる。文字が踊る。
「《人間探索<アンスロポスアナズィティシィ>》」
頭の中に簡単な地図と赤い点が浮かぶ。結構近いな。そう思いながら、俺は走った。
「おー、ご主人様じゃないですか」
俺を見つけて早々、ソラは言った。
「何処行ってたんだよ」
「いやぁ、暇だったもんで情報探索に。どうせご主人様なら、私の場所くらいすぐ見つけると思いますし」
「否定はできないな」
勇者補正とは本当に便利だ。異世界にワープするときに未知の力でも働いているのだろうか。
「ちなみにこちらの研究者には、勇者が強い理由は説明できませんよ」
俺の思考を見透かしたように、ソラは言った。
「顔にでてますしね」
そんなに俺は分かりやすいのか。少し落ち込んだ。
「まぁ、落ち込んでいないで城に行きましょうか。少し戦闘は収まっているようですし、流れ弾の心配はないでしょう」
「そうだな。《透明化<ズィアファニスアンスロボス>》」
唱えた瞬間、俺とソラは周りから感知されなくなる。
「一気に行くぞ! 《飛翔<ペタオ>》」
まぁ、飛んだところで体感速度はそこまで変わらない。だが、飛んだ方が気分が乗る。気分は大事だ。
「おおおおおおおおお!」
俺は意味もなく叫びながら、飛んだ。叫んだ方が速い気がするからだ。まぁ、叫んでもたぶん周りには聞こえていないだろう。透明化しているしな。
「叫んでないで、さっさと行きますよ」
ソラに言われた。羽を持ったら叫んでみたいと思うんだけどな。
城に入ると、偉そうにしている太った貴族のような人間が居た。無駄に意匠が凝っている服を着ている。名前はわからん。というか名前なんて意味がない。
「状況はどうだ!?」
焦った様子で、貴族の前に来た兵士に言った。この様子を見ると、神殿派が不利なんだろう。
「はっ、王様。戦況は幾分かこちらが不利でございますが、傭兵の長らしき者と話を付けました。さらに、神殿の魔法戦士や、魔法使いも動員できるので、騎士たちに勝つことは容易であると思われます」
えー、負けてるけど、戦力は沢山あるから逆転余裕だぜ、ってことか。なら、少しでも逆転の目は減らすか。というか、王族嫌いだし。この貴族っぽい人、王様らしいし。俺が殺した王様の息子かな? 即位が早いな。
「《小さき炎<ミクロスフォティア>》」
同じ呪文で死んだ方が幸せだろう。俺が魔法を放った瞬間。王様と呼ばれた男は死んだ。声も上げずに。目には困惑の色が浮かんでいた。
「ざまぁねぇな」
俺はソラにしか聞こえないと思われる声でつぶやく。というか、ここで透明化しても無駄だな。解除。解除は念じるだけでできるから楽だな。
「お、おまえ等誰だ!? 何処から来た!?」
兵士が驚いたように言う。剣を抜きながら答える。
「上から」
剣を振るう。兵士も訓練はしっかりしているのか、よけた。
「意外に強いな。《緋色の剣<アリコスパスィ>》」
剣を強化する。威力が上がり、速度が上がり、熱くなる。金属の部分触るとやけどすると思われる。なぜ魔法でこうなるのかはわからないが、実践の魔法で重要なのは、過程より結果だろう。
「ま、魔法騎士っ!?」
驚いたように言う。割合どうでもいいや。勇者補正で強化された脚力で簡単に懐に入り、剣を振るう。
「え!?」
疑問の声を上げてももう遅い。こちらの兵士もなぜこんな速いのかと、困惑の目が浮かんでいる。バタッと音がして、兵士は床に倒れた。
「弱いな」
物足りないと考える。先ほどの杖使いは強かったな。と思い出す。まぁ、強い奴とも戦いたくないな、と思った。どちらもいやなんて満足だな。と、自分で自分を自嘲する。
「終わりましたか?」
後ろの方にいたソラが俺に声をかける。
「あぁ、終わったぜ」
まぁ、この人たちは悲鳴を上げていないので、兵士が来ることはないだろう。王様が居ると言うことは、跡継ぎ問題か。いきなり死んだから神殿派の王子と騎士派の王子で対立して、内部戦争か。馬鹿らしい。
「心底馬鹿らしいから、ここにいる神殿派を殺して、ついでに騎士派も殺すぞ。もう、この町に用はない。壊さずにいても、どうせ戦争のまっただ中だろう。生活が面倒になる。ついでに、戦争が終わっても最低数日はごたごたするだろうしな」
そう俺が言うと、
「はい、わかりました。さっさと行きましょう。わざわざ人殺しの現場を長くみたくはありません」
「おまえが殺すか? 意外と楽しいかもしれないぞ」
「いえ、遠慮しておきます」
「まぁ、命令する気はねーよ」
人殺しをしたくない奴にわざわざさせることもあるまい。
「まぁ、とりあえず、この城から壊すか」
と、俺が言うと、
「そうですね」
と、ソラが同意した。