十七話、朝方の喧騒
喧騒。いうなれば、阿鼻叫喚の図。俺は悲鳴を聞いた。なんだろう、俺は寝ている体を起こし、意識を覚醒しようと試みた。が、昨日遅くまで起きていたのが響いていたのか、なかなか起きれない。
「くそっ、《朝の覚醒<プロイアフィプニスィ>》」
魔法に頼り、俺は起きあがる。すべてを魔法に頼るような人間にはなりたくないのだが、何か騒がしいのに、二度寝をしようとも思わない。
起きた頭に、走る音、怒声、悲鳴。様々な音が鳴り響く。外の窓ガラスに目を向けると、土埃が立っていた。
「何だ?」
俺は疑問の声を上げた。横にいるソラはまだ眠っていた。
「起きろ、ソラ」
「うぅ~。、う~」
意識が完全に寝ている。軽くいっただけじゃ起きなさそうだ。
「ちっ、【起きろ、ソラ】」
ビクッ、ソラの体が跳ねた。
「ど、どうしましたかっ!? なにがあったんですか!?」
驚いたように大声を上げる。よくわからないが、驚いているようだ。
「いや、いきなり頭の中から声が響いて、強制的に意識を起こされたんですよ」
奴隷魔法効果で起きろといったら起きるということを俺は学んだ。便利だな、奴隷魔法。
「というか、それで何で私を起こしたんですか?」
「あぁ、外で喧騒が……
ぎゃぁぁぁ!!!!!!!
さらに強い悲鳴が響いた。
「どうした!?」
「なにがあったんですか!?」
俺たち二人は部屋の外に飛び出した。
目の前で馬に乗った騎士が駆ける。槍を手に持ち、武器を持っている人間を片っ端から襲っている。
「なにが……起こっている……?」
俺は思わずつぶやいた。なぜ、騎士が武装している人を襲っているのか、俺は考えた。
「なんで、こんなことに……」
隣にいるソラも絶句している。俺だってなぜこんなことになっているかなどわからない。騎士派がこの街を攻める理由は何なんだ?
「おい、そこのあんた! さっさと逃げろ! 殺されるぞ!」
道にいる青年が俺に向かって叫んでくる。人間が殺されているようだ。
「とりあえず……荷物持ってくるか」
一週間で買った旅のための荷物を置いていくのは避けたい。物質創造するにも、かなりの数があるので、疲労が来るはずだ。
「え、ご主人様!?」
宿屋のドアを開け、いきなり走って入った俺に、ソラが驚く。大丈夫だ、すぐ持ってくる。そう俺は思いながら、荷物を取りに行った。
幸い荷物は纏めておいたので、すぐに持ち出すことができた。そのとき、念のために武器屋で買っておいた、高級品の剣を持ち出す。なにやら、希代の名工が作った剣だとか、二万ギルという、ソラと同じ値段だったが、何か武器がほしかったので、とりあえず買っておいた。
荷物を持ち、魔法の鞄にそれを入れる。魔法の鞄は自作だが、簡単にいうと四次元ポケットだ。何でも入る。因みに鮮度も落ちない。旅先で鮮度がいいものが食べれるのは重要だ。
階段を駆け降りた。ソラがいた。
「どうしますか、ご主人様!?」
叫ばれた。
「とりあえず荷物はだいたい持ってきた。一時的に透明化して、様子を見る。その後、膠着状態になるか、この争いっぽいのが終わったところで、この街を壊す。そして、次の街へ。これでいいか?」
「たぶん大丈夫です」
ソラにもこの作戦でいけるのかどうか自信がないのだろう。正直俺にもない。だが、時間もないので、とりあえず透明になっておいて、状況を見たいのだ。
「じゃぁ、やるぞ、《透明化<ズィアファニスアンスロボス>》」
俺とソラの存在をほかの人間には感知できないようにした。これで、襲われる心配はなくなるだろう。流れ弾には注意しないとだが。
「とりあえず、どこに行く? この状況をわかりそうな場所……」
「この街の分城だと思いますよ。神殿は、今はもうないですし、それを考えると、政治的観点で物事がわかる場所は城です。情報だけなら街を歩いている傭兵や冒険者に聞けばいいんですが、傭兵や冒険者がこんな状態で悠長に受け答えをするかというと、疑問ですね」
「城に行って、盗み聞きでもするか……」
そう俺が言うと、ソラは、
「城はこっちですよー ご主人様が情報周している間、私だってなにもしていない訳じゃありませんからね」
おぉ、結構いろいろと調べてるんだな、と、俺は思ったが、
「街のおいしい食べ物屋を探すため、この街の隅から隅まで調べあげましたからね」
前言撤回。俺が与えた金を使い潰しているだけだった。
「まぁ、城の位置を知っているのは有り難い。案内してくれ」
「わかりましたよーちゃんと働き分の小遣いくださいね。私は食べ物のためなら、何でもできますよ」
「あいあい、わかったよ」
こうして俺たちは、ソラの先導の元で歩きだした。多分こんな悠長な雑談をしている暇はなかったんだろう。