第十章 余波と黒幕の影
東京の夜は静かだった。
地下での戦いから数時間が経ち、街は普段の喧騒を取り戻しているように見えた。
だが、澪の胸はざわついていた。
境界が閉じられたとはいえ、完全に安全になったわけではない。
残された黒幕の影が、どこかで次の動きをうかがっていることを、澪は肌で感じていた。
境界管理局・地下本部。
会議室には澪、神崎、九条、そしてナギが並んでいた。
モニターには崩壊した東京地下の魔法陣の記録が映し出されている。
「今回の件、完全に終わったわけじゃないのね……」
澪はため息をついた。
「当然だ」
神崎が淡々と言う。
「黒幕はまだ生きている。境界を開ける技術を持った人間は、一人や二人じゃないかもしれん」
ナギは椅子にもたれ、指で澪を指す。
「だからこそ、お前が鍵なんだ」
澪は小さく息を飲む。
自分が、世界を守る存在――境界の鍵――だという事実が、じわじわと現実になっていく。
「で、次はどうする?」
九条が眉をひそめる。
「調査?封印?それとも……」
ナギが少し微笑む。
「全部だ。お前たちが手を抜けば、あの男は必ず次の裂け目を開く」
澪は覚悟を決めた。
胸の奥で、光の感覚が微かに残っている。
(私……できるのかな)
しかし、その不安を振り払うように、澪は小さく頷いた。
その時、通信端末が鳴った。
「九条さん、異常反応です!」
若い職員の声。
モニターには日本各地の境界反応が再び表示される。
赤い点が少しずつ増えていた。
ナギの目が細くなる。
「ふふ……面白くなってきたな」
神崎が冷たく言う。
「笑い事じゃない」
澪は深く息を吸った。
胸の中で、光の感覚が微かに震える。
(また、私が……)
ナギがそっと肩に手を置いた。
「心配するな。俺がついてる」
澪は小さく微笑む。
ナギの言葉に、ほんの少しだけ心が軽くなった。
会議室の窓の外、夜空には満月が浮かぶ。
赤く光った裂け目の余波は消えたが、空気にはまだ異界の匂いが残っている。
神崎が言った。
「これからだ。お前たちは、この力を使いこなさねばならない」
澪は視線を前に向けた。
胸の奥に、境界の光がわずかに燃えている。
(……私は、世界を守る鍵――)
その時、ナギが小さく笑った。
「さて……次はどこから行く?」
澪は深く息をつき、ゆっくりと言った。
「……行きましょう」
東京の夜は静かに広がり、そして――
新たな冒険の幕が、静かに、しかし確実に開かれたのだった。




