表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/37

第4話 レン! ヴォルフ・レン!

話が進むのが遅い…精進します。

ユリアン・フローゲは、今まで私が出会った人の中でも、一番のドSだった。

…ヤっちゃっていいですか?



ユリアンはいきなり襲ってきたと思ったら、コロッと態度を変え、私を旅芸人の一座と一緒に来ないかと、誘ってくれた。

まぁなんで誘ってくれたのかはよくわからないけど、こいつを利用してやる、と内心では怒りを燃やしつつ、私はそれを快く承諾。

今はこちらに向かってくるトラックを二人で待っている。トラックはまだ遠く岩山の向こうに居るようで、一向に姿が見えない。

超人的な今の私の五感で、音や匂いが近づいて来てるのはわかるんだけど…


地面に座り込んでいると、ユリアンが口を開いた。


「アマミヤ、こんな所で何してたの?」


ですよね!!

こんな生き物が住めない荒野に、一人で居るなんて、意味分からないもんね。

…理由なんて私が知りたいよ!


私は、とりあえず正直に話した。

ユリアンが白い少年について、何か知っているかもしれないし。

全身白い少年に、いきなりこの場所に連れて来られた。けど、ここがどこか全然分からないこと。


ハルカについては言わないことにした。

話が長くなるし、人に話すのは、まだ辛い。


「全身白い少年…どういう種族だった?」


種族って…少年って言ってるじゃん。人間以外にないでしょ。

ユリアンが何を聞きたいのか、私にはいまいちよく分からない。


「とにかく、君はここがどこか分からないんだ。僕が教えてあげようか?」


ユリアンは何故かもったいぶって言う。


私は疑問に思いながらも、教えて欲しいと言った。


「なら、ちょっと狼になってみてよ」


ユリアンは平然と言った。


「ハイ!?」


何言ってるのかしらこの子!?

それともこれはドイツ風ジョーク!?

それなら、どんな返しが正解なの!?


困惑して私が応えられないでいると、ユリアンはニヤリと不吉な笑い方をした。

私にさっき白いヴォルパーティンガーをけしかけたときの悪い顔だ!

私はとっさに立ち上がって後ずさり、ユリアンと距離をあけた。


ユリアンは立ち上がって、言い放つ。


「金の首輪の誓いにのっとって命ずる。黒き狼よ、真の姿を見せてくれ」


どうした!?

色々と大丈夫!?

主にアタマ!!


とか、心の中でつっこんでいたら、急に首が熱くなってきた。


「!?」


首に触れてみると、今まで気付かなかったが、私の首には首輪がついていた。

いつから!?てゆーか、何で!?


…こいつにさっき、首、絞められた様な…


…てめーかぁ!ユリアン!


本当に筋金入りのドSだね!

言っとくけど、私はMじゃないから!

そんなプレイはお断りですよ!


私は飛び退いて、ユリアンとの距離をとった。

すごく焦っていたとはいえ、そんなに激しく動いてない筈なのに、私の体はユリアンの背丈以上の高さまで飛び上がっていた。

…え?


とんっ

そして鮮やかに着地する私。


10点!!


…気のせい気のせい。疲れてるんだわ、私…


気を取り直して首輪を再度触って確認する。

首輪は革ではなく、なにかツルツルしたもので出来ている。触り心地は金属のようだ。

触っても熱くはない。


あれ?さっき首が熱かったのは、気のせいかな?


そう思っていたら突然、足から力が抜けてきて、私はガクリと地面に膝をついた。


「…え?」


すると、今度は腕が勝手に動き始め、両手を地に着いた私は四つん這いの体勢になっていた。


なんじゃこりゃあああ!


体を起こそうにも、体は全く言うことをきかない。


パニックになった私は、無意識のうちにのどを鳴らして、うなり声を上げていた。


ユリアンがちょっと困った顔をする。


「怒るなよ。もうやらないから…(たぶん)」


たぶんって言ったな今!小さい声でもはっきり聞こえるんだよこちとら!


