十八話、戦闘其の壱
町中では戦闘が繰り広げられていた。騎士が刺し、兵士がいなす。その後ろで神殿の魔法使いが魔法を放つ。傭兵は両サイドにいる。完全な騎士派VS神殿派の構図が出来上がっていた。俺はどちらにも加担することなく、透明化して街を駆けていた。
悲鳴を上げる人々。魔法の流れ弾に当たって泣きわめく人々。なにも感じない。せいぜいざまぁみろと思うくらいだ。俺が殺せなくて残念なくらいでもある。復讐の代行者などいらない。俺は自分の手で復讐をする。または、自分と同じ境遇の者で、だ。
「どうしますか?」
前を見ると城があった。すでに城に着いていた。
「とりあえず内部潜入だが……」
地味にやっかいだ。と続けるのはやめた。だが、やっかいなのは事実だ。まず、透明化してもドアが開くのは気づかれる。自然な物の効果をごまかすのが一番難しいのだ。
「仕方ないから、飛行でもするか……」
まぁ、城は少し固めの守り、簡単には入れず、城門は閉じられていた。まぁ、飛べば関係ない。便利だ。
「さて、飛ぶか。《飛翔<ペタオ>》」
呪文を詠唱して、空に飛び上がり、城の中に入ろうとしたそのときだった。
「ネズミとは感心しませんねぇ」
!?
俺は驚愕した。その声を発した方向をみると、確かに俺の方を向いていた。
「今は、確実に我ら神殿派が権力をつけるときなのに、それを、騎士ごときに邪魔されたくはありませんね。隠れた騎士さん?」
ばれている。俺は思った。なぜだ? 俺はわからなかった。透明化はなかなか人に気づかれないはずだ……
「空気の流れですよ。まぁ、今から死ぬあなたには、関係ありませんけどね、」
さらに驚愕。詠唱を始めた。これはまずい。透明化しているこちらを確実に見つけられる強さ。これまでの敵とは明らかに違った。
「《虹の光<ウラニオ・トクソスキア>》」
曲線状の光。数は……
七!?
一つ目、下から、俺は落ち着いて、後ろによける。二つ目、右斜め下、左前に。
「っ!?」
声にならない悲鳴。俺の右から。ソラが少し腕を切った。致命傷にならなかったのは、向こうが正確なねらいをつけれなかったからだろう。透明化は解除されなかったが、落ちた血は、確実に俺らの場所を伝える。
まずい! 瞬間的に俺はそう思う。場所が曖昧というアドバンテージが、半分奪われた。が、俺が思考している間も、確実に光の曲線は襲いかかる。透明化を声に念じる暇もなく、俺は相手にも聞こえる声で、呪文を詠唱する。
「《炎の球<フロガスフェラ>》!!!」
普段は中にも入っている炎を抜き、空洞状にして、発動する。予想以上に大きな炎の球体が、俺とソラを包み込む。
「なかなかやりますねぇ」
炎の球がいとも簡単に四つの光の曲線を相殺してから、敵は言う。
「まぁ、負ける気はありませんけどね」
悠長にしている暇はない。次はこちらから攻勢に出る。
「《緋色火花<アリコシャラーラ>》!!」
相手の現在位置に、火花を発動……
「ここまで簡単にわかる攻撃も珍しいですね。魔力の流れで補足が一発ですよ。案外素人ですか?」
そういいながら、敵の姿が眩む。瞬間、敵の位置を発動位置にしていた俺の呪文は、あらぬ方向に発動される。
「私の位置をずらし、その上で魔法権の強奪。こんなのの対策くらい初歩中の初歩でしょう?」
そういいながら、敵は、俺に向かってくる。俺は魔法を防がれた驚きから、反応が遅れていた。
「遅いですね、《虹の武器<ウラニオ・トクソプロ>》」
敵が持っている杖が虹色の輝きを帯びる。そのまま杖を振りかぶり……
やばい。あれに当たったら死ぬ。
勇者としての本能が語る。神速ともいえるような速度で、魔力を練り、
「《緋色の剣<アリコスパスィ>》」
俺の剣が緋色に輝く。まだ、終わっていない。負けてはいない。反撃を誓い、俺はソラを地面に落とした。大丈夫だ。飛行魔法で、しっかり着地ができるようにはしておいた。