第九章 崩壊の地下
地下空間が裂け、異界の光と闇が混ざり合う。
空気は重く、熱と冷気が入り交じる。
澪の胸が強くざわついた。
「……やばい」
ナギが後ろから声をかける。
「ここまで大規模だと、俺でも止められない」
神崎玲司は剣を握り直し、足元の瓦礫を蹴りながら進む。
「澪、離れるな!」
澪は小さく頷いた。
だが体が自然に前に進む。
目の前の光景に、ただ立ち止まってはいられなかった。
地下の広間には、巨大な魔法陣が浮かぶ。
中央に立つ男――フードの黒幕――が両手を広げ、笑みを浮かべる。
「……面白い。やっと来たな、境界の鍵」
男の声が響くたび、空間が震える。
神崎が前に出る。
「その手を離せ!」
男はゆっくり手を下ろした。
だが魔法陣の光は弱まらない。
逆に光の渦が勢いを増し、地下空間全体を飲み込む。
澪の体が熱と冷気のはざまで揺れる。
「……何かが、呼んでる」
ナギが澪の肩に手を置いた。
「お前の力だ。今こそ本番だぞ」
澪は目を閉じた。
胸の奥に、境界そのものの感覚が広がる。
“閉じろ”
無数の声が響いた。
光の渦に手を伸ばすと、体の奥から金色の光が溢れた。
神崎が叫ぶ。
「澪!止めろ!」
澪の手から放たれた光が、魔法陣に触れる。
光と闇がぶつかり合い、衝撃波が地下空間を揺らす。
黒幕が目を見開く。
「なっ……!?」
ナギが笑った。
「見ろ、人間の力だ」
しかし黒幕も一歩も引かない。
周囲の異界の力を吸収し、光に向かって手を振る。
爆発的な衝撃
瓦礫が舞い、空間の壁が歪む。
澪は必死に光を送り続ける。
「……負けない!」
ナギが前に出て、黒幕を牽制する。
足元の光の柱で、異界の影を押さえる。
「行け、澪!」
光が渦巻き、魔法陣を覆った瞬間――
轟音とともに、魔法陣が崩壊する。
黒幕は後ろに吹き飛ばされ、床に倒れた。
地下空間がゆっくり落ち着き、赤い光が消えていく。
澪は息を切らしながら膝をついた。
「……やったのかな」
ナギがそっと肩に手を置く。
「やった。お前の力だ」
神崎が駆け寄り、剣を鞘に戻す。
「危なかったな……」
澪は地面に手をつき、深く息をつく。
目の前の異界の裂け目は、ゆっくりと閉じていった。
ナギは立ち上がり、笑みを浮かべた。
「まあ、今回は勘弁してやる」
黒幕は意識が朦朧としながらも、微笑んだ。
「……面白い……人間……」
澪は振り返った。
神崎と九条が無事なのを確認して、少し笑った。
「……終わったの?」
ナギが肩をすくめる。
「終わりじゃない。これからが本番だ」
澪の胸に、新たな決意が芽生える。
境界の力――
それは世界を守る鍵となる。
そして澪は気づいた。
(私、もう逃げられない――)
地下空間に残る異界の気配。
それはまだ、完全には消えていなかった。




