【後日談】⑤ビクター
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同じことなのに、それぞれセリフが違うのは、彼らの記憶の誤差です。そう、聞こえてた、みたいな。
ほんの少しだけ、遠ざけたつもりだった。
彼女は学業と領地経営で頑張っていて、俺もそれを応援してたつもりだった。
なのに、いつの間にか、鼻につくようになった。
「ビクター様、南の地域の土手がこたびの大雨で崩れましたの。かなり高く作られていたのですが、駄目でした」
そんなの知るかよ。
それに土手が崩れたなら、もっと高く積み上げればいいだけではないか。
「更に高く積み上げれば?」
そう言うと、エミリアは大きく目を見開いて、
「そうですわね」と言ったきり、次からは何も言わなくなった。
馬鹿にしてる、と思った。
エミリアは俺より自分の方ができる人間だとでも思っているんだろう。
エミリアと俺の立場は違う。
俺はまだ父から教えを受けてる最中だ。
お前は自分の親が倒れてから、中等部の時には代行してたじゃないか、年月が違う。
同じにするなと思った。
「マイク様、それは言い過ぎですわよ。為人を存じ上げてないのに、悪く言うものではありませんわ。あと、言葉が下品すぎます。伯爵令息のおっしゃることではありません」
エミリアが俺の友達、マイクに向かって注意した。
何様か?と思った。
マイクは冗談で言ってるだけだ。なのに、正論を飛ばして悪く言うなんて、マイクの立場もないじゃないか。
仲間との楽しい場も、エミリアのお陰で暗くなってしまった。
俺は彼女が席を立った後、マイクたちに慰めるように、
「次はエミリア抜きで集まろう。彼女は少し空気を読まなさすぎるから」
ーーそれが正しいと思った。
婚約解消された時、仕方ないなと内心思ってた。
うるさい婚約者。解消に持っていってくれて、せいせいした、とも思った。
でも、月日が経つうちに、エミリアのことばかり思い出す。
「ビクター様、ハンカチに刺繍して参りましたの。受け取っていただけますか?」
頬を染めて差し出すエミリア。
彼女には俺の好みの飲み物を出してもらったり、課題のサポートをしてもらったり、いつも先回りして気を遣ってたことを思い起こす。
「この薔薇の花束をエミリアに捧げるよ」
「ビクター様、お手が血だらけですわ」
「いいんだよ、この薔薇をエミリアにあげたかったんだ。でも棘だらけでエミリアが怪我するといけないからね、一つ一つ取ったんだ」
あの日、喜んで涙したエミリアはもういない。
愛してたのに、どこで俺は間違えてしまったんだろう?
彼女は明日、俺ではない男と結婚する。
これで完結です。
つたない話をお読み頂き、ありがとうございました。




