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第5話 サディスティック☆ラビットボーイ

「アマミヤ、いま僕は君を、どうにでもできるんだよ」


ユリアンはそう言うと、片頬をゆがめて笑う。


このドSが…!!


私はこのS男、ユリアンに首輪をつけられてしまった。その首輪というのが、なんと体を支配されてしまうという恐ろしい道具。


私、大ピンチに直面しています!


どうしよう…


人をコントロールできる石なんてものまであるし…


…うん?そのコントロールをする石を、ユリアンから取り上げれば、私に命令出来なくなるんじゃない?


それだ!


しかしこれ、ほとんど反則な道具だよね。

これさえつけてしまえば、誰でもかれでも自分の奴隷☆じゃないか。

だからこそ、こんな万能そうな道具には、どこか落とし穴がありそうなものだけど…。

とにかく、ユリアンから石を奪うのが一番早い。

私はちらりと、ユリアンの持つ、ヤヌシュカという鉱物からできた鍵(いわば私のコントローラー)を盗み見た。

しかし、そんなことはユリアンにはお見通しだったようだ。


「アマミヤ、ヤヌシュカは渡さないよ。…それにどっちにしろ、もうそろそろ、時間切れだ」

ユリアンはそう言いながら、首輪に手をかけた。カチリと音がして、私の首にかけられていた首輪が外れ、ユリアンの手に落ちる。


「あれ?外してくれたの…?」


私は拍子抜けして、ユリアンを見る。


ユリアンは首輪を示しながら、苦笑を浮かべた。


「この石は、使用者の魔力をエネルギーにして作動するんだ。だから、魔術師にしか扱えないし、僕の魔力じゃ…20分くらいが限界だね。それと、これの有効な範囲は限られてる。ガニシュカとヤヌシュカが離れすぎるといけないんだ。これも、僕の魔力だと、三百メートルくらいだ。君が走って行っちゃった時、ちょっと焦ったよ」


「…まじで?」


「まぁ、こんな危険なものがあるって知れて、勉強になったんじゃない?」


ふざけんなぁぁぁぁぁ!!


めちゃくちゃ焦ったよ!

私の人生終了かと思ったよ!

泣きそうだったんだから!


タイムリミットや範囲があるんだったら先に言えよ!ドSなだけじゃなく、性格もだいぶ歪んでるな!


マジで許せん。ユリアンこのやろう!


ユリアンはびっくりした?と言って笑っている。

私が恨めしげな目をすると、平気な顔で見返してきた。


「怒るなって!君が狼だから、僕だって必死だったんだよ。だいいち、君が本気を出したら、僕は簡単に死んでた自信があるね。君が優しい狼で助かったよ」


本気なのか馬鹿にしてるのか、よくわからない。

まぁ、首輪も外れたし、と私は納得いかないが、頷いた。

けれど、笑って誤魔化してはいるけどこんな道具、普通の精神で、平気な顔で他人に使えるものだろうか。

ユリアンがコレを使う原因が、私にあるんじゃないか?


「…でもユリアン、本気で、私が嫌いなんじゃないの?」


ユリアンの顔を見上げて私は言った。

彼は急に、顔を曇らせた。


「…大嫌いさ。忌まわしい…悪の種族。…狼…なんて」


ユリアンは悲しげな顔で言った。怨みがこもった声と、その表情は合致しない。

けれど、私は納得していた。彼は私ではなく、いや、私を含めた、狼という種族が憎いのだ。

だから…私に会って、ためらいもせずにこんな、人権って何だっけ?な道具が使えたのだ。


私は無意識に疑問を口にした。


「ユリアン、狼に何をされたの…?」


私はユリアンの悲しみに歪んでいた顔が、驚いた表情に変わるのをじっと見ていた。

けれど、ユリアンは頑なに顔をそらした。


「いや…忘れて」


彼はそれきり口を閉ざす。

私たちは無言で立ち尽くしていた。


気まずいなあ…


すごい言われようだ。忌まわしい、悪の種族って…ちょっとへこむ。なったばかりではあるけど、私も狼なのだから。

しかし、種族でひとくくりに、悪とか善とか決めちゃうのは、おかしいと思う。場所も生まれも外見も関係なく、人には悪い人も良い人もいるんじゃないかな。

けれど何故だか、彼自身そんなふうな偏見をしたい訳じゃないのでは、という気もした。狼を忌まわしいと言った時、彼は憎しみではなく、悲しげな表情を浮かべていたから。


だからきっと、悪い狼に何かされて、そのせいで、狼を嫌うようになったんじゃないだろうか。


きっと、私に会って、戸惑っている。彼は、迷っているのだ。私に対する態度を。

私は狼だけど、ユリアンを苦しめた人とは別人だから。


私は悪人じゃないしね!たぶん!

悪いことは…ちょっとはしてるかもだけど…すごい悪いことはしたことないもん!

たぶん!


ユリアンに対しての怒りはいつの間にか収まっていた。

彼が私に対してひどいことをしたのは、彼が私の今の姿、狼が憎かったから。私自身に対して、憎しみがあるわけじゃない。…よね?さっき会ったばかりだもん。


それと、ユリアンは先ほど、私が狼だから首輪をつけた、というようなことを言った。もしかしたら、狼という種族は元々、この世界の人々に嫌われているのかもしれない。


あの白い男の子ったら…

厄介な姿にしてくれちゃって!


初対面のユリアンにびっくりするほど嫌われて警戒されるくらいだから、他の人にも、狼ってだけで嫌われちゃうことがありそうだ。

何でこんなことになったのか…


白い男の子に、心のなかで怒りを燃やしてしまう。

色々と説明不足でしょう!



ユリアンはさっきから無言で、腕を組んで遠くを見ている。



今は、ユリアンに話を聞くべきだと思った。


私はユリアンに近づいて、その顔を見上げる。


「ユリアン、何も知らないのに、でしゃばったこと言って、ごめんね。…でも、もし嫌じゃなければ、あなたが狼を憎む理由を聞かせてくれない?」


私はじっと、ユリアンを見つめる。


ユリアンは戸惑った顔で、一度視線を外す。

けれど、とにかく懇願して見つめ続ける私に根負けして、目を合わせて、しぶしぶ頷いた。




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