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アナザーウェルト  作者: 赤井直仁
幻想夢想 終わりと始まり
4/13

第4話 覚悟

 真には彼女の笑顔の意味がわからなかった。

 真とその女性は初対面であり、彼女が自分を探していた理由にも心当たりがない。

「ほんとよかった。まだここを離れてなくて助かったよ」

 女性は真へ歩み寄ると、そっと彼の手を握り、安堵の息を漏らした。彼女の手はひんやりと冷たかった。

「早速で申し訳ないけど、ちょっと私と一緒にここを離れてほしいの」 

 突然の言葉に、真は戸惑いを隠せない。

「離れるってどういうことですか?それにあなたは誰なんですか?」

「今は少し詳しく言えないけど、君を本当に死なせるわけにはいけないの。だからお願い。」

 まっすぐ見つめてくるその瞳に、真は返す言葉を失った。死んでいるはずの自分を、「本当に死なせるわけにはいかない」という。その意味が理解できなかった。

 問いただそうと口を開いた瞬間、轟音の警報が辺りに鳴り響いた。

 どこからか複数の足音が近づいてくる。それにいち早く気づいたのは、彼女だった。

「流石にこれだけ派手にやったらバレるか」

 彼女は困ったように周囲を見渡し、何かを決意したように真の手を強く握り直した。

「ごめんだけど、もう無理矢理連れて行くね!」

 そう言って駆け出そうとしたその瞬間。

「そこの侵入者!動くな‼」

「今すぐその青年から離れろ!」

 怒声とともに、剣や槍を構えた警備員数人が彼らの前に立ち塞がった。その刃先は彼女へ向けられている。

「うそ、もう見つかっちゃったじゃん」

 女性は怠そうにため息をついた

「こちらA班、侵入者の不浄者を発見しました!」

 肩のトランシーバーで連絡を取る隊員。それに女性は不機嫌になった。

「失礼だけど、私をあいつらと一緒にしないでいただきたいんですが」

「うるさい!貴様の言うことなど信じられるかよ!」

「今すぐ投降しろ!さもなくばここで殺す!」

 罵声が飛び交い、警備員たちの警戒心は一層高まる。彼女は深いため息をついた。

「信用できないって、まぁそれもそうなるよね〜」

 彼女は、誰も居ない方向へ手をかざす。

 次の瞬間、手のひらが白く光り、壁が爆発音と共に爆散した。

「それじゃ、またね」

 警備員たちが反射的に目を閉じた隙に、彼女は真の手を引いて壁の穴へと飛び込んだ。


 部屋を抜け、永遠に続くような廊下を右往左往しながら進む。その先に警備員たちが現れ、その度に彼女は苛立ちの舌打ちを漏らした。

 数分走り続けたのち、十字路を曲がったところで彼女は足を止めた。

 そこには、空間を裂いた穴が目の前に一つ。人一人が十分に通れるほどの大きさだ。

「やっと着いた〜」

 どうやら目的地らしい。

「え、なんですかこれ……」

 現実離れした光景に、真は思わず身をすくませる。

「これ?あー、私がここに入る時に無理矢理開けた出入り口よ。すごいでしょ!」

 彼女は得意げに言った。真は裂け目の中を覗き込む。

 そこには、不思議な景色が広がっていた。

 遠くに輪郭だけ白く光る球体が浮かび、その方向へ黒と紫の液体のようなものが流れている。背景には、図鑑で見る銀河のような神秘的な光景が広がり、綺麗で、どこか不気味だった。

「すごく綺麗な場所ですね」

「外見だけならね。綺麗なのは否定しないよ」

「え?どういうことですか?」

「まぁ、君もその正体を知ればわかるよ」

 彼女は言葉を濁した。その横顔はどこか寂しげだった。


「見つけたぞ‼︎」

 遠くで警備員の声がする。二人は現実へ引き戻される。

「あーもう!追いつかれるじゃん!ほんとしつこいな」

 彼女は真に向き直る。

「それじゃ君、私が足止めしてるから、その間に先に行って」

「行くって、まさか……」

 嫌な予感が頭をよぎるが、それはやはり的中した。

「そうだよ。この中だよ」

 恐怖が込み上げ、真は裂け目から身を引いた。

 彼女は咄嗟に真の肩を掴む。

「大丈夫。ちょっと高いように見えるけど実際はそんなことないし、中に入っても少し具合悪くなるだけだから」

「いやでも……怖いですよ!」

「一度入った私が言ってるんだから大丈夫!」

 彼女は自信満々にグッドサインを見せた。

「今会ったばかりだから信用はしづらいかもだけど、信じて欲しい。これは絶対、君にとって大事な選択になるから。

 その瞳に射抜かれ、真は反論の言葉を飲み込む。

 彼女の言葉に後押しされて、真は再度裂け目と向き合った。

 現実離れした景色と、短時間で起きた出来事の連続で、何が正しいのかすら彼には分からない。

 混乱の中で、半ばヤケになりながらも真は覚悟を固める。ひと呼吸置き、彼は彼女のいう選択へと飛び込んだ。


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