7 世界樹の影
カイがついに眠気に負けて倒れてしまったため、一旦の解散となった。
遺跡研究所の一角、ゼフィルに与えられた個室。
壁一面に書籍と書類が押し込まれ、長く閉ざされていたカーテンを久々に開けると、薄曇りの光が差し込んだ。
助手が整理したのだろう、棚から目的の本を探し出す。
いくつか手に取って床に座り込む。
伝承を集めた書物を開き、ページを繰った。
「ド……ドライアド、か」
そこに描かれていたのは、華奢で美しい少女の挿絵。
パタンと本を閉じる。
「……調べるだけ無駄だな。記述のすべてが信用ならん。本人に聞いたほうが早い」
代わりに「世界樹」についての記述を探す。
遺跡探索のたび、壁画や碑文で何度も見かけた名前だ。
――世界の中心にあり、世界を支える。
――天界や冥界と繋がる。
――怪物の上に生えている。
断片的で、互いに矛盾する記述ばかり。
だが、どの時代も、世界樹を神聖視し、畏怖の念を抱いていたことだけは確かだった。
視界が揺れる。
文字が揺れているのか、自分の意識が揺らいでいるのか――。
目を閉じ、片手で額を押さえ、眩暈が過ぎ去るのを待つ。
ドライアドが「あれは世界樹の種だ」と断じたとき、なぜか妙に腑に落ちてしまった自分がいた。
だからこそ、この不快な酩酊感に囚われているのではないか、と。
理屈のわからないものに振り回されるのは、最も嫌うところだ。
未知の砂漠に一人取り残され、足元から砂に呑まれていくような――そんな焦燥感が胸を締め付ける。
ポツリ、ポツリ……。
窓ガラスに雨粒が打ちつけ始めた。すぐに大雨になるだろう。