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5 夜半の訪問者

「……ということがあった!」

 憤慨しつつゼフィルは、先ほど出会った女のことをカイに一気にまくし立てた。

 居間のソファに座るカイは、腕を組んだまま半分眠そうに船を漕いでいる。


「ふぁ……。うん、僕が言いたいことは一つ。……とりあえず、帰ってくれない?」

「全く! あの女は!!」

 ゼフィルはテーブルを叩く。

「うわぁ……。聞いてないし」


 やれやれとカイは立ち上がり、眠気覚ましにコーヒーを淹れる準備を始めた。

 卓上の火口に、掌ほどの青白い石を載せる。石はかすかに光り、ようやく小さな炎を灯す。


 ――魔石。


 今では誰の家にもある、日用品だ。

 火を点ける、水を少し出す、風を送る……用途はその程度。

 一度に出せる水など、手桶一杯がせいぜいで、各家庭は結局、雨水や貯水槽に頼っている。


 はるか昔にはもっと多様な「魔術」があったらしいが、そんなものは伝承や古書の中の話。

 現代に生きるゼフィルとカイにとっては、遠い時代の夢物語に過ぎなかった。


 部屋にコーヒーの香りが漂い始めた頃――



「たのもぉーーーっ!!!」



 地響きのような大声が響いた。


「え!? 何!? 奇襲!?」

 カイは慌てて寝巻きの上から羽織を引っかけ、外へ飛び出す。

 ゼフィルは聞き覚えのある声に「いや、まさかな」と呟きつつ、気怠げに後を追った。


 月明かりに照らされた巨大温室の脇に、背の高い女が立っていた。

 鍛えられた手足を大胆に露出した緑の衣、肩に担がれた斧、焦茶の髪が風に靡く。


「ここに――偉大なる植物学者がいると聞いて来た! ご存じかっ!」


「え……? 偉大かどうかは分かりませんが、僕は植物学者のカイ・ノワールと申します」


「やはりお前かっ!」


 いちいち耳を劈くような声量である。


「偉大なる植物学者に問いたいことがある!」

「……時間を改めていただけませんかね」


 のんびり現れたゼフィルが、髪をかきあげて気だるげに言った。

「夜中に押しかけるとは、非常識だな」

「君が言う!?」とカイが叫ぶ。


「あっ、お前は龍の子か! だが私はこの偉大なる植物学者に用があるのだ。なぜ教えなかった!」

「そんなこと知るか」

「……僕の声って二人には届いてないのでは?」


「偉大なる植物学者!」

「はいはい」カイは諦め顔で返す。


「こう、ふわっとしてガツンとしたやつを見なかったか!?」

「ふわっ……?」

 夜空に梟の声が響き、カイは早くも疲労感を覚えた。


「ふわふわの羽があって、その下に茶色く硬い、ギュッとした丸い実がついている!」


 カイの表情が固まる。

「……知ってる」


 背後でゼフィルが欠伸をかみ殺した。だがカイは顔を青ざめさせる。

 あの種が、とんでもない代物なのではないか――。

 その予感だけが、夜の空気に重く漂っていた。


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