もうやらないって言うなら、この体の自由がきかなくなったのは、ユリアンに原因があるらしい。

おそらく、さっきの口上のとき、この首輪の、私の体の自由を奪うような仕組みが作動したんだろう。電撃とかで、神経を麻痺させるとか?知らんけど。

なんて恐ろしい道具だろう。市販されているのかな?…ドイツでは、こういう道具はいっぱいあるのだろうか?


ドイツ…恐ろしい子…じゃなくて国…


しかし、この状況は、何だかすごく屈辱的だ。


ユリアン、絶対ぶん殴る!


まぁ、いま、動けないんだけども。


私が屈辱に耐えながら、四つん這いのままフリーズしていると、突然私の視界は、真っ黒に塗りつぶされた。


「何!?何コレ!?」


何にも見えない。目をつむっているわけじゃないのに。


何にも分からない暗闇の中で、体温が急上昇するのを感じた。体中の血が沸騰しているような気さえする。

熱い!いやもう熱いどころの騒ぎじゃない!

体が燃える!


そう叫ぼうとした、その瞬間、視界は霧が晴れるように明るさを取り戻す。辺りを見回すと、すっかり元に戻っていた。


何だったんだ、今のは…


私は首を傾げる。

そのとき、何だか、体が軽くなったことに気付いた。


…おぉ?何だろう、この…湧き上がる開放感!?


今なら、何でもできそうな気がする!!


私…私、フリーダム!!!!!


居てもたってもいられずに、私は走り出した。


「うわ、ヤバい!」


ユリアンの小さな叫びが聞こえたが、知ったこっちゃない。あんなドSほっといて、とっととあのトラックのとこ行っちゃおう。

私は軽やかに走った。


早い。我ながらめちゃくちゃ早い。

さながら飛ぶように、風をきる私の体。

耳元で風がビュウビュウと鳴く。


体中に力がみなぎってくる気がする。


血が騒ぐってこういう感じなのかな!?


けど私、特に運動得意ってわけでも、運動音痴でもない、良くも悪くも普通の運動神経のはずなんだけど…。


そう考えている間にも私は、すごい速度で荒野を移動し、遠くに見えていた岩山に近づいて来てしまった。


…まてよ。

私、今、四つん這いで走って、この速度なんですけど。


…ん?

戸惑って、自分の手元を見下ろせば、黒い毛皮に覆われた、動物の前足が見えた。


…え?

いやいやいやいや、私こんなに毛深くないよ!?


…よし、落ち着こう。


この足、私の?


私はノリノリで走っていた足を止める。


立ち止まって自分の足を、体を、眺める。

黒い毛皮で覆われている体。

前足、後足。


私自身が動かしているはずのその体は、どう見ても人間の体ではなかった。

最後に目に入ったのは、黒い大きな、犬みたいな、しっぽ。


さすがに信じられなくて、しっぽを動かそうとしてみる。

私の感覚に沿って、パタリと、しっぽが振られる。


…これ…


もしかしたら…


もしかしなくても…


私…



人間じゃ、なくね?




ノォォォォォォォォ!!!



と叫んだつもりが、悲しげな狼の遠吠えが、荒野に響き渡った。


私がうろたえていると、ウサギがチョロチョロ近づいてきた。

フワフワの茶色い毛皮に、黒い鹿の角、背中には毛皮と同じ色の翼、かわいらしい顔に不似合いな、鋭い牙。これぞヴォルパーティンガーだ。


私は考える。


私の体がついさっきまでは人だったはずなのに、あの暗闇に取り巻かれてからは、どうも、黒い毛皮の、獣の姿になってしまったらしい。

そして、目の前には民話の伝承そのままの、ヴォルパーティンガーの姿。

先ほどヴォルパーティンガーと名乗った青年。

それに、彼は私のことを黒い狼と呼んだ。

黒い毛皮に覆われた、私の体…


私、狼なんだ?



ひらめいた。しかも私はなぜか、その奇想天外な結論を、ストンと納得してしまった。


この茶色いフワフワの、ヴォルパーティンガーはきっとユリアンだ。


もしかしたら…ここは、私のよく知る世界とは、異なる場所かもしれない。


つまり、ここでは動物はみんな、人間の姿になれるってこと?または、人間はみんな、動物の姿になれるのかな?


