No.02 支配者の戦い
「お目覚めかい?少年。」
(頭がぼーっとする。ここはどこだ?おれは生きているのか?ダメだ、状況が呑み込めない。)
「大丈夫。ここは天国じゃない。空き家の一室を少し借りさせてもらっている。」
そう瞬に話しかけるのは、眼鏡をかけた青髪のインテリ風な男だった。この男が治療を行ったのか、瞬の腹部には包帯が巻かれていた。
(そうか、やっぱ刺されたのは夢じゃなかったんだ。にしてもこの人どこかで会ったことがあるような…思い出せない。他人の空似か?)
「僕は藍田 零。突然のことで困惑するのも無理はないが、目が覚めたのならうちのアジトへ移動しよう。詳しいことは後で話す。」
藍田と名乗る男がそう言うと、瞬が反発する。
「待ってください!治療してくれたのは感謝しますがいきなり本部とかなんとか言われてもすんなりついていけないですよ!今説明して下さい!」
男は面倒そうにため息を漏らす。
「いいかい?気持ちはわかるが、今の君は命を狙われている。だから一刻も早く移動する必要があるんだ。」
――パリンッ
男が言い終わると同時にガラスの割れた音が聞こえる。
「まさか!もう見つかったのか…。仕方ない、戦闘になる。君はそこを動くなよ。」
突然の展開に瞬はさらに困惑する。
「いいか?少年。とにかく僕の戦いをよく見ておくんだ。僕ら"支配者"の戦い方と君を狙う敵のことを。」
(ルーラー?何を言っているんだ?それに戦闘って…何なんだよこれは…!!)
扉が破られ、黒いフードを被った人物が中に入る。顔は隠れているが、明らかに巨漢の大男だった。
「…ったく、後ろのそいつを殺させてくれりゃあ今回は見逃してやるからよ、どいてくれねぇか?オケアノス。」
「残念だが、それはできないな。」
藍田は複数の水筒を取り出す。
「いいか?少年。僕たち”支配者”は様々な概念やモノに対し、干渉・支配することができる。そして僕が支配するのは“水”だ。」
「“水蛇”」
次の瞬間、水筒の中から蛇の形をした水が複数体飛び出して大男に襲い掛かる。
「ハッ!たかが水だろ?」
大男はそういって右拳を振りかぶり、正拳突きを繰り出す。凄まじい勢いで繰り出された突きは空気を震わせ、衝撃波となって水の蛇を一掃した。
「“ガントレット:Air”こいつで繰り出したパンチは衝撃波を生む!ちんけな水蛇なんざイチコロなんだよ!」
そういって大男は腕につけているガントレットを見せびらかす。
「…”氷結”」
藍田がそういうと、衝撃波を逃れて大男の足元に巻き付いていた水蛇が凍り付き、動きを封じる。
「足元の警戒が甘いようだな。…さて、立てるか?少年。ここは退こう。」
藍田が瞬の手を取って窓から庭へと飛び出す。
(くそっ!まだ腹が痛ぇのに!)
足元をとられた大男は逃げていく二人を見てポケットから硬貨を取り出し、指を構えた。
「Airの神髄はパンチだけじゃねぇ…!」
―ボンッ
轟音とともに男の指から硬貨が弾丸の如く弾き飛ばされる。
攻撃が来ると悟った瞬はとっさに庭にあった木の枝を手に取り、構える。
放たれた硬貨は瞬をめがけて一直線に飛んでいく。
「ぐっ!!!」
瞬が死を覚悟した次の瞬間、木の枝はまるで鋼鉄の盾のように硬貨を防いでいた。
「なんだぁ!?」
大男は驚きの声を上げる。瞬自身もなぜ防げたのか全く分からなかった。
(なんだ今の、とっさに体が動いて防御しちまったけど、なんであんな木の枝であの攻撃を防げたんだ?)
瞬がその枝を手放すと枝は粉々に砕け散ってしまった。
「少年、急ぐぞ!」
2人はすぐにその場を離れ、藍田の言うアジトへと向かうのであった。
***
襲撃を逃れてからしばらく走り、何とか追手を振り切った2人は藍田零の仲間と合流した。そこからは車でアジトまで向かうようだ。ひとまずは安全だということで瞬も少しだけ緊張がほぐれる。
あの大男は一体何だったのか。あのときなぜ木の枝で弾丸のような攻撃を防げたのか。瞬の中で謎は深まるばかりだった。
「クソッ…!!」
考えても答えなど出ない。瞬は唐突に命を狙われたことに、ただただ恐怖と怒りを覚えていた。




