十九話、戦闘其の弍
着地したか着地していないか。ソラがどうなったかをみる暇がないほど、激しい戦闘が続く。
緋色に光った俺の剣は、明確な決定打ともなれずに、敵の攻撃をなんとかいなしているだけだった。
ガキンッ!!!
緋色の剣と虹色の杖がぶつかり合う。が、剣は杖を押し切ることもできず、簡単に流される。
「魔力量、単純な腕力。どちらも達人レベルを超えた、未知の領域ですねぇ」
敵が余裕そうにつぶやく。こちらは、急激な戦闘で、肉体的よりも精神的に疲れていた。そんな状態で、敵の言葉に言葉を返すような余裕はない。
「ですが、戦闘技術や、魔法の応用技術が足りないようでは、宝の持ち腐れですけど、ねっ!」
最後のかけ声と同時に、敵はこちらに杖を振るってきた。なんとか、精神や息を整え、緋色の剣で防御する。
振るわれた杖を、剣で受け止める。そのまま相手の方へ押し返す。
が、敵はこちらが攻勢に移ると同時に、杖から伝わる俺の力を受け流す。
「ちっ、《煉獄の炎<カサルティリオフロガ>》」
炎魔法を、俺が唱える。上空から降り注ぐ、紅蓮の炎。
「魔法の筋が単純すぎますね、まぁ、こんな短い間で魔法を乗っ取られなくしたのは、すごい技術ですが」
そう敵が言い、こちらの攻撃をよけた。魔法ですら簡単によけられ、武器の攻防は簡単にいなされる。防御面へ特化している。こちらの勇者になっただけの付け焼刃の攻撃など簡単に防がれている。
こちらが思考している間にも、向こうは攻めてきた。
「せいっ!」
杖が、こちらの右下から迫る。緋色の剣で、防ぐ。八方塞がり。どちらからも攻め手がない。
「なかなか堅いですね……」
方法、方法はないものか。無効に痛烈な一打を食らわすことができれば、この戦闘には勝利できる。
「《速き光<タヒディタメガロスフォス>》」
向こうが詠唱をする。瞬間。悪寒が体の後ろを駆けずり上がる。圧倒的な、速さ。それを向こうの呪文は持っていた。こちらを驚くべき速さで来る魔法を感知できたのは、勇者補正という他になかった。付け焼刃の勇者補正でも、敵の攻撃は感じられる。ここまでの思考を一瞬でして、俺は魔法を放つ。
「《多き炎の盾<ポラフロガアスピダ>》っ!!!!」
瞬間的に、周囲全方位に炎の盾を数多く出す。偶然か、多くを出したのが功を奏したのかはわからない。が、光の魔法が自身のところに届くことはなかった。速き光の魔法。速い。魔法。
何かを思いつく気がした。わからない。速いのと魔法と、もう一つの何か……
黒き物体。人を殺す小型の物体。
銃
理解した。倒せる。相手は倒せる。魔法と物理攻撃。何も向こうの土俵で勝負することはない。元の世界なら元の世界なりの戦術はある。
完全に空気に飲まれていた自分を反省しながら、俺は詠唱を開始する。
「《物質想像<イリコズィミウルギア>》」
銃弾。鉛の弾。金属を想像しながら作った小型の物体。それがこの世界に召喚されると同時に、俺は勝ち誇った顔をした。こちらの顔に何か危機感を抱いたのか、向こうも魔法を発動しようとする。が、
「《爆発<エクリクスィ>》」
単純なこちらの方が発動は速い。そして、威力を殺し、推進力を上げた点の爆発を、召喚した鉛玉にぶつける。
相手が驚愕の顔をする。魔法で乗っ取ることができない、ただの鉛玉。杖を使って防ごうとする、が、それではダメだ。
おれ自身も鉛玉と一緒に最大速度で前進する。魔法を唱えることだど忘れて、敵はただただ驚愕を顔にする。
鉛玉の攻撃と、俺の剣撃。どちらも喰らえば致命傷になる。それを悟ったのか、相手は一瞬諦めたような顔をする。そして、
俺の剣が、敵の首を砕いた。
「ふぅ……」
やっぱり、世界は広い。勇者補正があっても倒しづらい敵は今後も出てくるだろうな、と思った。まぁ、強くて広い方が倒しがいはあるがな。