私の聴力と嗅覚が異様に鋭くなっていたのは、私がイヌ科の、狼になれるからなのか。

合点がいった。


何この大変身…


ん?待てよ。

ユリアンと会った時、私は人の姿だったはずだ。

自分でも覚えているとおり、二足歩行だったし、毛皮でもなかった。高校の制服を着ていたし。

なのに、私を見た瞬間ユリアンは、「君は狼か?」と言っていた。

ユリアンは、人の姿をしていたが、角とウサギの耳がついていたし、牙もあった。

ということは…


私も、耳がついてたのかも!?


………きもっ


いぬみみ…じゃなくて、狼耳?


アイタタタタタタア!


私、痛い人だ!確実に痛い人だ!

気持ち悪い!


私ったら気持ち悪い!


ユリアンみたいな美形には、まぁ、変だけど、許されると思う。イケメンには何でも似合うよ。でも、こんな私に、美形とか言われたこともない私に、獣の耳がついてたりしたら、ただひたすら、キモイだけでしょ!!


外見が変わっちゃうなんて、聞いてないよ!白い少年めぇ!


私はユリアンに話しかけようとしたが、うなり声しか出なかった。

あ、さすがに狼の口で言葉の発音は無理か!?


ユリアンが近づいてくるのを見て、私は思った。

モフモフした首もと…なんて愛らしい。


噛みつきたい…


いやいやいや!いかんいかん!

思考まで狼になってどうする!


私は頭をブルブル震わせ、人間に戻りたい、と思った。すると、視界が真っ暗闇になる。あ、さっきと同じだ。ということは…


目の前が元に戻ると、私は人の姿に戻っていた。


私は安心して胸をなで下ろした。一生狼の姿とかじゃなくて良かった…


そして、ユリアンの方を向く。ユリアンもいつの間にか、人型に戻っていた。


聞きたいことは山ほどあるけど。まず…


「ユリアン、この首輪は何?」


怒気を含めて私は言った。


ユリアンは、驚愕の表情で私を見た。


「…知らなかったの?」


「さっき誓ったことと何か関係あるの?」


「そうか…だから君、ほとんど抵抗しなかったのか。…説明してあげるよ。でも、怒らないでよね」


それは無理。


ユリアンは、めんどくさそうに話し始めた。


「それは金の首輪。ガニシュカと金から作られている…」


「ガニシュカって何?」


そんなことも知らないのか、とユリアンはうめいた。


いいから教えて、と私は先を促す。


呆れるよ…とこぼしながらも、ユリアンは丁寧に説明してくれた。


「ガニシュカは、鉱物だよ。貴重なものだ。採れる高山は、この国と、隣の国にしかない。ガニシュカには、人の体を支配する力があるんだ。けど、ガニシュカだけではこの首輪はできない。この…」


そう言いながら、胸元からネックレスを出してきた。歪な形に削られた水晶の様な石が、革ひもにぐるぐる巻きにされて、ぶら下がっている。


「この石、ヤヌシュカ。これは触れている人間の意志を、ガニシュカに送れるんだ。元々1つの石から出来ていて、対になっている。2つ一緒に使うと、人を操れるんだ」


「…」


私は返す言葉を失った。なんて危険な石だ!!


「あと、これには魔法もかけてある」


「魔法!?」


耳を疑う。

何てことだ。まずその石の作用からして有り得ないのに、魔法ときた。

…まあ、自分が狼に変身した時点で、もう何が来ても受け入れられる気がするけど。

「これは、首輪をつけた人に、つけられた人が誓いをたてれば、首輪をつけた人だけが、ヤヌシュカの効力を使用できるって制約の魔法」


「つまりアマミヤ、君の場合、僕だけが君に何でも命令できる…ってわけ」


「えぇ!?」


なんだそりゃぁ!


言ってみれば、自分だけの奴隷が作れちゃう道具だぜ☆


ってことじゃないか!!


危険このうえない!

てゆーかどっちにしろ今の私はどうしたって、こいつの言いなりってこと!?


それだけは嫌だ!!!!!









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