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第21話 マジカル・ミステリー・ツアー


「うわぁん!良かった!本当にありがとう!」


なんと、私のヴァイオリンは、ユリアンが持ってくれていた。


私がユリアンに荒野で強制的に狼に変身させられたとき、走り出した私はヴァイオリンをその場に置き去りにしていた。

その後、ヴァンに失神させられた私を車に運び入れているとき、私が何か持っていたことを思い出して、ユリアンはわざわざ取りに行ってくれていたのだという。


ユリアンったら、なんて気が利く、良い奴なのかしら!


ルーが、

「人身売買の商品になる人の持ち物は基本、誰かが取り戻しに来たりすると厄介だからね、探索用の魔法の道具とか、探知機とか、金目の物とか入ってないか、いろいろチェックすることになってるから」


…とか言っていたけど、そんなの聞かなかったことにする。


とにかく良かった!助かった!


本当に危なかった…。


これを無くせば、私はもとの場所に帰れなくなるところだった。


「元の世界に帰るための鍵」

が、ヴァイオリンケースに貼ってあるステッカーであるらしいから。


すぐにユリアンの部屋に行き、置いてあったヴァイオリンと感動の再会を果たす。


会いたかったよ!私のヴァイオリンちゃん!

まぁ、ずっと忘れてたけどねっ


ヴァイオリンを手に持つと、その確かな重みを感じて、私はちょっと安心した。考えてみれば、元の世界と私とを繋ぐ唯一の物だ。


さっき、ヴァンの部屋に置いてあった鏡で、私はこの世界に来て初めて自分の容姿を見た。


見慣れた自分の顔。


見慣れた黒いブレザー、白いシャツ、赤いリボン、黒と白の、すごく細かい千鳥格子のプリーツスカート、黒いハイソックス、黒い革のローファー。

着慣れた高校の制服だ。


それらは元の世界と何ひとつ変わっていない。


違うのは、髪の毛に混ざって頭から飛び出している三角形の獣の耳。


私の本当の耳があったところは、髪の毛の生え際以外、何もなくなっていた。


なんかグロテスク…


口を開けば前より尖った犬歯が見え、太くて長い尻尾が短い制服のスカートから揺れている。

そして、真っ黒で尖っている、手足の爪。


凄まじい違和感だった。



やっぱり頭に狼の耳がついてたよ…痛々しいわ!

色んな意味で!


自分の外見が変わってしまったことで、私は本当にこの世界の住人になってしまったような気がした。

けれど、使い古したヴァイオリンはハルカとの思い出もいっぱいで、元居た世界の事を鮮明に思い出させてくれた。


私は大丈夫。


ハルカに会いに、ここに来た。


私は私。どこに行っても、変わらない。


ホッとして、私は心の中で呟いた。


よし!もう絶対手離さないぞ!


ヴァイオリンを持ったままユリアンの部屋のあるトラックを出たところで、ユリアンが聞いてきた。


「ところでアマミヤ、それって…ヴァイオリンって、何なの?」


「え?知らないの?これは楽器だよ」


「??」


ユリアンと、ここまでついて来ていたルーは首を傾げた。ヴァイオリンは、この世界にはないんだろうか。


「じゃあ、何か弾いてみようか」


私はケースからヴァイオリンを取り出して、あごと肩の間にはさみ、弓とヴァイオリンの弦を調節して、弾き慣れた曲「パッヘルベルのカノン」を弾き始めた。

明るい旋律の、有名な曲だ。


いつも私は、目の前に光で溢れた花畑が広がっていくイメージをしながら、この曲を弾いていた。

ヴァイオリンの先生(36才独身オトコ。しかし彼氏がいる)に、「頭の中でイメージした世界を音で作りあげるのよっ」って言われているから、弾くときは昔から、めちゃくちゃ妄想する癖がついてるんだよね。


弾き終わると、ユリアンとルーは目を見張って私を見ていた。


しかもなんかギャラリーが増えてる!!

私、20人くらいに囲まれてる!


うわっ恥ずかしっ…プロのヴァイオリニストの真似して、気取って目をつむって弾いちゃったから…


腕はまだまだな癖にね!

自分でもちょっと寒いです!

すいません調子のりました!


照れ隠しにユリアンの方を向く。


…え


気づけば、ユリアンとルーの頭に、お花が乗っていた。


…大丈夫?


いろんな意味で。

でもさっきまでついてなかったと思うけど…


その時、ギャラリーをかき分けて、ヴァンが近付いてきた。商品になる寸前だった一人だろう、クー・シーの女の子を抱いている。


ペリの男の子ポールと同い年くらいの可愛い女の子で、クリーム色の肌と髪の毛をして、頭には私の耳と似た、犬の耳がついてる。

大きな目はきれいな紫色で、角度によってはすごく淡い水色。目の色素が極端に少ないとそうなることもあるって、テレビで見たことがある。


気付くとヴァンが目の前で、何故か今にも飛びかかってきそうな表情をしていた。



「アマミヤ、何故言わなかった?」



え?なになに?どうしたの?

私は困惑して首を傾げる。


ヴァンの次の言葉に、私は唖然とした。



「お前が、魔法を使えることを」



ヴァンが言った言葉にあいた口が塞がらない私を、ギャラリーが興味津々といった感じで様子を見ている。


まほう?

魔法って、ユリアンが使ってたあれ?


私にできるわけないのに…ヴァンは何を言ってるんだろう?


ヴァンは抱いていたクー・シーの女の子を下ろすと、私に詰め寄る。



「なぜこんな、大勢に見られるところで魔法を使ったりしたんだ!」



こ…怖い!

ヴァンの剣幕にちょっと引きながら私は応える。


「うん、あの、ちょっと意味がわかんないんだけども…」


クー・シーの女の子が近づいてきた。その子からは、ほのかにヴァンの香水の移り香と、さっき食べたんだろう、カレーの匂いと、甘いクチナシの花の香りがした。


彼女はじりじりと私に近づくと、いきなり私の足にしがみついてきた。


…やだ!何この子かわいい!


…いや、今はそうじゃなくて!


「お前、自分で今魔法を使ったじゃないか」


ヴァンが睨みを効かせて更に詰め寄ってくる。

近い。近いよ。

しかもめちゃくちゃ顔怖いよぉ!


この人なんでこんなに怒ってるの!?



「だから、私が魔法なんて使えるわけないじゃん!」



私がそう叫ぶと、広場はしんと静まり返った。





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