表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/37

第34話 アイ・スティル・ハヴント・ファウンド・ワット・アイム・ルッキング・フォー

先ほどぶつかりそうになった(…というか危うく私が殺しそうになった…)カレン・コベインと名乗ったストレートロングの金髪美女(履いているぴったりしたジーンズが、びっくりするほどボロボロだ)に促されるまま、私は階段を下りた。


ブラックライトで照らされた階段の下の踊り場の壁には、金色のノブのついた大きな黒い木のドアがあり、札が下がっていた。札には、ローマ字で「The Joshua Tree cafe」と書いてある。


「カフェ?居酒屋とか言ってなかったっけ…」


私が呟くと、金髪美女カレンは応えてくれた。


「カフェよ。昼間はね。夜は、会員しか入れないバーになるの…会員と言っても、私たちだけなんだけどね。毎日全員が揃う訳でもないし。でも今日はあなたが来るから、全員揃って待っているはずよ」


彼女が金色のドアノブに触れようとしたちょうどそのとき、ドアが外側に少し開いて、トキがチラリと顔を出した。私の方を見てちょっと訝しげな表情をしたけれど、ゆっくりドアを開いてくれた。


「よくきたな。仲間を紹介する」


トキはそう言うと、ドアを押さえて私をお店の中へと促した。


けれども、私はお店の中を覗き見た瞬間、足がすくんでしまった。


あまり広くない店内では10人の男女が、思い思いの席に座りながら、全員私を見つめていたのだ。


みんな私を値踏みするように眺めてくるうえ、にらみつけてくるのも何人かいる。


…なんでにらむのかな。

ほとんど全員と初対面のはずなのに!

やっぱりまた、狼だからって嫌われているのかな?


お返しに私は一人一人、しっかり目を合わせて、まじまじと見つめ返してやった。


張り詰めた空気のなか、沈黙を破ったのは赤毛の美女、コートニーだった。


「アマミヤ、ようこそヨシュア・ツリィへ」


そう言って、彼女は花のように微笑んだ。



「あいつが、狼のクリスチャン・ノボセリック。その前に座ってんのが人魚のラス・ウルリッヒ、その後ろがワームのイアン・メイ、その隣がヴィヴルのコートニー・ラボワ、カウンターに座ってるのが、右からパンのフレディ・マークス、スクォンクのジャン・バティスタ・リュリ、バイコーンのフラン・ハイドン、カウンターの上の女の子がキキーモラのスーズ・スー。カウンターの中にいるのがジンのラナー・ライ・タハとバステトのデイビッド・グロール…そしてお前の後ろに立っているのが、ハーピーのカレン・コベイン。で、俺は人間の向井時生。ここにいる全員がヨシュア・ツリィの団員で、総勢12名だ」


一気に紹介しないでほしい…

覚えきれないでしょうが!


とトキの早口な紹介に激しく突っ込みたい衝動にかられながら、私は必死で頭の中で名前と顔を覚えていた。


狼のクリスチャン・ノボセリックは白い肌と白い髪に、青い瞳をした男の子で、年は多分私と同じくらい。私と同じで、大きな狼の耳がはえている。青と白のボーダーのTシャツに黒いパンツ、青いスニーカーを履いている。

私をまじまじと見つめてくるので、ちょっといたたまれなくなって私は顔を背けてしまった。

…だって彼、すごい目が輝いてるんだもの!何だか…どんな顔していいかわからないよ。


人魚のラス・ウルリッヒはこのまえも会っているからいいとして。

しかし、彼は人魚だったんだ…だから海の匂いがしたり、髪が緑色だったのか。

ラスは薄いブルーの仕立ての良いシャツにカーキ色の細身のワークパンツ姿だ。


ワームのイアン・メイは、茶色いアフロっぽい髪型のいかついマッチョ。ピンク色の変な柄のTシャツ着てる…

そして、ワームがどんな幻獣だったか思い出せない。彼の見かけは普通の人間に見えるんだけど。


ヴィヴルのコートニー・ラボワも会っているからよし。とにかく美女。目の色と同じ鮮やかなグリーンのサテンのドレスワンピースを着ている。ゴージャスだ。他のみんなはカジュアルな格好だからちょっと浮いてるけど。


パンのフレディ・マークス…身長がすごく高い。この人が人型にはならないって決めている人だ。でも服を着ていると半獣型のユリアンと大差ない。クリンクリンの亜麻色の髪に、丸まったヤギの角がはえていて、服装はネイビーのジャケットにジーンズで…足元をよく見ると、ヒヅメだ。


スクォンクのジャン・バティスタ・リュリは、ちょっとぽっちゃりしているけれど美形で、水玉柄のシャツを着たイタリア人ぽい男の人。薄いグレーの髪にグレーの瞳。ニコニコしながら私と目を合わせているけれど、その目だけはわずかも笑っていないと感じられる。


バイコーンのフラン・ハイドン、尖った短めの角がストレートの茶色い髪から覗いている。…鬼みたいな感じ。ラフな格好で、Tシャツにジーンズ。遠い目をして、なんだかぼんやりしているように見える。でも私に対して好意的ではない証拠に、目が合うと眉根を寄せて逸らされた。


カウンターのテーブルの上にあぐらをかいて座っている、キキーモラのスーズ・スーは、痩せてガリガリの10才くらいの女の子だ。カールした長い髪はプラチナブロンドで、瞳は青紫。かわいい子なんだけれど、この子が一番私をあからさまに睨みつけてくる。かといって、目が合うとすぐに逸らされてしまった。


