第十一章 異界拡散
日本列島の夜空に、赤い光の筋が走る。
澪は境界管理局の観測室で、モニターに映る異界の反応を見つめていた。
赤い点――全国で異界反応が急増している。
九条千景がタブレットを叩きながら声を荒げる。
「澪!これは……計画的だわ!」
「計画的……?」
澪の視線は画面の一点に釘付けだった。
「間違いないわ。人工的に境界を開けている。場所も時間も操っている」
神崎玲司が静かに剣を握り直す。
「……奴らは本気で世界を壊すつもりだ」
ナギが背もたれに寄りかかり、片手で澪の肩に触れる。
「だからお前が必要なんだ。境界の鍵として」
澪は胸に手を置く。
光の感覚が微かに残っている。
(……私だけで、守れるのかな……)
九条が言う。
「時間がない。今夜、北海道、関西、九州……あちこちで裂け目が開いている」
ナギが指を鳴らす。
「ふふ……これは久しぶりに面白い戦いになりそうだな」
神崎が眉をひそめる。
「面白がるな。死者も出るかもしれんぞ」
その瞬間、モニターの警報が激しく鳴った。
「北海道、異界拡大中!人間居住区に接近中!」
澪の胸が強くざわつく。
光の感覚が強く震えた。
(……行かないと……!)
ナギが澪の背中を押す。
「行くぞ。世界規模だ、全力で頼む」
神崎が剣を構える。
九条は戦略タブレットを操作しながら叫ぶ。
「全員、分散配置!澪は中心で閉じろ!」
澪は深呼吸し、両手を胸に置く。
金色の光が再びほのかにほとばしった。
北海道の夜空。
海沿いの都市に、巨大な裂け目が広がる。
赤黒い霧が立ち上り、異界の影が次々と溢れ出す。
澪は空を見上げ、力を集中させる。
光が身体を包む。
ナギが横に立ち、指を鳴らす。
「俺が先に押さえる。澪は閉じるんだ」
神崎も前に出て、剣を抜く。
異界の影が襲いかかる。
澪の光が渦となり、巨大な結界を形成する。
赤黒い霧が光に触れた瞬間、煙のように弾ける。
ナギが影を蹴散らし、神崎が敵を斬る。
光と闇、刃と魔法陣――三つの力が激突する。
澪は自分の力が世界の境界と共鳴していることをはっきりと感じた。
(……これが、私の役目……!)
異界の力が押し寄せる。
だが澪は決して後退しない。
光が増幅し、周囲の影を弾き飛ばす。
夜空に、巨大な光の柱が立つ。
それは異界の流入を止める灯火だった。
遠く、東京の空でも赤い光が波打つ。
黒幕の影が監視している。
「……なるほど、やはり境界の鍵か」
黒幕は静かに笑う。
そして、手元の装置を操作する。
次の裂け目が、日本列島の中心部――名古屋に開かれ始める。
ナギが澪の隣で眉をひそめた。
「……まだやる気か、奴は」
神崎が剣を握り直す。
「次は名古屋か。急ごう」
澪は深く息をつき、光の感覚を胸に感じながら立ち上がった。
(……世界を守る――絶対に、私が閉じるんだ)
光が身体を包み、夜空に小さく輝く。
そして、彼女たちの長い戦いが、ここから始まる――




