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アナザーウェルト  作者: 赤井直仁
幻想夢想 終わりと始まり
5/13

第5話 銃口と女性

「不浄者め、そこまでだ!」

「動くな!手を頭の後ろに回せ‼」

 彼女は飛び込んだ真を見送っていると、後ろから警備員達の怒号が響き、同時に武器を構える音が耳に入ってきた。彼女は面倒くさそうにため息をつき、指示に従って手を組んだ。

「これでいい?」

「喋るな!大人しくしろ!」

 荒々しい声に、彼女はわずかに眉を下げた。

「いやぁ、ご苦労ご苦労」

 隊列を組む警備員の後方から、重くゆっくり響く拍手と共に一人の男が姿を現した。声色は警備員たちとは対照的に、落ち着きと貫禄を帯びていた。

「お疲れ様です!フラウド隊長!」

 一人の隊員が敬礼をする。フラウドと呼ばれた男は穏やかに微笑み返した。

「一人で敵陣に乗り込み、ここまで派手に暴れたのは大したものだ」

「どうも。そっちも豪華なお出迎えで」

 彼女の余裕ある返答に、フラウドは笑いをこぼした。

「ハハハ、この状況でまだ強気とはね。楽しそうだし、僕とお茶でもどう?」

「悪いけど、遠慮しておくわ」

 彼女がゆっくり振り返ると、警備員たちが一斉に構え直した。しかしフラウドは片手を上げて制した。

 白銀の髪、糸のように細い目。装飾の施された制服とロングコート。三十代前半ほどの男だと彼女は見当をつけた。

「へぇ、お姉さん、随分とお綺麗ですね。思わず見惚れてしまったよ」

「それはどうも」

 彼女はどこか嬉しそうに微笑んだ。

「それに免じて今回は見逃してくれたりしない?ちょっと急いでるのよね」

「フフッ、面白い冗談だ」

 フラウドはゆっくりと腰の後ろに手をのばし、そこから一本の銃を引き抜いた。

 綺麗な木目に、模様が彫られた鉄プレート。まるで、中世の遺物のような銃だ。

「本当は女性相手に乱暴はしたくないのだけれど」

 そう言って、彼は片手で銃口をまっすぐこちらへ向けた。先ほどまでの柔らかい雰囲気は消え、鋭い光だけが瞳に残っている。

「派手に暴れた責任、取ってもらうよ。投降してくれるなら痛い目には遭わせないけど、どうする?」

 しばらく重い沈黙に包まれる。女性は少し考え、口を開いた。

「断ったら?」

 カチッと引き金の音と同時に、彼女の横の花瓶と壁が爆音と共に吹き飛んだ。

 粉々になった破片は跡形もなく、銃口からは白い煙が揺らぐ。

「今のは警告だ。次は外さない」

 低く刺すような声が、さらに空気を冷やした。

「怖い事するじゃない。もっと優しくよ」

「悪いが、不浄者に優しい手段は持っていないのでね」

「だから違うって言ってるのに……」

 彼女が肩を落として嘆くが、返ってくるのは沈黙だけだった。

「さぁ、選べ。投降するか……それとも?」

 照準越しに彼女を捉えたままフラウドが問いかける。今度は彼女が不敵に笑った。

「嫌だね」

「……そうか、残念だ」

 フラウドは引き金に掛かっていた指に力を込めた。


爆技(ばくぎ)菊花火(キクハナビ)


 火花が散り、弾丸は光の線と化して女性の方へ走る。避ける隙などない。直撃した瞬間、鮮やかに煌めく光と共に爆発が廊下を揺らした。轟音が消えるまで、場は完全な静寂に包まれた。


「全員、休め」

 立ち込める砂煙を見つめたままフラウドが言う。隊員たちは緊張を解いた。

「隊長、敵の様子は確認しますか?」

「あぁ。頼むよ」

 敬礼する部下に軽い笑みを返しつつ、フラウドは深呼吸した。

「いやぁ、やりすぎたか。上に怒られそうだ」

 ぼそりと漏らした独り言。

 それに返事が返ってきた。

「本気?これが?」

 フラウドを始め、その場にいた全員が動きを止める。目を見開き、声のした煙の中を見た。

「は……?」

 砂煙の向こうから、瓦礫を背に女性が現れた。

 傷一つない。服が少し汚れた程度。

 そして指先で弾丸をつまんでいた。

「威力も狙いも悪くない。でも、正直全然弱いね」

 彼女は摘んだ弾丸をいとも簡単に指で押し潰す。金属片がカランと床に落ちた。

「嘘だろ……。俺の最高火力だぞ……?」

「あら、そうなの。これで倒せるって、随分甘く見られたものね」

 彼女は、人差し指を立てる。その指先に青白い光が集まり、ピンポン球ほどの球体が生まれた。

「やるからには、もっと派手にやらないとね」

 その顔には、悪そうな笑みが浮かんでいた。

「総員!防御体制を取れ!」

 フラウドは咄嗟に指示を叫び、隊員たちが一斉に踏ん張った。

 先ほどまでの強気な姿勢と表情とは打って変わって、焦りと恐怖の表情を浮かべる彼ら。それを見て、彼女は口角を上げた。

「なーんてね」

 次の瞬間、強烈な閃光が弾け、全員の視界を奪った。

「なッ……!閃光弾だと!」

 フラウドも咄嗟に目を閉じる。目の奥に刺さった光が彼に不快感を与えた。

「それじゃ、またね〜」

 光の向こうから、女性の軽い声が最後に響く。

 情けなくも、フラウドを始め、彼らは追いかけるどころか、様子を確認することすらもできなかった。


 数分後、光が収まり各々隊員たちが目を開く。そこには、廊下には瓦礫と破壊の跡だけが残っていた。標的の姿はもちろん、大きく開いた筈の裂け目はきれいさっぱり姿を消していた。

「クソッ!」

 フラウドは怒りを小石にぶつけて蹴り飛ばした。


 無限に続く廊下に、彼の悔しさだけが空しくこだました。


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