ジンのラナー・ライ・タハ。…さっき見た時は私と同じ真っ黒ストレートの長い髪だったのに、今は真っ青なショートカット。顔色も青い肌になったり真っ白になったり…

変わる度に私が驚いてまじまじと見ると、ラナーはニヤリと笑う。からかわれてる…。ラナーは、普通にしてるとそれはまばゆいくらい美しい女性だ。この人がヴァンの恋人なんだ。


バステトのデイビッド・グロール。バステトってたしか、エジプトの神様じゃないかな?猫の顔に体は人間の。眼鏡をして、白い猫耳に猫しっぽの男の人だ。二十代後半くらいで、落ち着いた雰囲気がある。高そうな黒いジャケットを着ている。

真面目そうな外見だから、猫耳猫しっぽに凄く違和感を感じる。でも、そう感じるのはやっぱり私だけなのかな…。


そして、ハーピーのカレン・コベイン。

さっき印象的な出会い方しちゃったから、しっかり覚えた。しかし、今初めて彼女の背中を見て気づいたけれど、カレンは背中のあいたセクシーなトップスを着ていて、そこに大きく彫られたタトゥーが目を惹いた。真っ赤な体のドラゴンの絵柄だ。そしてそのドラゴンの目は鮮やかなグリーン。


あれ?これってもしかして…


私が首を傾げて考えていると、トキが言った。


「おい、アマミヤ、早く中に入れよ」


「え?ああ、ごめん」


私は中の人たちの視線に気圧されて、店のドアの外に立ち尽くしたままだったのだ。

私がそっと中に足を踏み入れると、みんな息を飲んで無言で私を見つめていた。


なんだこれ…

居心地悪いなぁ…


一瞬間の沈黙の後、メンバーの誰かが口笛を吹いた。それをきっかけに、少し騒がしくなる。

怪訝に思ってトキを見ると、満足そうに頷いているのが見えた。


どうしたんだろう?


私がトキをじっと見ていると、彼は私の方を向いて、口を開いた。


「みんな、こいつは最後のメンバー、黒い狼のアマミヤ…なんだっけ?」


忘れてやがる…


「…雨宮香子です」


私が応えると、トキは頷いた。


「そう。アマミヤ・コウコだ。…本物の黒い狼だぜ!やっと条件が揃ったぞ!」


トキが声高にそう言うと、ヨシュア・ツリィのメンバーは皆立ち上がり、感極まったように歓声を上げた。


「な…なんでこんな反応!?」


さっきまで私を胡散臭そうに見ていたのが嘘のように、メンバー達は満面の笑みで私に駆け寄って来た。


「本物だ!本物の黒い狼!!やっと会えた!」


「長かったぜ…3年は」


「本当に居たんだ…黒い狼。来てくれてありがとう!」


そう口々に言われ、頭を撫でられたり耳やしっぽや髪の毛を触られたり…もみくちゃにされたけど、どうも歓迎されているらしい。


「これ…どういうこと?」


トキに目配せで助けを求めるも、トキは珍しく微笑んで、見ているだけだ。


「お前が本物の黒い狼だったんで、皆喜んでるのさ」


トキはそう言って笑った。

その屈託のない笑顔を見て私は、仲間の前なら結構笑うんだな…。と意外に思った。


「このドアは俺の特製品で、夜になると俺が認めたヨシュア・ツリィのメンバーしか通れない。だからさっきは、最後のメンバーとして俺が決めた、本物の黒い狼しか通れなかったわけ。実は何度か、偽者の黒い狼をここに連れてきてしまったことがあったからな。みんなお前が本当に黒い狼なのか、半信半疑だったんだよ。このドアを無傷で通れたから、お前は本物だってみんな納得したのさ」


無傷って…

いったい偽者はどんな恐ろしい目に…?


まぁとにかく、それで最初睨んで来たわけね。みんな、私がまた偽物だと思ってたのだ。


「でも、ちょっと皆喜び過ぎじゃない…?」


「いや…僕らは、これでやっとスタート地点に立てたんだ」


ラスが私の隣に来て言った。


「…黒い狼を探してたのは、トキだけじゃないの?」


「…俺たちは皆、アマデウスとネーフェに復讐を誓っている」


困惑する私をよそに、トキは嬉しそうに言った。


「お前は、俺たちの切り札だ」


「切り札?…どうしてそうなるの?」


トキの「願い」を叶える為に必要な条件は「黒い狼を仲間にすること」だから、黒い狼である私は力になれると思う。

けど、私がヨシュア・ツリィの仲間になることと、ネーフェやアマデウスへの復讐とが、いったい何の関係があるんだろう?


私が首を傾げると、トキは少し顔を曇らせた。


「俺の願いを叶えるための条件は、実はお前に言ったことで全てじゃあないんだ」


「え?」


静かに、言うなれば厳かに、トキは語った。


「俺がトランスペアレンシーに言われたのは、本当はこうだよ」


「…ネーフェを殺せ」


「こ…殺せ?」


「その為に必要なのが、白い狼と黒い狼だと、トランスペアレンシーは言ったんだ」

私は頭が真っ白になった。


「…願いを叶えてやる代わりに、人を殺せって、そう言ったの?」


愕然とした。

あの白い少年が、そんな恐ろしいことをトキにさせるなんて。


「それでトキは、本当にネーフェを殺す気なの?」


トキはまっすぐに私を見つめて、無言で頷いたのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