十四話、予定とか水
結局俺たちは、今後の予定は適当に決めて、話が終わった。まぁいいじゃないか。目の前のこいつが信頼できる奴だとわかった時点で、俺はもう満足しているんだ。ぶっちゃけ、旅の知識とか0だしな。無駄に俺が口出ししても意味はない。
「それで……おまえ、旅するのに必要なものとかわかるか?」
「旅は村からこの街まで、奴隷として連れてこられただけなので、わかりません」
わかんないのか。俺は落胆した。というか、それどころの話ではない。旅の心得を持っている人がいないとなると、俺たちはどうやって旅をしたらいいんだ? 俺には到底わかりそうもなかった。
「まぁ、取り合えず馬と食料と水があればいいんじゃないですか? 馬は必須じゃないですけど、できればほしいですよね」
馬……か。買えるだけの金は作れる。だって、見たことも触ったこともあるから、物質創造<イリコジィミウルギア>を使えば簡単だ。だが……
「おまえ、馬の乗り方とかわかるか?」
「わかるわけないじゃないですか」
俺たちの旅は前途多難らしい。
冷静に考えれば、俺の意に沿う生物を作ればいいんじゃないか、と思った。勇者だからそれくらいできるだろう、と思った。だが、俺にもできないことはあるらしい。そのことを考えても、頭の中に文字は踊らなかった。
「どうすっかな……」
俺はまじめに考えた。今はソラと商店街を歩いている。王殺しの重罪人でも、顔を見られなければ大丈夫だということが、身を持ってわかった。誰からも見られない。服装はこの世界っぽいものに変えたしな。
「どうすればいいと思う? 俺の魔法でも、意に沿う動物を作るのは無理らしい」
「勇者様でも、そこまでは無理でしょう……」
ソラは呆れたようだった。どうすればいいのかな、と俺が考えていると、隣にいたソラが、水を得た魚のような顔……ソラの顔は魚っぽくないから例えとして不適切だな。のどに刺さった骨がようやく取れたような、すがすがしい顔をして、興奮しながら俺に話しかけてきた。
「ご主人様! 意に沿う馬を作るんじゃなくて、馬を意に沿わせる魔法を使えばいいんじゃないですか!?」
成る程。俺は素直にそう思った。確かに一理ある。そう思ってそのことを頭の中で思案すると、文字が頭の中で踊った。これで、旅の問題点はたぶんクリアだろう。馬に言うこと聞かせることができれば、快適な旅ができるに違いない。きっと夜もぐっすり寝れ…………
「おまえ、野宿の準備とかできるか?」
「無理ですね」
やっぱり、俺たちの旅は前途多難なようだった。というか、水の問題もクリアしてないな。水とか簡単に出せないかな、と思っていると、文字が踊った。
「《清き水<カサロネロ>》」
俺がそう唱えた瞬間、水が降ってきた。幸い、俺の頭の上に降ってくるようなイベントはなかった。前に降った。うん。そこまではいいんだ。只…………勢いが強すぎて、俺とソラに水がかかったんだ……
ムスっとした顔で、俺を睨みつけてくる少女。服は水で濡れていて、清楚なお嬢様のような服が濡れていて…………扇情的だ。果てしなくエロい。可愛らしい顔と、扇情的な服が、相反する効果……ギャップをだして、とにかくエロい。そんな少女が、俺をにらみつけていた。
「はは…………ははははは…………」
それに対して、俺は乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。いや、それはそうだろう。エロいな! と、公衆の面前で言えるわけもない。
「何か…………言い残すことはありますか?」
ソラが脅すように聞いてくる。俺はすぐさま、
「(濡れた服を乾かしたり、濡れた体を暖める、風呂にはいるため)ホテルに行きましょう!!!!」
なぜだろうか、完全に怒りを有頂天にしたソラは、俺を殴ってきた。理不尽だ。旅の問題を解決したのに、理不尽だ。