第4話 覚悟
真には彼女の笑顔の意味がわからなかった。
真とその女性は初対面であり、彼女が自分を探していた理由にも心当たりがない。
「ほんとよかった。まだここを離れてなくて助かったよ」
女性は真へ歩み寄ると、そっと彼の手を握り、安堵の息を漏らした。彼女の手はひんやりと冷たかった。
「早速で申し訳ないけど、ちょっと私と一緒にここを離れてほしいの」
突然の言葉に、真は戸惑いを隠せない。
「離れるってどういうことですか?それにあなたは誰なんですか?」
「今は少し詳しく言えないけど、君を本当に死なせるわけにはいけないの。だからお願い。」
まっすぐ見つめてくるその瞳に、真は返す言葉を失った。死んでいるはずの自分を、「本当に死なせるわけにはいかない」という。その意味が理解できなかった。
問いただそうと口を開いた瞬間、轟音の警報が辺りに鳴り響いた。
どこからか複数の足音が近づいてくる。それにいち早く気づいたのは、彼女だった。
「流石にこれだけ派手にやったらバレるか」
彼女は困ったように周囲を見渡し、何かを決意したように真の手を強く握り直した。
「ごめんだけど、もう無理矢理連れて行くね!」
そう言って駆け出そうとしたその瞬間。
「そこの侵入者!動くな‼」
「今すぐその青年から離れろ!」
怒声とともに、剣や槍を構えた警備員数人が彼らの前に立ち塞がった。その刃先は彼女へ向けられている。
「うそ、もう見つかっちゃったじゃん」
女性は怠そうにため息をついた
「こちらA班、侵入者の不浄者を発見しました!」
肩のトランシーバーで連絡を取る隊員。それに女性は不機嫌になった。
「失礼だけど、私をあいつらと一緒にしないでいただきたいんですが」
「うるさい!貴様の言うことなど信じられるかよ!」
「今すぐ投降しろ!さもなくばここで殺す!」
罵声が飛び交い、警備員たちの警戒心は一層高まる。彼女は深いため息をついた。
「信用できないって、まぁそれもそうなるよね〜」
彼女は、誰も居ない方向へ手をかざす。
次の瞬間、手のひらが白く光り、壁が爆発音と共に爆散した。
「それじゃ、またね」
警備員たちが反射的に目を閉じた隙に、彼女は真の手を引いて壁の穴へと飛び込んだ。
部屋を抜け、永遠に続くような廊下を右往左往しながら進む。その先に警備員たちが現れ、その度に彼女は苛立ちの舌打ちを漏らした。
数分走り続けたのち、十字路を曲がったところで彼女は足を止めた。
そこには、空間を裂いた穴が目の前に一つ。人一人が十分に通れるほどの大きさだ。
「やっと着いた〜」
どうやら目的地らしい。
「え、なんですかこれ……」
現実離れした光景に、真は思わず身をすくませる。
「これ?あー、私がここに入る時に無理矢理開けた出入り口よ。すごいでしょ!」
彼女は得意げに言った。真は裂け目の中を覗き込む。
そこには、不思議な景色が広がっていた。
遠くに輪郭だけ白く光る球体が浮かび、その方向へ黒と紫の液体のようなものが流れている。背景には、図鑑で見る銀河のような神秘的な光景が広がり、綺麗で、どこか不気味だった。
「すごく綺麗な場所ですね」
「外見だけならね。綺麗なのは否定しないよ」
「え?どういうことですか?」
「まぁ、君もその正体を知ればわかるよ」
彼女は言葉を濁した。その横顔はどこか寂しげだった。
「見つけたぞ‼︎」
遠くで警備員の声がする。二人は現実へ引き戻される。
「あーもう!追いつかれるじゃん!ほんとしつこいな」
彼女は真に向き直る。
「それじゃ君、私が足止めしてるから、その間に先に行って」
「行くって、まさか……」
嫌な予感が頭をよぎるが、それはやはり的中した。
「そうだよ。この中だよ」
恐怖が込み上げ、真は裂け目から身を引いた。
彼女は咄嗟に真の肩を掴む。
「大丈夫。ちょっと高いように見えるけど実際はそんなことないし、中に入っても少し具合悪くなるだけだから」
「いやでも……怖いですよ!」
「一度入った私が言ってるんだから大丈夫!」
彼女は自信満々にグッドサインを見せた。
「今会ったばかりだから信用はしづらいかもだけど、信じて欲しい。これは絶対、君にとって大事な選択になるから。
その瞳に射抜かれ、真は反論の言葉を飲み込む。
彼女の言葉に後押しされて、真は再度裂け目と向き合った。
現実離れした景色と、短時間で起きた出来事の連続で、何が正しいのかすら彼には分からない。
混乱の中で、半ばヤケになりながらも真は覚悟を固める。ひと呼吸置き、彼は彼女のいう選択へと飛び込んだ。




